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いつの日か。

いつの日か。

作者: 小田虹里

 この景色を僕はきっと、一生忘れない。




「パパー……!」

「んー……今日は土曜日だぞ。もっと静かに寝かせてくれよ」

そういって、ごろんと寝返りを打つパパは、僕の声を若干煙たそうにしながら、もぞもぞと再び布団をかぶって世間をシャットアウトし、夢の世界へと誘われようとしていた。それを見て、僕はむすっと頬を膨らませ、再びパパの身体をゆさゆさとゆすぶった。それを見て、僕の弟の七海ななみも真似っこして、パパの身体に突進しはじめた。

「ぱぁぱぁ!」

にこにこしながら、七海はパパの背中にくっついた。でろ~んとパパのパジャマによだれがつく。まだ、二歳の子どもだから、その辺は仕方がないと思う。僕は思わず、くくっと笑った。

 僕は、中学一年生……に、なったばかりのまだまだ子ども。声変わりだってしていないし、背丈も背の順を前から数えた方が早いほど。この春に、地元の公立中学へ進学となったばかりなんだ。まだ、春休み中で、新しい「制服」というものにも、袖は通していない。希望と期待に満ち溢れている、そんな一年の幕開けとなった。

誠也せいや、七海を連れて遊んできなさい。パパは毎日仕事で忙しいんだから」

「それは知ってるよ。だけど、昨日約束したじゃない。明日はお花見に行こうって」

「はなみー、はなみー」

パパは、それでも動くつもりはないみたいで、「うー……」とうなりながら、現実に目を向けなかった。

「そんなにも僕たちと一緒に、お花見するのがイヤなの?」

桜の季節。桜は、あっという間に散ってしまうから、今を逃したらまた一年、お花見なんて出来ないのに。パパは、それをわかって言ってるのかな。僕はなんだか、寂しさでいっぱいになった。パパはきっと、もう大人だから。桜なんて見飽きてしまったのかもしれない。花が散っても、なんとも思わないんだ。ただ、「春が終わった」なんてことを思うだけで、そこに特別な意味を持たないんだと悟った。

「もう、いいよ! 七海とみてくるんだから!」

「はいはい。行ってらっしゃい」

「……~っ!! パパのバカ!!」

大人って、人生を積み重ねていくうちに、大切な瞬間を見失って行ってしまうものなのかな。僕も、大人になったらパパみたいに、風情を楽しむことよりも、たまの休日を優先してしまうようになるのかな。


 大人になるって、いったいどんな気持ちなんだろう。


 大人になるって、どういう意味なんだろう。


「七海。靴下履こうね。ほら、あんよ」

「あぃ」

ちょこんと座って足をバタバタさせている。髪の毛はまだまだ産毛並みで、とってもやわらかな茶色い毛が短く生えている。大きな瞳で、手足はとっても小さい。僕はどちらかと言うと、パパに似たと思うけど、七海はママ似だと思う。


 僕のママは、身体が弱くて……今は病気で、入院しているんだ。


「七海。デジカメ持って行こうか。桜の写真、ママに見せてあげよう?」

「う?」

「写真だよ、写真。ぱしゃってするの」

「ぱしゃぱしゃ!」

僕は玄関に七海を座らせたまま、思い立ってデジカメをパパの部屋に取りに行った。

「パパ。お花見にデジカメ持って行きたいんだけど。いい?」

「……」

「パパ?」

熟睡していた。パジャマ、七海のよだれついてるのに、冷たくないのかな……なんて思いつつも、僕はパパの眠りをこれ以上妨げても悪いかなと思って、デジカメのしまってある戸棚を開けると、がさごそと漁って、シルバーのカメラ見つけ出し、それを持って部屋を後にした。

