Episode 110
マリベルが旅に同行することが決まった二日後の昼頃。
レイフォン、アシュリー、ミリベアス、マリベル、そして神様の四人と一匹はウェスタリア王国に向けて馬車に乗って移動していた。
レイフォン達は今日の朝にカサンの街から旅立っていたのだ。
マリベルが同行しているから馬車はなのはわかる。
問題はあれだけ嫌がっていた馬車にレイフォンが乗り、しかも手綱を握っていることである。
それはアシュリーの言葉がきっかけだった。
ーー
前日。
「レイ? 私、思ったんだけど馬車酔いって魔法でどうにかできないの?」
「あっ、そういえば」
「レイフォン? ついでに言うとレイフォンは異世界知識のおかげで馬車も操れると思うよ」
アシュリーと神様の言葉でレイフォンははじめて気づいたのだ。
「それならそうともっと早くに言ってくれよ!」
「気づかなかったレイが悪いんでしょ?」
「うぐっ……」
返す言葉が見つからないレイフォンであった。
ーー
現在に戻る。
「くそー、こんな解決方法があったとはな……」
『まっ、後悔は誰にだってあるよ』
レイフォンに話しかけたのは御者台の席の隣に座る神様。
「つか、神様が気づいていれば……」
『人に責任を押しつけるのはいくないと思うよボクは。まっ、人じゃないけどねボク』
「阿呆犬だもんな」
『……もうボクの額に文字は書かないでよ?』
神様の額の文字『阿呆犬』は消えている。
「それは、神様しだいだな。つか、ずっと俺が手綱を握ってないといけないのかよ……」
ぼやくレイフォン。
御者台の後ろからは女性陣の楽しそうな声が聞こえてきている。
『レイフォンしか馬車は操れないからね』
「そうなんだけどな」
考えようにはこうして景色を眺めながら馬車を操ってる方が、楽かもと思ったレイフォン。
「レイ? そろそろお腹が空いたわ」
御者台に顔を出して声をかけてきたアシュリー。
「俺はお前らの飯使いかよ」
「だって、料理はレイが異空間魔法だっけ? その中に入ってるんじゃない? 便利よねレイは?」
「そうなんだけどな……なら馬車を一旦とめるぞ?」
「わかったわ」
ーー
馬車から降りて食事をとりはじめたレイフォン達。
温かいパンとスープである。
「うわー! こんな場所で暖かい食事がとれるなんて思いませんでした」
「凄いわねレイフォン」
「そうでしょ? レイは異空間に食べ物や料理をできたてのまま時間を停めて入れておくことができるのよ」
豊かな胸を張るアシュリー。
「なんでアシュが誇らしそうにしてるんだよ?」
「別にいいじゃない」
「まっ、別にいいんだけどな……」
スープをスプーンで口に流し込むレイフォン。
「やっぱりレイフォンさんは凄いんですね。女性好きですけど……」
「ぶっ!」
マリベルの言葉にスープを口から少し吹き出したレイフォン。
「レイ、汚ないわよ?」
「こいつが変なことを言うからだろ!」
「変なこと?」
マリベルは首を傾げている。
「何もないなら動揺しなければいいでしょ? 拭いてあげるから動かないでよ」
口元や服をハンカチでアシュリーに拭いて貰っているレイフォン。
「別に動揺なんてしてねぇよ……」
「はいはい」
「まるで姉弟ね」
呟いたのはミリベアス。
「確かにそう見えますね」
同意するマリベル。
「そうね。レイは本当に手がかかる弟みたいなものなのよね」
アシュリーはいつのまにか、ミリベアスとマリベルに対して普通に話すようになっていた。
「いや、俺はアシュみたいな姉ちゃんはーー」
「何かしらレイ?」
「なんでもないっす……」
「ふふっ」
「ふふふっ」
ミリベアスとマリベルは楽しそうにレイフォンとアシュリーのやりとりを見ていたのであった。
アシュリーの世界武道大会予選参加の為にウェスタリア王国へと帰ることになったレイフォン。
神様(子犬)が本当の神様であることを知っているのはレイフォンとアシュリーのふたりだけ。
ミリベアスが魔王の娘であることを知っているのはレイフォンと神様だけ。
それ以外、アシュリーがウェスタリア王国の勇者パーティメンバーのひとりであること、マリベルがイルガリア王国の王女だったこと、レイフォンが魔法を使えることは、ここにいる四人と一匹はもう知っている。
四人と一匹との旅ははじまったばかりである。
レイフォンは本当に世界武道大会には参加しないのであろうか。
お読み頂きありがとうございました。




