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Episode 1

宜しくお願い致します。

「やばい やばい やばい!」


 少年は急いでいた。


 急いでいる少年は近道だと、道とは言えない森を走って進んでいた。


「君を待っていたよ」


 森を抜けると、そこに待っていたのは一匹の子犬だった。


「犬が……喋っ、た?」


 言葉を話した子犬に少し驚き戸惑う少年。


「これは仮の姿でボクは、神様だよ」


 少年の戸惑いなど気にせずに話を続ける自分は神様だと名乗る子犬。


「神、様ですか?」


 戸惑いがまだ残る少年は、神様と名乗った子犬に丁寧な話し方へと変えて確認するように聞き返した。


「そうだよ。そして君は選ばれたんだよ」


「選ばれた、ですか?」


(何を言ってるんだ、この犬?)


 心の中で少年は思った。


 少年の戸惑いは混乱へと変わっていた。


「だからね。君の願いをどんな事でもひとつだけ叶えてあげるよ」


「結構です」


 少年は即答した。


 少年は混乱が抜け、自分が急いでいる事を思い出したのだ。


「何故だい!? 言葉通りにどんな願いでも叶うんだよ?」


 まさか、即答で断れるとは思わなかった神様は少し焦り、少年に聞き直した。


「そう言われてもですね……なら、例えば何を、どんな願いを叶えてくれるんですか?」


 少年の心境は


(どうでもいいから、早くしてくれ)


 だった。


「そうだね……例えば女性にモテモテになるとか王様になるとかお金持ちになるとか、あとは……世界最強になるとかかな?」


「じゃあ、それでいいです」


 神様の願いの例えから少年は適当に叶えてもらう願いを選んだ。


「いや、確かに今ボクが言った願いは人間なら誰しも叶えたい願いだと思うよ? だけど、ほら? もっと、悩んだり考えたりしてだねーー」


「俺、今急いでるんで、そう言うのはいいです。叶えてくれるなら早く叶えてもらってもいいですか、神様?」


 神様がすべて話を終わらせる前に少年は言葉を返した。


 少年の中では願い事など今はどうでもよかった。


「……わかったよ。なら願いを叶えるよーー」


 神様は諦めたような、そんな声で少年の知らない言葉で何か呪文のようなものを唱えはじめた。


 するとーー白い光が少年を包み込んだ。


 そして、白い光はすぐに消えていった。


「これで君は『世界最強』だよ。くれぐれも他の人間にはボクが君の願いを叶えたって事は"内緒"だからね」


 神様は"内緒"の部分を強調して少年に願いが叶った事を伝えた。


「ありがとうございました。じゃあ、俺はこれで」


 少年は神様の言った言葉なんて、もう頭には入っていなかった。


 とりあえずは神様にお礼を述べた少年は足早に去っていったのであった。


 ーー


 少年が去ったすぐあと


「君には世界最強の力なんて必要はなかったと思うけどね……まっ、少しおまけはしといたけどね」


 神様は少年が去った方向に視線を向けて呟いたのだった。



 ーーーー



 待ち合わせ場所に到着した少年。


 待っていたのはひとりの少女。


「悪い遅くなった。いきなり神様とか名乗る喋る変な犬に願いを叶えてやるとか言われてさ、それで遅くなった」


 あっさり神様に"内緒"と言われた事を話す少年。


 遅れた理由はそれだけではないのだが……。


「それでどんな願いを叶えてもらったわけ?」


 遅れた理由を聞いた少女は表情をニコっとしながら少年に願いの内容を尋ねた。


 少女の目は笑っていない。


「……忘れた」


 正確にはちゃんと聞いていないが正しい。


「言い訳するならもっとましな言い訳をしなさいよ! 何が神様で喋る変な犬よ? しかも、その犬が願いを叶えてくれる? 寝坊したなら正直にそう言いなさいよね! バカ!」


 少女は少年に言葉で捲し立てた。


 少女はご立腹である。


「いや本当なんだって……」


 寝坊も事実だが、神様の話もまた事実。


 少女に信じてもらえずにどうしたものかと苦笑いを浮かべて頭をかく少年。


「まっいいわ。レイの遅刻なんていつもの事だものね。それより早く行くわよ」


 呆れた表情を浮かべる少女。


 少年の遅刻は今にはじまった事ではない。


「はいはい」


 苦笑いを浮かべたまま適当な感じに返事をする少年。


 少年が少女に怒られる事もまた、今にはじまった事ではないのだ。


 昔からなのである。


「はいは一回でいいのよ! ほら、早くしなさい!」


「へい」


 少女にレイと呼ばれた少年レイフォンは、少女の言葉に従い大人しく少女のうしろをついて歩いて行くのであった。



お読み頂きありがとうございました。

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