「お待たせ、七海」

僕は先に紫の運動靴を履くと、七海にも戦隊もののイラストが描かれた靴を履かせてあげた。歩くと、ぴこぴこという音が鳴るシステム。更には、靴底には電飾が施してあって、キラキラと光る。こんなにもしゃれた靴が今はあるんだなぁーって、この間パパと買い物へ行ったときに、思った。

 僕が小さかったときにも、パパが子どものときに履いていた靴よりは、オシャレなものが増えたと言っていたのを、ふと思い出した。時代が流れると、物まで変わるんだなぁ……って、なんだか面白くなった。

(僕が大人になって、子どもを持ったら、パパみたいな気持ちになるのかなぁ)

僕と七海は、玄関から出ると、鍵をしめてパタパタと家を後にした。


「わぁー……!」

七海と一緒に来た公園は、結構な大きさがある有名な公園だった。桜の木がたくさん植えてあって、桜の木をより際立たせるかのように、ぼんぼりが出て明かりを灯していた。屋台もずらりと並んでいて、すごくにぎわっている。

「七海、すごいね! 立派な桜だよ!」

「しゅごいねー!」

手を握りながら、七海が迷子にならないように気を付けて、たくさんの人の中を歩いていく。周りの花見客は、ブルーシートを敷いて桜の木の下で太陽がまぶしい中、お酒をあけている人も少なくなかった。人と桜、どちらが多いだろうっていうくらい、満開で満員の公園。すでに、飽和状態。

「あ、七海。そこに立ってて? 写真撮るよ?」

「う?」

「ぱしゃぱしゃ、するよ? ほら、こうして……」

僕は七海を並木道のど真ん中にきちんと立たせると、デジカメを向けてしゃがんだ。立った姿勢のままだと、七海がとても小さいから、入りきらなかったんだ。


 パシャ!


「わぁ、可愛い! 七海、もっとたくさん撮ろ!」

桜が綺麗とか、ひとがたくさんいるとか、そんなことよりも、何よりも小さな弟が愛らしい笑みを浮かべていることに、僕はこころを動かされた。いつでも可愛いと思っているけど、今日はいつもよりもずーっと、きらきらして見える。いい天気だから、光が綺麗に入ってきて、桜のピンク色の花弁をゆらしている。満開の桜の下で、七海は両手を広げて何やら踊りだした。

「七海、何おどってるの?」

「きれー! はなー!」

去年の今頃は、まだ七海は一才だから。こんな風にきちんと立てなかったし、言葉もまだまだ、上手に話せなかったから。ひとは、一年でこんなにも成長できるものなんだなって、感じた。

(パパも、来たらよかったのに……)

七海の成長の記録もそうだけど、一緒にお花見をするという思い出が欲しいって、感じちゃったんだ。

 お花見客のほとんどは、家族というよりは大人たちばかりの集まりみたいで、会社かな。それとも、大学生の集まりなのか、そういうひとが割合的に上だった。中にはもちろん、家族でお花見をしているひとも居るけど、ぱーっと騒ぎたいのは、大人たちなのかもしれない。大人って、子どもの頃よりも、制約だとかなんだとか、縛られることが多くて、自由が無くなっていくものなのかもしれない。

 僕のパパだって、年々忙しくなってるもの。七海が生まれる前は、ママとよく色々なところに連れて行ってくれていたけど、ママが入院してしまってからは、職場と病院を行ったり来たりするくらいで、娯楽がまるでなくなったって言ってた。土日は会社休みだっていうけど、毎週、なんだかんだで職場に行ったり、行かなくたって家でゆっくりできなくて、会社の携帯にじゃんじゃんお客さんから電話がかかってくる。だから、完全に週休二日制の子どもである僕には、パパにワガママを言う権利はないって、わかってるんだ。パパにまで、病気になって入院されたら、それこそ生活だってできなくなるもの。そんなことは、ママだって望まない。

