Episode 113
「奥さん、片付け終わりました」
「おわりました!」
「お疲れ様アイラちゃん、ルンちゃん。ちょっと、遅くなったけど休憩にしましょう」
「「はい!」」
テスターの街の定食屋。
アイラとルンのふたりの姉妹はここで働かせてもらっていた。
「じゃあ、夫がまかないを準備してると思うからもってくるわね。ふたりは椅子に座って待っててね」
「「はい、ありがとうございます」」
ここのまかないはふたりにとって楽しみのひとつであった。
奥さんが厨房に向かいいなくなったあと
「アイラお姉ちゃん? 外がなんだかさわがしいね?」
「そうね。ちょっと見てみましょう」
「うん」
そして、姉妹は定食屋のドアを開けて外を見た。
すると
「アシュリー様だ!」
「アシュリー様お帰りなさい!」
「アシュリー様!」
と外には人混みができていた。
「アシュリー、様?」
「確か、領主様の娘さんで勇者様のパーティーメンバーに選ばれて、この街から離れていた方、よね? けど、どうしてそのアシュリー様が?」
街の人達の話によると数年は帰ってこないと聞かされていたアイラは首を傾げていた。
その時
「あっ! レイお兄ちゃんだ!」
「えっ!?」
ルンは人混みのなかに駆け出していた。
「ちょっと! ルン待ちなさい!」
ルンはアイラの呼ぶ声を聞かずに真っ直ぐに姿の見えたレイフォンへと走り進んでいた。
「おっ! レイフォンもいるじゃねぇか!?」
「まじだ!?」
「どうしてお前がアシュリー様といるんだよ?」
「わからないけどレイフォンもお帰り!」
馬車の御者台の席にはレイフォンとアシュリーの姿。
(俺に気づくの遅くないか?)
レイフォンは苦笑いである。
アシュリーは笑顔で「ただいま」と手を振っていた。
テスターの街の門前はちょっとしたパレードみたいになっていた。
「あっ、皆さん久しぶーー」
り、とレイフォンが言おうとした時
「レイお兄ちゃん!」
と7歳ぐらいの少女が馬車の御者台にあがり、レイフォンに抱きついてきた。
「おま! って、ルン? 危ないだろ? 落ちたらどうするんだよ?」
しっかりルンを受けとめたレイフォンは軽い説教をした。
「ごめんなさい……でも……レイお兄ちゃんのすがたが見えてわたしうれしくて……それでね、それでね……」
嬉しいのに泣きそうな表情のルン。
「わかった、わかったから泣くなよ? 久しぶりだなルン」
「……うん! レイお兄ちゃん!」
困ったような表情を浮かべるレイフォンといっぱいの笑顔を見せるルンであった。
ーー
ひとまずあとでと街の人達に伝えたレイフォン達は馬車をとめて、定食屋に訪れていた。
「ほ、本当にレイお兄さんだ! 本物?」
「俺の偽物がいるならつれてこい」
レイフォンが現れたことに驚きをかくせないアイラ。
ルンはレイフォンの膝に座り笑顔の表情を浮かべている。
「アシュリー様、レイ君おかえりなさい」
定食屋の奥さん。
「ひとまずですけどただいまです奥さん」
「ただいま奥さん」
「そちらのおふたりは?」
「わたくしはミリベアス。そして、この娘はマリベル。レイフォンの二番目と三番目の女ですよ。はじめまして奥さんと妹達」
普通に答えるミリベアス。
「まぁ~」
右手を口に当てて小さく驚く奥さん。
「レイ兄さんの女?」
「女?」
こちらも驚くアイラと意味がわかっておらずレイフォンを見上げて首を傾げるルン。
「お前は何を言ってるんだ! つか、マリベルは否定しろ!」
「あっ、その……」
レイフォンの言葉にマリベルはもじもじするだけ。
「間違ったわ。まだ予定だったわね?」
「そんな予定はねぇ!」
そんな様子を見ていたアシュリーは、またはじまったっと思い呆れていた。
アシュリーはミリベアスの言動に少し馴れてしまっていたのだ。
「ふふ、元気そうでよかったわ」
定食屋の奥さんは微笑んでいた。
(レイ兄さんの女……)
アイラは3人の女性達(アシュリー達)を見たあと、考えるような表情を浮かべていたのである。
ちなみに神様は定食屋にはおらず、どこかに行っている。
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