Episode 124
屋敷に帰ったアシュリーが父アスラ伯爵に鬼ごっこの話をしてから開催が決まるまでは早かった。
愛する娘からのお願いである。
アスラ伯爵が断るはずがなかったのだ。
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『第二回テスターの街大鬼ごっこ』
ルール
・参加者は鬼となり制限時間の三時間以内にレイフォンを捕まえること。 ※終了の合図は夕方の鐘の音とする。
・範囲は街全体。 ※室内、配られた地図に記載された一部の場所は禁止。
・レイフォンを見事捕まえた者には賞金三百万SLとレイフォンの一日を自由にすることができる権利を与える。
・レイフォンが捕まらなかった場合は賞金三百万SLと参加者の参加料金全てがレイフォンに与えられる。
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大まかなルールも決まり翌日には街全体に大規模鬼ごっこの話は広まった。
レイフォンのことも一昨年に開催された大規模鬼ごっこのこともよく知るテスターの街の人達は皆、やる気を出していた。
参加を表明した人達はもちろん、それ以外の人達も、例えば店をやってる人は屋台を出そうなど言いだし、別の人は誰がレイフォン捕まえるか、それとも捕まらないかとの賭けをしようなどと各々に盛り上がってきていた。
大規模鬼ごっこの話と決まったのは昨日。
そして、街に伝わり広まったのは今日。
開催はなんと明日。
そんな急に決まったイベントなのだが、テスター街の人達の協力が凄く、暗くなる頃には準備が整えられていた。
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その頃レイフォンはアシュリーの屋敷にアイラとルンの2人の姉妹を連れて訪れていた。
「伯爵様、残念ですけど今回も俺が逃げ切って勝ちますよ?」
「ほう、強気じゃないかレイフォン? だがしかし今回は既に千人近くの参加者を越えている。参加の締め切りは直前まで行うので明日には間違いなく越えるだろうな。それでも逃げ切る自信があるのか?」
レイフォンは屋敷で食事をご馳走になったあと、アスラ伯爵と2人で話をしていた。
女性達は今、皆で屋敷の大きな風呂に入っている。
「あるに決まってるじゃないですか? けどよくもまぁ、昨日の今日でそんなに集まりましたね?」
「私の、いや、テスターの街の人々は皆、ノリが良くて楽しいことが好きだからな。それに、一昨年も盛り上がったし、レイフォンを捕まえれなかった悔しさもあるのだろう」
「伯爵様もですよね?」
「まあな」
アスラ伯爵は楽しそうな表情を見せてレイフォンに言葉を返した。
「さっきも言いましたけど今回も俺が逃げ切って勝ち、金も全て俺のものになりますよ? だから先に言っておきます……ごちそうさまです」
ニヤっとしたイタズラっ子のような歯を見せた笑顔を、レイフォンはアスラ伯爵に向けて見せた。
鬼ごっこの主催者はアスラ伯爵となっていた。
「なら、賭けをしようじゃないかレイフォン」
「賭けですか?」
「そうだ。もし、レイフォンが捕まったら私の息子になれ」
「まだそんなことを言ってるんですか伯爵様は?」
「悪いか?」
こちらもニヤっした笑顔を見せたアスラ伯爵。
レイフォンは苦笑いである。
「わかりました。ならもし、いや、絶対に逃げ切り勝ちますけど、俺が勝ったらあいつらのことをよろしくお願いします」
「あいつらとはレイフォンが妹にしたあの姉妹か?」
「はい」
「わかった。私に任せろ」
「ありがとうございます」
頭を下げるレイフォン。
アスラ伯爵は賭けに勝とうが負けようがそのつもりでいた。
また、レイフォンも自分が負けようとも(勝つ自信しかないが)アスラ伯爵なら姉妹を見守ってくれるとわかっていた。
ただ、レイフォンには自分が勝った場合の何かを求めたいことはなく、言っただけのことであった。
それはアスラ伯爵もわかっていたようで、だから何も言わずに頷いただけだったのである。
「よし。賭けは成立だな」
「そうですね」
「なら、アシュリー達が風呂からあがったら私達も風呂に一緒に入ろうじゃないか息子よ」
「残念ですけど息子にはなりませんよ伯爵様」
向かい合い、互いに笑顔のを見せ合うふたりは、まるで本当の父息子のようだった。
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