Episode 118
アシュリーのふたつ名『英雄の女神様』。
近々開催される『世界武道大会』。
テスターの街にも情報は流れてきていた。
テスターの街に帰ってきた翌日の朝。
「じゃあ私とルンはお仕事に行ってくるね」
「ああ、頑張ってこいよ」
「うん、行ってきますレイ兄さん」
「いってきますレイお兄ちゃん!」
今日も仕事だというアイラとルンを見送ったレイフォンはひとりになった家で、今日は何をしようか考えていた。
(やっぱり挨拶だよな。昨日は定食屋に行ってそのまま家に帰ってきたし)
そう思いレイフォンも家を出たのであった。
ーー
久しぶりのテスターの街並みを見ながら歩くレイフォン。
すると
「おっ! レイフォンじゃねぇか!」
「あっ、本当だ!」
「レイフォン!」
「昨日、帰ってきたって聞いてたけど、本当に帰ってきたんだなお前」
「おかえり!」
「おかえりレイフォン!」
レイフォンに気づいた街の人達が集まってきて話しかけてきた。
「お久しぶりです皆さん。また、すぐに旅に出ると思いますけど、とりあえずただいまです」
集まってきた街の人達は皆、笑顔。
「そっか、けど元気そうで良かったぜ」
「何か少しだけたくましくなったかお前?」
「ありがとうございます。たくましくですか? 自分ではよくわかりませんね」
「まっ、そういうのは自分ではわからないもんだよな」
「だな。けど、やっぱりこの街にはお前とアシュリー様がいないとあれだよな?」
「あれですか?」
「つまらないってことだよレイフォン。アシュリー様との姉弟喧嘩はこの街には馴染みになってたからな」
「だな」
楽しそうに話す街の男性2人。
(あれは……喧嘩というか、俺が一方的にいじめられていたような……つか、姉弟じゃないし)
「いつもお優しいアシュリー様があんな態度で接するのはお前だけだったからな」
「そうそう。結構羨ましがってた男達は多かったんだぞレイフォン」
(それはただのMだろう……手加減なしで木剣を振りかざしてくるんだぞ? 今は魔法剣な)
「まっ、少しの間だろうが街の皆はお前とアシュリー様が帰ってきたことを喜んでるぜ」
「お前もだろう?」
「アシュリー様が帰ってきたことにはな。こいつは知らねぇよ」
顔を少し赤くさせた男性。
「なんでそこで照れるんだよお前……」
男性2人のやりとりに集まってきていた街の人達から笑いがあがった。
そんな光景をレイフォンは懐かしく
そして、帰ってきたんだと思いながら見ていた。
(ただいま)
ーー
テスターの街の冒険者ギルド。
レイフォンが中に入ると
「おかえりレイフォン君!」
「「「おかえりレイフォン!」」」
ギルド受付担当職員ミリアの言葉を合図に、クラッカーのような物でギルドにいた冒険者達に出迎えられたレイフォン。
レイフォンは目を丸くして固まっていた。
「驚いた? レイフォン君?」
「えっ? あっ、はい」
驚いた表情を見せているレイフォンの姿を見て、嬉しそうな表情を浮かべたミリア。
冒険者達も楽しそうに笑っている。
「レイフォン、お前がギルドに向かってるって聞いたから俺達でお前を驚かせてやろうと思ってな」
「成功だな」
「おう!」
ハイタッチをしはじめる冒険者達。
「あっ、その少しだけ混乱してるんですけど、ありがとうございます。そして……ただいまです」
「「「「おかえり!」」」」
ギルド内はあまり人はいなかったが、それでもギルド総出でのサプライズにレイフォンは本当に嬉しく思っていた。
「アシュリー様は……流石に今のアシュリー様は街を簡単に歩けないわよね」
しばらく、国外を旅をしていたレイフォンとアシュリーは知らなかったが、今のアシュリーはウェスタリア王国では勇者以上に人気を博していた。
流石『英雄の女神様』である。
王都にいた頃を思いだし、ミリアが言いたかったことを理解したレイフォン。
「どうですかね? 他の街ならともかくこの街ならあいつは普通に歩きまわると思いますよ?」
「そう?」
「だってあいつが屋敷に籠りっぱなしなんて想像できます?」
「そうね……レイフォン君じゃあるまいしね」
「どうしてそこで俺の名前が出るんですか……」
「あっ、ごめんなさい、つい」
口を押さえて謝るミリア。
「おいおいレイフォン。本当のことだろう? お前はアシュリー様がいなかったらずっと家に引き籠っていただろうが?」
冒険者の言葉に否定はできないレイフォン。
「俺は自宅を警備してるだったか?」
「懐かしいな」
「まっ、アシュリー様にすぐに「ふざけるな」って追いかけられていたけどな」
「だな」
ギルド内が笑いで包まれた。
(知らないのか? 異世界には自宅警備って仕事があるんだぞ?)
話を聞いていたレイフォンはそう思ったのであった。
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