「七海。写真はパパにも見せてあげよう? パパは、僕たちが嫌いだからじゃなくて、本当に疲れてるんだ」

「あぃ!」

七海には、きっと分からないことだと思った。にこにこしながら、僕の手を握ってきた。そのふにゃふにゃした小さな手の感触に、安堵感を覚えながら、僕もにっこり笑みを浮かべた。

「にぃにぃも、ぱしゃするー?」

七海は僕のことを、お兄ちゃんだと認識してくれている。でも、まだ「お兄ちゃん」とは呼べなくて、僕のことは「にぃにぃ」と呼んでくれる。それがくすぐったくて、あぁ、お兄ちゃんになったんだって、実感に変わった。

 七海は、生まれてからすぐにママが大きな病にかかってしまって、入院しちゃったから、抱っことか、そういう経験が少ないんだ。ママの分まで、パパと僕が抱っこやおんぶはしているけれども、ママのあの独特なやさしい香りとか、ふんわりしたぬくもりは、特別だと思うから。僕にも出せないし、パパのとも違うから、どこかで「かわいそう」って思っていた。兄である僕がそんな風に、弟を憐れんではいけないと思うけど、僕はまだ大人にはなりきれない年頃だった。

「七海には、まだデジカメは扱えないよ」

デジカメは薄型になったし手頃な金額になってきたとはいえ、僕に買えるような代物ではなかったし、七海に使えるほど単純なものでもなかった。いや、シャッターボタンを押すだけなんだから、動作自体はすごく単純なんだけど。七海の手はデジカメよりもずっと小さかった。

「やー! ななもぱしゃするー!」

「あぁ……もう、七海には無理だってば。もっと大きくなったらね?」

「やなのー。ななもなのー!」

「……はぁ」

うるうるとした瞳で見上げられると、僕は弱かった。兄馬鹿だと思う。それくらい、七海のうるうる攻撃は、可愛くて強烈だった。僕は七海の目線にあわせてしゃがみこむと、デジカメを「はい」と、渡してあげた。すると、宝ものをもらったかのように、嬉しそうな顔をして七海はデジカメをぶんぶんと両手で握って揺さぶっていた。

「七海、何やってるの? ぱしゃぱしゃするんでしょ? はい、こうして構えて?」

「う?」

七海の手に僕の手を重ね合わせて、モニター画面に桜の木を映し出す。すると、七海はその画面を見ながら、目をぱちくりとさせていた。

「しゅごいー」

「すごいねぇ。昔は、フィルムカメラだったんだって」

「しゅごいー」

「ねぇ」

何がすごいのかなんて、僕にもよく分からない。ただ、パパがそう言っていたから真似をしてみただけ。僕が小学生にあがったときにはもう、フィルムカメラは主流ではなくて、今よりも重くてごついけれども、デジタルカメラへと移っていた。

(あの頃は、ママが写真を撮ってくれていたんだよね)

「にぃにぃ?」

僕の思い出の中には、パパとママがたくさんいる。でも、七海の思い出の中のママは、病室で横になっている、ママ。そして、毎日せわしくしているパパのくたびれた姿だ。僕だって、これから中学生になったら、宿題だって小学校の比ではないんだろうし、勉強がそもそも苦手だったから、みんなについていけるか心配だし。もしかしたら、塾へ行くようになるかもしれないし……いや、金銭的に難しいかもしれないから、塾はないかな。とにかく、今より自由がなくなって、七海との時間がなくなることは見えていた。

 勉強だって頑張らなきゃって思うけど、部活動にも力を入れたいって思ってる。どんな部活にするかは、まだ決めてないし、部活見学をしっかりして、決めたいって思ってる。これからの中学生活は、不安よりもワクワク感の方が多い。でも、七海との時間が削られていくことには、寂しさを感じた。

