Episode 104
イルガリア王国の王都に到着して二日目の朝。
「それでは姫様、レイフォン君、イースラ国カサンの街に戻りましょう」
馬車に乗り手綱を握り2人に言葉をかけるエリザ。
しかし
ふたりはどうでもいい言い合いをしていて、エリザの言葉を聞いていなかった。
「レイフォンさん昨日のなにってなんなんですか? 気になって私、眠れなかったんですよ?」
「嘘をつくな! 昨日、真っ先に寝たのはお前だろうが! つか、お前はしつこいな! つか、俺に聞くな!」
「つかつかって何ですか? つか、レイフォンさんが私に怒ったんじゃないですか? 「何聞いてんねん!」って」
「真似するな! それと、そんな言い方してねぇよ! 俺は関西人じゃねぇ!」
「関西人? 関西人ってなんですか? つか?」
首を傾げてレイフォンに質問するマリベル。
(こんな時にまた、異世界の言葉が頭に浮かんできやがった……ややこしい)
「とにかくだ……俺は何もお前には教えねぇ。いいからさっさと馬車に乗れよアホ」
「レイフォンさんのケチ~。レイフォンさんのホア~」
マリベルはレイフォンにベーと舌を出しながら馬車に乗り込んだ。
(ホアって何だよ?)
そして
エリザはマリベルが馬車に乗り込んだのを確認すると、クスッと笑ったあと、馬車をゆっくりと走り出させた。
レイフォンは馬車の横を走りついていく。
(お父様、お母様、そして……爺……私はまた必ずまたイルガリア王国に帰ってきます。そして必ずやイルガリア王国を復興させてみます。だから……どうか私を空から見ていてください)
走り出した馬車の窓から青い空を見上げるマリベル。
遺体は全てレイフォンが魔法で空へと還した為に、両親も祖父と慕っていた宰相の姿も確認することはできなかった。
しかし、マリベルはそれで良かったと思っている。
もし、遺体を目にしてしまっていたら今のように考え、決心することはできなかったであろう。
馬車が走り出して、しばらくした頃ーー
「レイフォンさん! 本当に帰りも走り続けるんですか? 気持ち悪くなったら私が背中をさすってあげますから馬車に乗りませんか?」
「気持ち悪くなるのが嫌だから乗らねぇんだよ! つか何だよその気持ち悪い笑みは?」
馬車の横を走るレイフォンに窓から笑みを浮かべて声をかけていたマリベル。
「気持ち悪いってのはひどいですー! レイフォンさんは私に厳しくないですか?」
「お前は自分の言動を思い出して胸に手を当てて考えてみろ!」
「胸? はっ!? いきなり何を……」
何故か自分を抱き締めるように豊満な胸を隠すマリベル。
「レ、レイフォンさんのエッチ!!」
マリベルの顔は赤い。
「お前の胸なんて興味ねぇよ!」
「な、なら誰の胸に興味があるんですかレイフォンさんは!」
「なんでそうなるんだよ! お前は! もう、黙って馬車の中で大人しくしてろよお前!」
「お前お前ってさっきから! 私にはマリベルってちゃんとした名前がありますーだぁ!」
マリベルと会話が噛み合う気がしない。
レイフォンは呆れた表情を浮かべて思っていた。
「興味がないとか失礼です……私の胸ってけっこう柔らかくてですね…………って! な、何を考えているの私は……」
誰に言うわけでもなく、マリベルは馬車の中で自分の胸を触りひとり呟いていた。
「姫様……ファイトです」
マリベルの呟きが聞こえたのか、エリザもまたひとり楽しそうな表情を見せ呟いていたのであった。
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