Episode 116
屋敷に到着したアシュリー達三人人。
まるでアシュリーが屋敷に帰ってくることがわかっていたかのように、屋敷の門からドアにかけてメイド達が左右にズラリと並んでいた。
実際、わかっていたのだが。
「「「「「おかえりなさいませ、アシュリーお嬢様」」」」」
一斉に頭を下げて、アシュリー達を出迎えるメイド達。
そして、タイミングよく屋敷のドアから出てきた人物。
「おっ、びっくりした。アシュリーじゃないか? どうしたんだ? びっくりしたじゃないか急に? 本当にびっくりした」
アシュリーの父、アスラ・テンペリス伯爵。
メイドまで配置しておいて、さもアシュリーがこの街に帰って来ていたことをしらなかった風に、妙にわざとらしく驚いた表情を見せたアスラ伯爵にアシュリーは呆れた表情を見せていた。
(意味がわからないわお父様……何がしたいの?)
「あっ……お父様、その、急に帰ってきて驚かせたみたいですみません。色々とありまして少しだけテスターの街に寄らせて、いえ、帰ってきました。本当に急にで申し訳ございません」
「そ、そうだったのか。いや、本当、たまたま屋敷のドアを開けたらアシュリーの姿があったから私はびっくりしてしまったじゃないか、はっはは、びっくりした」
(え? まだ私はお父様のどうでもいい設定にのってあげないといけないの?)
アスラ伯爵はアシュリー達がテスターの街に到着したあとすぐぐらいには報告を受けていた。
すぐにでも愛する娘のアシュリーに会いたいと思ったアスラ伯爵なのだが、何を思ったのかすぐには会いにいかず屋敷で待つことに決めたのだ。
理由はごく最近、目撃した状況である。
自分と同じ、娘が大好きだと思われる父親が、アシュリーと同い年ぐらいの娘に
「私はもう、子供じゃないの? 迎えにくるのとかやめてくれる? キモいわお父さん」
との現場を見てしまい、それを自分と娘アシュリーに置き換えて想像してしまったからである。
もしも、アシュリーにそんなことを言われたら、大袈裟だが自分なら一生立ち直れないと自信があったアスラ伯爵。
なので、アスラ伯爵はすぐにでも会いたい気持ちを押さえて、自分は適度をわきまえた父親だという風に見せる為に、今の自分はアシュリーが帰ってきてることは知らなかった。
ドアを開けたら偶然アシュリーが帰ってきていた。
という設定を実行したのである。
結果、アシュリーにはわけのわからない父親だと思われているわけだが。
「お父様? とりあえず屋敷の中に入らせてもらってもよろしいでしょうか? 友人ふたりも一緒なのですがかまわないですよね?」
「あ、そ、そうだな。本当びっくりしててな、気がつかなくてすまない。自己紹介などは屋敷の中に入ってからしよう。ん? そういえばレイフォンも一緒だと報告では聞いているのだがいないのか?」
「お父様は私が帰ってきていたことは知らなかった設定じゃなかったんですか?」
「そうだったな。では、レイフォンは一緒ではないのか?…………………………ん? 設定だと!?」
今度こそ本当にびっくりした表情を見せたアスラ伯爵。
「ち、違うぞアシュリー? これは設定ではなくーー」
「わかりましたからとりあえず屋敷の中に入りますね? マリベル、ミリベアスごめんね。どうぞ入って?」
「お、おじゃします……」
「おじゃましますわねアシュリーのお父様」
マリベルはえっ? いいの? といった戸惑った表情で、ミリベアスは何ごともなかったように屋敷の中に入っていった。
アスラ伯爵は動揺して固まっていた。
なぜバレたと。
「あっ、お父様? よくわからなかったんですが、普通にしていだけますか?」
そう父アスラ伯爵に言い残し、アシュリーも屋敷の中へと入っていった。
残されたのは手と膝を地面に着き
「こんなはずではなかった……」
と呟くアスラ伯爵と
心の中で
「それはバレるでしょ」
と思っている微妙な表情を浮かべるメイド達であった。
お読み頂きありがとうございました。




