Episode 102
カサンの街から少し離れた地でアシュリーとミリベアスは戦っていた。
「アシュリーなかなかやるわね」
「ミリベアスだってそうじゃないですか?」
ふたりは本気で戦っているわけではない。
レイフォンがイルガリア王国に依頼で旅立ってからも、ミリベアスはアシュリーのもとへと訪れていた。
「呼び捨てで呼んでくれるのに敬語のままなのね?」
「そんなすぐには変われませんよ、っと」
ミリベアスに剣を振りかざすアシュリー。
「まっ、今はそれでいいわ。って、流石にそんな大振りじゃ当たらないわよ?」
なんなく剣を避けるミリベアス。
アシュリーに呼び捨てで呼ぶように言ったのはミリベアスからだった。
敬語をやめるようにともアシュリーには言ったのだが、一日、二日ではぬけるものではなかった。
「くっ」
剣を避けられ悔しそうなアシュリー。
「残念ね。そろそろ休憩にしましょう?」
「はい……今日もありがとうございました」
「正妻の頼みだもの、かまわないわ」
ニコッとした表情のミリベアスに対してアシュリーは顔を赤くしていた。
正妻という言葉にまだなれていないのだ。
模擬戦というか、練習相手をお願いしたのはアシュリーからだった。
アシュリーははじめてミリベアスに会った時からただ者ではないと感じていたが、今はそれが確信へと変わっていた。
汗をかいているアシュリーに対してミリベアスはまったく汗もかかず疲れた様子もない。
「ミリベアスは何者なんですか?」
「わたくし? わたくしはレイフォンの2番目の女よ?」
首をかしげて答えるミリベアス。
「それは聞いていません!」
「あら? 違うの?」
「違います……」
惚けた表情のミリベアスを見てアシュリーはため息をついた。
(ミリベアスは自分の事を話したくないのかしら)
アシュリーがそう思い、ミリベアスと岩場に腰を下ろしている時であった。
「お前らがカサンの街に現れたブラックベアを倒した女達か?」
ふたりに声をかけてきたのはイケメン風な青年。
イケメン風である。
青年の後ろには頭をペコペコしている気の弱そうな少年の姿。
「カルカがいきなりすみません……」
「ペコいちいち謝るなよ!」
青年の名前はカルカ。
カルカは少年ペコに怒鳴りつけた。
「カルカすみません……」
「もういい……」
自分に対してもペコペコと謝ってくるペコを見てからカルカは呆れたようにため息をついた。
「それでだ……もう1度確認するがお前らーー」
「「違います」」
再びカルカはふたりに声をかけようとしたのだが、アシュリーとミリベアスはカルカが言葉を言い終える前に同時に否定の言葉を返した。
面倒そうだ。
ふたりはそう思ったのである。
「う、嘘をつくな! 俺はブラックベアを倒したのは強い美少女ふたりだと聞いている! お前らだろ!」
即答で否定されたことにカルカは少し動揺しながらも大声で言い放った。
「そんな大きな声で話さなくても聞こえているわよ。私、うるさい男は嫌いなの」
「うぐっ」
ミリベアスの言葉にダメージを受けるカルカ。
「それで貴方はそのふたりを探して何をしたいんですか?」
聞いたのはアシュリー。
「よ、よくぞ聞いてくれた! 俺の名前はカルカ・マッケーニ。聞いて驚くなよ? 俺はな……このイースラ王国の勇者だ!」
どうだと言わんばかりの両手を腰に当てて名乗った西の勇者カルカ。
「どうだ驚いた……」
だろうと言うつもりだったカルカ。
だが
カルカが目にしたものは
「アシュリー? 準備できた? そろそろ街に帰るわよ?」
「あっ、はいミリベアス」
帰る準備をしていたふたりだった。
「ちょっ! お前らは俺の話を聞け!」
吠えるカルカ。
「嫌よ。勇者かなんだか知らないけど、貴方面倒そうなんだもん。うるさいし」
「ぐふっ!」
再びミリベアスからの言葉にダメージを受ける西の勇者カルカであった。
「ははは……ミリベアス正直すぎ」
アシュリーは苦笑いし呟いていた。
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