Episode 121
冒険者ギルドに現れたアシュリー。
アシュリーに覚えられていないチャドは床に尻餅をついたまま項垂れている。
酔っぱらい冒険者達は酒が抜けたかのように驚きの表情を見せていた。
まさか『英雄の女神様』とまで呼ばれるようになったアシュリーが普通にギルドに訪れてくるとは思っていなかったからである。
「それでレイ? この変な人は? レイの知り合いなの?」
「アシュ……覚えてないのか?」
「ん? 記憶にはないわよ?」
(こいつ、ひでぇー)
チャドはさらに深く項垂れていた。
「こいつはチャドだよ。アシュに何回もアタック(告白)してただろ昔から?」
「私にアタック(攻撃)? 私の敵なのこの人?」
名前を聞いてもわからないアシュリー。
「そのアタックじゃねぇよ。こいつの顔をよく見て思い出してみろよ。おい、チャド? 項垂れてないでアシュに顔を見せてやれ」
「む、無理だ……」
「なんでだよ?」
「ま、まともにアシュリー様のお顔なんて見れないでござる……」
チャドがレイフォンに言葉を返したその直後。
「あっ! 思い出したわ! 私によくわけのわからないことを言ってきてた人だわ。 いつも、うつ向いてたり目を瞑ってたりしながら」
アシュリーは思い出したように言葉にした。
「チャド? そうなのか?」
どのようにアシュリーに告白をしていたかまでは知らないレイフォンはチャドに問いかけた。
「し、仕方ないのでござる……間近ではその……あれでござる……」
(よくそんなんでアシュリーに何回も告白できたなこいつ。アシュは告白とも気づいていなかったみたいだけど。つか、ござるってなんだよ? 侍かよ)
「とりあえずチャド、お前は出直してこい」
「わ、わかった」
そう言ってチャドはアシュリーの顔を見ないようにギルドから足早に去っていった。
チャドが去ったあと。
「レイ? なんだったのあれ?」
「悪いが俺にもうまくは説明できない」
「そう、なの?」
レイフォンの答えにアシュリーは首を傾げていた。
「この街にはよくわからない人が多いのね?」
「ミリベアス! アシュリーのお父様はよくわからない人ではないですよ!」
状況を黙って見ていたアシュリーのうしろにいた2人、ミリベアスが言葉を発し、マリベルがそのあと続いた。
「マ、マリベル……」
マリベルの言葉にアシュリーは苦笑いを浮かべている。
「そういえば、お前らもいたな」
「ずっといたわよ。ひどいわレイフォン」
「そういえばレイフォンさんもよくわからない人ですよね?」
「よし、とりあえずマリベル、お前は黙れ」
「ん?」
マリベルはどうして? といった表情で首を傾げた。
「レイフォン? 私には何も言葉を返してくれないのかしら?」
「わかった。お前も黙っとけ」
「ひどいわレイフォン」
しかし、ミリベアスは少し嬉しそうな表情を見せていた。
「つか、アシュ?」
「何よ?」
「まずは言うことがあるんじゃないか?」
そう言ってギルド内にいる人達を見渡すようにして見せたレイフォン。
皆、笑顔である。
「あっ……」
「気づいたか? ならわかってるだろ?」
「うん……皆様ーー」
アシュリーが気づき、ギルド内の人達に挨拶の言葉をかけようとした時
「「「「「アシュリー様おかえり!」」」」」
一斉にアシュリーに向け声がかかった。
一瞬、呆気にとられたアシュリー。
「……ただいま皆様!」
だが、すぐにアシュリーは皆に向けて笑顔を見せて言葉を返したのであった。
「ほら、お前らも紹介してやるからもうちょっと前に出てこいよ?」
アシュリーから少し離れて見ていたミリベアスとマリベルにレイフォンは声をかけた。
「レイフォンはやっとその気になったのね?」
右手を口に押さえてうっすら微笑むミリベアス。
「どの気だよ?」
「その……まだ早い気がします……」
両手を頬に押さえて顔を赤くさせるマリベル。
「何を思ったかは知らないけど喋るなよ?」
紹介するのをやめようかと思う呆れ顔のレイフォン。
それから
結局はちゃんとふたりを紹介をしたレイフォン。
簡単に旅の仲間であることと名前を伝えただけ。
レイフォンが紹介し、ふたりにはよろしく以外の言葉を言わせなかったのであった。
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