Episode 128
握手会も終わり、やっと解放されたアシュリーは疲れていた。
「お疲れ様ですアシュリー。はい、これどうぞ」
「ありがとうマリベル」
マリベルに手渡された飲み物を一気に飲み干すアシュリー。
「ぷは~ 生き返るわ」
「アシュ姉さんこれもどうぞ」
「はい、これも~」
アイラとルンが差し出したのは揚げたパンと細くカットした芋を揚げたもの。
「ありがとうふたりとも。ーーパクっ ん!?」
パンを一口食べたアシュリーは少し驚いた表情を見せた。
「どうだアシュ? 旨いだろ?」
「これってパンの中身、ビーフシチューよね? まさかパンの中からビーフシチューが現れるなんてね。パンの表面はサクッとしていて中はふわふわだし、それだけでも驚いたのに、さらにとろっとしたビーフシチューがなんて……何このパン。凄くおいしい。パクっ」
感想を述べたあと再びパンにかぶりつくアシュリー。
「だろ? 本当だったら揚げたてのがもっと旨いんだろうけど、もう完売してしまってるからな。けど、食べられるだけありがたく思えよ? つかこれ、パン屋と定食屋のコラボらしいぜ。ほら、そっちの芋の方も食べてみろよ。そっちはまだ温かいからな」
「コラボ? よくわからないけどこの長いのね? ーーパクっ ん!? こっちもおいしいわ。これってもしかしてお芋? 味付けは塩、かしら? なのにどうしてこんなにおいしいの? カリホクだし」
「素材の芋がいいのもあるけと、カリホクなのは芋の切り方と揚げ方だろうな。それにしてもカレーパンならずビーフシチューパンにポテトフライを作ってしまうとは定食屋の店長って何者なんだろうな」
「カレーパン? ポテトフライ?」
「カレーってのはビーフシチューに似た食べ物で異世界の食べ物。そしてポテトフライってのはこの切って揚げた芋の異世界での名前だな」
「なるほどね。言われてもわからないけど、ポテトフライってネーミングはいいと思うわよ」
「俺が考えたわけじゃないけどな。それに、異世界知識のおかげで名前や情報は頭に入ってくるけど実物や味なんかは知らないからな」
「ふ~ん、ってあれ? 四人はどこへ行ったの?」
「ああ、あいつらならまた、ポテトフライを買いにいってるんだろうな? ビーフシチューパンは売り切れだけどな」
屋台に並ぶ4人を指差し答えたレイフォン。
「ビーフシチューパンはもちろんだけど、このポテトフライってのもおいしいものね。私ももう少し食べたいわ。レイも並んで私の為に買ってきなさい」
「いつの間に完食したんだよ? つか何で俺が買ってこなくちゃならないんだよ?」
アシュリーに呆れた表情を浮かべて言葉を返すレイフォン。
「私は疲れてるの。わかるでしょ?」
「わかるけど、俺は関係ないからな? それにちゃんとアシュの分も買っといただろ? まだ食べたいなら自分で並んで買ってこいよ」
「私の命令が聞けないの?」
「ああ、聞けないな。俺に言うこと聞かせたらかったら鬼ごっこで俺を捕まえることだな」
「そういえば……もうすぐ鬼ごっこだったわね」
握手会とレイフォンのスイッチが切れてることにより、鬼ごっこのことを忘れかけていたアシュリー。
「まっ、そういうことだ。俺は捕まらないけどな」
「レイ、貴方のその顔ムカつくわね」
余裕そうな笑顔で答えたレイフォンを見たアシュリーは、目元をピクっと動かしたあと言葉を返した。
「本当のことだから仕方ないだろ? ほら、あいつらが戻って来くるぞ」
満足そうにポテトフライを手に持ち、レイフォンとアシュリーがいる場所に戻って来ている四人。
「……余裕の表情を浮かべられるのは今だけよレイ」
笑顔で手を振ってきていたルンに応えるように手を振り返していたレイフォンには、アシュリーの呟きは聞こえていなかったのであった。
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