Episode 117
約半年ぶりの我が家。
椅子に座ったレイフォンは見渡していた。
「レイ兄さんどうかした?」
「いや、俺が住んでた時よりキレイに片付いているなって思ってな」
「ああ……」
はじめてこの家に来た時を思いだし苦笑いを浮かべたアイラ。
「生活感溢れすぎる家だったからね」
「濁さなくても別に汚かったって言ってもいいぞ? 自覚はあったからな」
「自覚はあったんだ……」
「すご~く汚かったよねアイラお姉ちゃん?」
「そ、そうね……」
はっきりと言ったルンに、まだ気を使ってか言いにくそうに答えたアイラ。
レイフォンは命の恩人でもあり、新たな人生を与えてくれた人だ。
流石にはっきりとは言えなかった。
「そうか……だよな。片付けてくれてサンキューな」
「その……私達のほうこそありがとうございました」
「ありがとうレイお兄ちゃん!」
「ん?」
自分がなぜお礼を言われたかわかっていないレイフォン。
「ルンとも話してたんだけどね。レイ兄さんがこの街に帰ってきたらありがとうって伝えるって決めていたの。レイ兄さんのおかげで今はこうして毎日、楽しく生活を送れているから」
「うん! だからありがとうレイお兄ちゃん!」
穏やかな表情のアイラと元気な笑顔のルン。
「そうか。けど、俺はただきっかけを与えただけにすぎない。だから今、お前達が楽しく思って生活を送れているのはふたりが頑張ってるからだろ? 定食屋で働いているんだろ? 奥さんもしっかり働いてくれて助かってるって言っていたしな」
「うん」
「うん!」
「それでね……少ないんだけどこれをレイ兄さんに」
そう言ってアイラは小さな袋をレイフォンに差し出してきた。
「これは?」
「少ないですけどお金です」
「そうか……って、アホっ!」
「痛っ!」
袋を受けとるふりをしてアイラの額にデコピンをしたレイフォン。
「アイラもルンも俺の妹だろ? この家も、もうふたりの家でもあるんだ。そんな気をつかうな」
「でも……」
額を押さえているアイラ。
「でもじゃねぇんだよ。そんな俺に渡す余裕があるなら自分達のやりたいことでも考えて、それに使えよ。わかったな?」
「……うん」
渋々納得した、そんな表情を見せたアイラ。
ルンの目も治り、充実した毎日。
そんなアイラはレイフォンに言われるまでやりたいこなどは考えたことがなかった。
「ちなみに、レイ兄さんのやりたいことは?」
「俺か? 俺のは参考にならないぞ? つか、するな」
「どうして?」
「俺は何もやりたくないからだ。仕事も何もせずにのんびりと暮らしたい。これが俺のやりたいことだからな」
「やりたくないことがやりたい、こと?」
「わたしもそれやりたい!」
話を聞いていたルンが言葉を発してきた。
「駄目だルン。そんなのをやりたいことだと言う人間はろくな大人にならないぞ?」
「そうなの?」
忠告するレイフォンをルンは首を傾げて見つめていた。
「レ、レイ兄さんはいいの?」
「俺か? 俺はいいんだ。俺だからな」
なぜか胸を張って答えたレイフォン。
そんなレイフォンにアイラは呆れた表情を見せていた。
(街の人が言っていた、レイ兄さんはダメなやつって意味が少しだけわかった気がするかも)
「どうしたアイラ?」
「ううん、何でもない」
街の人の評判は若干良くないレイフォン。
嫌われているとかではなく、怠け者と言う意味でである。
むしろ、それがレイフォンらしく、逆に街の人達に慕われていた。
怠け者の弟レイフォンとしっかり者の姉アシュリー。
テスターの街の人達の認識である。
だけど、アイラは知っている。
レイフォンが本当は凄い人物であることを。
「ふふっ」
街の人達は知らないレイフォンを自分は知ってると思ったら、嬉しく、そして誇らしく思い、笑ってしまったアイラ。
「つぎは笑いだしてどうした?」
「何でもないよ。レイ兄さんはやるときはやる人だもんね?」
「ん? よくわからないけど、まっ? そうだな、たぶん」
笑顔で尋ねたルンにレイフォンは首を傾げながらも、とりあえず返事をしたのであった。
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