Episode 100
レイフォン達三人は街から出発してから2日後の夜に予定通りイルガリア王国に到着した。
はじめに訪れた街で見た光景はなんとも酷いものであった。
暗くて見えにくいがそれでもわかる崩壊してしまった建物と腐敗したような独特の臭い。
おそらくは遺体がそのまま放置されているのだろう。
今はまだ暗くてまだましだが、明るくなればそれは見えてくるだろう。
「うっ……」
口を抑えて吐き気を感じているマリベル。
「姫様……馬車にお戻りください」
「い、いえ……大丈夫です……」
明らかに顔色の悪いマリベル。
「無理すんなよ?」
「大丈夫です……」
「そうか。それでどうするんだ? 明日になって明るくなればおそらくはもっと酷い状況を目にすることになるぞ」
「大丈夫……です」
(どうみても大丈夫じゃないだろ)
「エリザさんどうしますか? 進むなら暗いうちに進んだ方がまだましだと俺は思うんですけど?」
「そうね……」
マリベルの様子を確認してから頷いたエリザ。
エリザもマリベルほどには表情は出していないが、堪えるものがあるのだろう。
「マリベルもそれでいいか? つか、覚悟はできてるんだよな?」
「はい……大丈夫です……」
覚悟とは悲惨な状況を目にすることである。
「なら、さっさと馬車に戻れ。エリザさんは馬車を動かしてください」
「わかったわ……。レイフォン君は……その……平気なの?」
「全然平気ってわけではないですけど、ある程度は予想はできていましたからね」
「そう……強いのね……」
エリザは小さく呟いたあとに馬車に乗った。
ーーーー
翌日の朝。
三人は城の見える街。
王都に到着した。
三人がいるのは門の前。
ここからでも崩壊した街並みの光景が伺えた。
街中はもっと酷い状況であるのは間違いないだろうと思われる。
「姫様……入りますよ」
「はい……」
馬車を門のところにとめて3人は中へと歩いて入っていった。
別に馬車が入れないというわけではないのだが、これはマリベルからの提案だった。
自分が馬車の中に逃げ出さないため、しっかりと状況を自分の目で確認するためだった。
ーー
「うっ……」
顔をそらしてしまうマリベル。
「これは……」
表情を歪めるエリザ。
かつては栄えていたと思われる崩壊した建物の並ぶ場所には、いく数もの腐敗した遺体が転がっていた。
老若男女問わずに。
流石のレイフォンも顔をしかめて口と鼻を押さえて呟いた。
「酷いな……」
(一応、確認はできたみたいだけど、さてどうする?)
レイフォンはゆっくりと2人を見た。
「どうして……どうして……こんな酷いことを……」
「姫様……」
マリベルは泣き崩れていた。
自分の国のこんな状況を見たらそうなるのは仕方ないと思ったレイフォン。
だけど、このままこの場所にいるわけにはいかない。
「状況は確認できた。これからどうする?」
「レイフォン君今は……」
「エリザさんはそっとしておけって言いたいんですか? 現状を確認して泣き崩れてそれで終わりなんですか? 別に俺はそれでもいいんですけどね」
少しだけ冷たい声で話すレイフォン。
「それは……」
「す、すみませんレイフォンさん。レイフォンさんの……言う通りですね……」
マリベルは涙を手で拭いながら立ち上がった。
「悪い……少し言い過ぎた……」
「いえ……大丈夫です」
頭をかきながら謝るレイフォン。
そんなレイフォンに対してマリベルは首を横に振った。
「この現状ははじめから想像ができていたんです。それなのに私は……みっともない姿をお見せしてしまって……」
「別にみっともなくはない。だけど泣くのはいつでもできるだろ? それで、マリベルはどうしたい?」
「私は……できることなら……とりあえず亡くなられた人達の、この遺体をどうにかしてあげたいです。難しいのはわかっています……だけど……」
「わかった。俺がなんとかしてやるよ」
「「えっ?」」
唐突に言い出したレイフォンの言葉にふたりは目を点にしたのであった。
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