「七海」

「う?」

「この桜。来年も一緒に見たいね」

「あぃ」

にたぁ~っと笑みを浮かべて、目を細めた七海は、デジカメのシャッターをたまたま触って、「パシャ」という音とともに、一枚の写真を記録した。

「七海にも、撮れたね。写真」

「あぃ!」

でろ~んとよだれがこぼれた。そのよだれは、デジカメのモニター画面にぺとりと垂れ落ちた。それを見てもとても怒る気にはなれなくて、僕は七海の頭をよしよしと撫でた。

「お腹空いちゃったもんね。屋台で何か買う?」

「かうー! ななね、ほわほわー!」

「ほわほわ?」

七海はデジカメをぽいっとすると、とてとてと走り出した。僕ははぐれてしまうと思って、デジカメを握ったまま、七海の後を追って走った。よちよちした歩きだから、追いつけないはずがない。あっという間に七海に追いつくと、僕は手を差し出した。その手に気づいた七海は、にぎっと僕の手をつかんだ。その視線の先には、わたあめ屋さんがあった。

「ほわほわって、わたあめのこと?」

「ほわほわー。あまいのー」

わたあめが甘いってこと、どこで覚えたんだろう……って、僕は首を傾げた。お祭りでわたあめを食べた記憶は、あまりない。七海も、僕の知らないところでゆっくりと大人への道をあゆんでいるんだって、感じた。

「一本三百円かぁ……結構するね」

「するー?」

「でも、せっかく来たんだしね。七海、白いのとピンク。どっちがいい?」

お財布を開けて、小銭を見てみるとちょうど三百円があった。ちょっと嬉しい。百円玉みっつだけ取り出すと、財布はまたズボンの中にしまった。

「これー!」」

白いわたあめを選んだ。袋は、戦隊もの。どうせ捨てるのに……って思ったけど、口には出さない。子どもの夢を摘み取ってはいけないって思ったんだ。

「おじさん。そのレンジャーのわたあめ一つください」

「はいよ」

「ありがとう。はい、七海」

「あーと!」

七海は受け取ると、レンジャーを見ながら嬉しそうに笑っていた。僕はこっそり、その様子もデジカメで記録している。


「甘いね」

「おいちー」

七海が分けてくれたから、僕もわたあめを、久しぶりに口にした。口の中であっという間に溶けてしまう。たくさん口に入れても、しゅん……って消えてなくなっちゃう。親指と人差し指でつまんで食べているから、ふたつの指はべだべたしている。砂糖の糸なんだなぁ……って、思う。七海は、ぐちゃっと五本の指全部で掴んでるから、手がべったべた。

「だいぶん、日が傾いてきたね。肌寒くなっちゃった。七海は寒くない?」

「さむーぃ」

「寒いよね。家に帰ろっか。パパも待ってるだろうし」

まだ、寝ているかもしれないけど……とも思いながら、僕は帰る準備をはじめた。そのときだった。

「あ、居た居た。遅くなって悪かったな」

「え……っ」

水色のカッターシャツ姿に、黒いスラックスを穿いて、若干寝癖のついた状態でこちらに駆け寄る影があった。

「ぱぁぱぁー!」

七海が声をあげて、わたあめを持ったまま突進していった。

「七海。兄ちゃんに買ってもらったのか? よかったなぁ」

パパは、よいしょっと七海を肩車すると、僕の顔を見てやさしく微笑んだ。

「誠也。パパは約束は破らない」

「……うん」

ぼーっとしてしまった。夢の世界にパパがやってきた感覚だ。

「どうした? 嬉しくない?」

僕は、首を大きく横に振った。嬉しくないはずがない。だって、パパにも見せたくて、デジカメをたくさん使っていたんだから。一緒にこの世界を見られるなんて、もう、思っていなかったから。


 だから僕は……泣いた。


「にぃにぃ?」

「誠也? どうした?」

パパは、優しく笑みを浮かべたまま、僕の頭をよしよしと撫でてくれた。仕事で疲れているはずなのに。本当は、ずっと布団の中で寝ていたかったはずなのに。僕のワガママを聞いてくれたんだ。ぎりぎりまで、寝ていたんだ。だから、寝癖なんてつけてる。パパは、身だしなみにはきちんとしたひとだから、こんな姿で家を出る人じゃないのに。

