Episode 112
レイフォンは馬車の手綱を握り走らせながら、ひとり子牛が売られていくという悲しいメロディーの歌をうたっていた。
「何よ? その暗い歌は?」
「わ、私……売られるんですか?」
御者台に顔を出して嫌そうな表情を見せているアシュリーと自分は売られるのかと、よくわからない勘違いをしているマリベル。
「それも、いいかもな?」
「ひっ!」
怯えレイフォンにしがみつくマリベル。
「マリベル……冗談よ、レイの冗談」
「本当ですかアシュリー?」
「いや、本気だ」
「ひっ!」
「レ~イ?」
怯えるマリベルの反応が面白いと思ったレイフォン。
しかし、アシュリーがいい加減にしろ、とそんな目でレイフォンを見つめる。
「わかったよ……冗談だ……半分はな」
「は、半分……」
「レイ、貴方ね……」
呆れた表情を浮かべるアシュリー。
「あら? 楽しそうな話をしてるわね?」
「楽しくありません!」
話に加わってきたのはミリベアス。
マリベルはすぐに大声で否定した。
「つか、何だよお前ら? 餌の時間はまだだぞ?」
「誰が子牛よ!」
「おっと失礼」
すぐにレイフォンにつっこみを入れたアシュリー。
レイフォン達の馬車の旅(移動)は順調に進んでいた。
ーー
「それで? いつ頃、ウェスタリア王国に着くのよ?」
「着くのは明日の朝、明後日には王都の街に到着する予定だ」
「ふ~ん」
「ウェスタリア王国、私はじめてです。どんな国なのですかアシュリー?」
怯えから復活したマリベルはアシュリーに尋ねた。
「どんなとこって言われると困るわね……レイ? 貴方が説明しなさい?」
面倒、そう思ったレイフォン。
「俺も自分の暮らしてた街のことしか知らねぇけど、まっ食い物はうまいな」
「それは楽しみだわ」
反応したのはミリベアス。
「ビーフシチュー懐かしいな……」
「ビーフシチュー? ですか?」
レイフォンの呟きに尋ねたのはマリベル。
「ああ、ビーフシチューってのは俺とアシュが暮らしていたテスターの街の定食屋にある黒いシチューだ。これがマジギレするほどうまいんだよ」
「マジギレするほど美味しい黒い、シチュー?」
「気になるわね」
マリベルが首を傾げ、ミリベアスが興味深そうにしていると
「マジギレって何よ……。それより、ねぇ? レイ?」
「なんだアシュ?」
「テスターの街に少し寄らない? 予選まではまだ日はあるでしょう?」
アシュリーの提案。
少し考えるレイフォン。
「まっ、いいんじゃないか? 俺も妹達が元気にしてるか少し気になってたしな」
「「「妹?」」」
レイフォンの言葉に三人は同時に反応した。
「レイ? 妹って何よ?」
「あれ? 言ってなかったか俺?」
「聞いてないわよ!」
それからレイフォンは簡単に説明した。
「……なるほど、助けた姉妹をテスターの自分の家に住まわせてあげているのね」
「レイフォンさんって意外と優しい?」
「わたくしの妹にもなるのね」
「ならねぇよ! つか、意外ってのは余計だ! お前はいつも一言余計なんだよ!」
ミリベアスとマリベルにつっこみを入れるレイフォン。
「そうね……わたしではなく、わたくし達だったわね」
「いつもって……」
表情を変えずに訂正するミリベアスと何故か恥ずかしそうに頬を赤らめるマリベル。
「こいつら……」
レイフォンはため息をついた。
「それなら、なおさらテスターの街に寄る必用があるわね」
「まっ、なんでもいいや……。とりあえずわかった。テスターの街に向かおう。いや、一度帰ろうぜ」
「うん!」
笑顔で頷いたアシュリーであった。
レイフォンとアシュリーがテスターの街に帰るのは約半年ぶりになる。
お読み頂きありがとうございました。




