Episode 130
「それでは、はじめ!」
レイフォンが参加者達に向けて挑発を行ったあと、すぐにアスラ伯爵のかけ声により鬼ごっこははじまった。
はじまりと同時に逃げ出すレイフォンと、それを追いかける参加者達。
鬼となる参加者達は皆、赤い布を腕に巻いている。
レイフォンは青い布。
(今回は逃げる時間もないのかよ。まっ、別にいいんだけどな)
「おら! 待てやこら!」
「逃げんじゃねぇ! ボケ!」
(そんな叫びながら追いかけてたら疲れるだろうに、バカだな)
レイフォンは叫びながら追いかけてくる、いきり立った参加者達を振り向き見ながら、余裕の表情を浮かべて走り逃げていた。
(つか、アシュリーとミリベアスの姿が見えないな? 俺を捕まえられるとしたらあのふたりだと思ったけど、まっ、いいか)
「ほらほら、そんなんじゃ俺は捕まえられませんよ? っと」
真っ先に先頭で追いかけてくると思われたふたりの姿が見えないことが少し気になったレイフォン。
だが、レイフォンはすぐに気にすることなく参加者達に挑発をして、建物の上にジャンプをして上がった。
「くそ! 降りてきやがれ!」
「なんてジャンプしやがるんだあいつ」
「おい、先回りするぞ!」
「おう!」
(こんなんじゃ今回も余裕で逃げ切れるな)
建物の上から見下げる参加者達を見てレイフォンはそう思ったのであった。
ーー
その頃、アシュリーとミリベアスふたりはまだ、広場からそう離れていない場所にいた。
「アシュリー? レイフォンの姿が見えなくなったのだけれどわたくし達は追わなくて大丈夫なの?」
「大丈夫よミリベアス。レイの場所はわかっているわ」
『カシ、ヤン? レイは今どうしてる?』
『レイフォン様は今、建物の上に立ち参加者達を見下げている』
『茶色い建物のだぜアシュリー』
『なるほど、ありがとう。そのままレイの監視をお願いね』
『うむ』
『まかしとけ!』
アシュリーは双炎竜姉妹に協力をして貰い、レイフォンの場所と行動を把握していた。
「ふ~ん。それはアシュリーの魔法かしら?」
ミリベアスは双炎竜姉妹のことは知らないが、アシュリーがなにかしらの魔法を使っていると思っていた。
「まっ、そうね。魔法を使ってはいけないなんてルールにはなかったんだしね」
「そうね。けどそれはレイフォンも一緒でしょ? 正直、レイフォンに魔法を使われたらわたくしだってお手上げよ?」
「それは大丈夫よ。あいつは、レイは魔法は使わないわ」
ミリベアスの問いにアシュリーは自信ありげに答えた。
「そうなの? 正妻のアシュリーがそう言うならきっとそうなのね」
「そういうこと、って! ど、どうして今そんな言葉が出てくるのよ!」
「あら? アシュリーはレイフォンを捕まえてお嫁さんにならないの?」
「いや……そうじゃなくて……集中できないから今はその話はやめてよミリベアス」
アシュリーの顔は赤かった。
(せっかく忘れてたのに……)
「まっ、いいわ。それより少しは追いかけた方がいいんじゃないのかしら? いくらレイフォンの場所がわかっていても離れすぎていては意味がないでしょ?」
「そ、そうね。なら行きましょう」
足を進めだしたアシュリー。
「ちょっと待ちなさいアシュリー。そっちはレイフォンが逃げた反対方向よ? そっちにレイフォンはいるのかしら?」
「…………」
ミリベアスに指摘されたアシュリーは恥ずかしそうに無言のまま方向転換をし再び進み歩きだした。
「アシュリー、貴女、動揺しすぎよ」
「ど、動揺なんてしてないもん! ほら、早く行くわよ!」
そして、動揺を隠す為なのかひとり先に走り出したアシュリーは
(もうもう、全部全部レイのせいなんだからね!)
とレイフォンのせいにしていた。
そんなアシュリーを追いかけるミリベアスは
(この娘も見てて飽きないわね)
と楽しそうに微笑みを浮かべて思っていたのであった。
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