「パパ」

「ん?」

涙をごしごしっと拭うと、僕はすらりと背丈の高いパパの顔を見上げて、にこっと笑みを浮かべた。

「パパと、この桜を見たかったんだ」

「うん」

パパはまた、目を細めて優しく笑った。

「パパもだよ、誠也」

パパの大きな手のひらで、僕の頭は撫でられた。左手薬指には、シルバーのシンプルなデザインの指輪が光っていた。

「ママにも、見せてあげたいんだ」

「誠也もお見舞い行くか? 七海も、ママに会いたいだろう?」

「まぁまぁ!」

「うん! 会いたい!」

「そう思って、マスク持ってきたんだよ。ママは身体が弱いからな」

「ありがとう、パパ」

僕は、七海からもらったわたあめの半分を、パパに渡した。

「お、くれるのか?」

「七海からの、おすそ分けだよ」

「それは貴重だな。いただきます、と」

パパは、あむあむと美味しそうにわたあめを口に入れていた。懐かしい味がするって、嬉しそうだった。


 病院への道のり。影が長くのびるほど、日は傾いていた。ふと、後ろを振り返ると、夕日に桜の花が揺れていて、きらきらしていた。穏やかな日差しを受けて、ピンク色の花弁が橙色に見えた。

「綺麗だね」

「あぁ、綺麗だ」

「きれー」

僕たち三人は、しばらく夕日と桜を眺めて、足を止めていた。


 これから、僕も大人になっていく。色々な経験をしていくんだと思う。七海だって、もっとしっかり歩けるようになるし、しゃべるようにいなる。そうなったら、喧嘩だってたくさんするのかもしれない。パパは、もっと仕事が忙しくなるかもしれないし、ママの病気はどうなるのか分からない。


 だけど、今こうして見ているこの景色は変わらない。




 いつの日か、僕もパパみたいに家庭をもったとしても。


この景色を僕はきっと、一生忘れない。



 はじめまして。こんにちは、小田虹里と申します。


 ファンタジーなどではなく、ほのぼの系の現代ものを、はじめて書いてみた気がします。いえ、実際にはじめてですね。

 私の家は、桜に囲まれた地域にあります。毎年、春になると「お花見」ということをあえてすることは、ありません。ただ、一度だけ。小学生の頃に父がどこだったか忘れましたが、お花見に連れて行ってくれたことがありました。あ、それだけじゃないですね。母方の祖母の家の近くは城下町で、川に立派な桜がかかってまして、数回、母とお花見に出かけました。

 桜が咲くと、私の団地の景色を思い浮かべますし、父との思い出。そして、母の生まれ育った町の風景。それが、頭に浮かびます。

 屋台が出ていて、「たません」っていうものを、はじめて食べました。母は、そのたませんが大好きだったみたいで、学校帰りとかによく、友達と食べていたんだよって話していました。懐かしそうに食べてました。小田も、母のをもらって食べたら、すっごく美味しくて。こんなにも美味しい食べ物があったんだ……っていうくらい、美味しかったです。それを食べているときに、小田の肩に鳥のフンが落ちてきて、直撃したことも良い思い出です。「ウンがよかったね」って、笑ってました。頭に落ちなかっただけ、マシだったと思ってます。

 あとは、桜というと卒業というよりは進学とか新社会人とか、そういう時期ですよね。真新しい制服とか、スーツに身を包んで、気を引き締めて、今まで知らなかった世界に飛び立つ感じがして。ドキドキしていたことを、思い出します。クラス替えの表が、靴箱に張り出されていて、「あ、あの子と一緒だ」とか思った中学校生活が、今でも鮮明に思い出されます。どれだけ年を重ねても、大切な節目とか、ふとした瞬間でも、自分の中で「大切」って思ったことは、こころに深く残っているものですね。

 私の家は、父も母も働いていて。鍵っこをしていました。でも、母はよくおやつも手作りしてくれていたし、料理も上手で手料理をたっくさん食べさせてくれました。父は土日出勤の営業マンのため(あ、現役です)、参観日とかには来てくれたことがほぼなくて。でも、一度だけ。中学校だったと思います。運動会に来てくれたことがありました。それが、すごく、すごく嬉しくて。くすぐったい気持ちだったことを、覚えてます。そういう行事に来てくれなかった代わりに、父は自分の休みの火曜日と水曜日には、小学校の校門まで車で迎えに来てくれていて。帰りに、一緒に帰るということを、ほぼ毎週していました。だから、「パパは来てくれない」っていう思いが若干あったけれども、実はパパ、たくさん小田のこと、弟のこと。見守ってくれていたんだなぁ……って。しみじみ思いました。母は、高校の運動会にも卒業式にも来てくれていて。ずっと、ずっと。それこそ、亡くなるまでずーっと、小田の傍に居てくれました。

 そんな、あったかい両親のもとで、弟と私はにこにこと育っていきました。そんな、家族の話を書きたいって思い、桜の季節にこの作品をつづってみました。誠也は、昔の小田のような心境かもしれません。小田の弟は、七海みたいに幼くありませんが、小田と三つ、年が離れていて、昔はすっごく背が低かったのです。低いというか、ちっちゃかったです。「本当に三歳しか違わないの?」っていうくらい、小さかったみたいで、ずいぶんと年の差があるように思われていました。

 だから、年上として私は「弟を守らなきゃ!」という思いが強くて、弟のことをよく見守っていたと思います。出かけても、弟は小田の傍を離れませんでした。ぎゅっと小田の服を握って、おどおどと泣きながらくっついてきました。懐かしいですね。幼稚園、小学校、中学校。そこまでは一緒だったので、小田は弟のヒーローをやっていました。


 こんな風に、兄弟ってあったかい絆で結ばれていますし、親子もまた、かけがえのない絆で結ばれているって、強く感じました。


 「平和主義」


 これを、小田はモットーに生きています。偽善者とか、そんな風にみられることもあるかもしれません。でも、それならそれで、別に構いません。家族愛も、大切に思っています。友情も、大切です。


 もし、この「いつの日か。」をまた綴ろうと思う日が来たならば、家族愛についてもっと語っていきたいですし、友情にも触れてみたいです。ただ、小田のこれまでの作品には「仲間」とか、「師弟」とか、そういうものは出てきましたが、なかなか「家族」はテーマになっていなかったので、この作品は「家族」中心でまわっていったら嬉しいなって、思いました。


 あとがきが、ものすごく長くなってしまってすみません。今日は雨で、しとしとしていて。感慨深くなってしまっているのかもしれません。明日からは、父の実家、祖父母の家に一週間お世話になりに行きます。そういうこともあって、より、家族について思う一日となったのかもしれません。


 こんなにも長く、お付き合いくださりありがとうございました。ほぼ、思い出語りでした。これからも、小田は家族を大切にしていきたいです。


 桜の季節。


 出会いの季節だと信じています。これからも、たくさんの方と出会えますことを願い、これまでの繋がりも大切にし、生きていきたいです。

 また、別の作品でもお会いできることを、切に願っております。

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[良い点] 弟を愛おしむ兄の気持ちが細やかに描かれていて、独特なリアリティも感じました。 後書きで、小田さん自身の経験も若干加味されていたのを知り、なるほど、と思ったのですが…… むしろ完全なフィクシ…
[良い点] 家族の物語。 たぶん思い出しても心の中が暖かくなる素敵なもの。 主人公が、父を見、母を診、弟を観る、成長の物語という気がしました。 誠也君はこうして大人の階段を上って行くのだな、家族の中で…
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