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神と鬼と人間と

――どうしてこうなったのだろう?


落下していくバスの中、崖の上から俺の名前を叫ぶクラスメイトを眺めながら考える。気持ち悪い浮遊感の中考えてみるが、答えは出そうにない。



***



「んあ?ここは⋯⋯?」


俺は真っ白な部屋に一人、木製の椅子に腰かけていた。なんでこんな所にいるのか、考えてみても頭の中に靄がかかったように思い出せない。それにしても部屋とは言ったけど扉も窓も明かりもないここは部屋なのか?光源が無いのに日中の様に明かるい周囲をキョロキョロと見渡すと、不意に声が聞こえた。


「やあ、やっとお目覚めかい?」


「?お、おう?」


右を見る、いない。左を見る、いない。後ろにも当然いない。


「どこを見ているのさ、目の前にいるだろう?」


「え?うぉ!?」


視線を元に戻すと自分の目の前に子供が立っていた。驚いて立ち上がってしまう。輝くような金髪に空色の瞳、整った顔立ちだけど幼さが残っている。こんな外人の子供に知り合いはいないはずだ。


「えっと、君は?」


「ボクは君たちが崇めるところの神だ。信じては貰えないだろうけどね」


「は、はぁ」


いきなり目の前に現れた神を名乗る子供の取り扱いに困ってしまう。だけど、この部屋の状況を考えるとそれも嘘だと断言するのは難しい。それにさっきまでは誰もいなかったのだ、多少は信用しよう。


「それで?神様がオレに何の用ですか?」


「うん。君ね、死んじゃったの。享年17歳、若すぎる死だね」


「⋯⋯はい?--ッ!?」


神様のふざけた調子の言葉を聞いたと同時に頭の中で映像がフラッシュバックする。修学旅行、嵐、そして横転事故。


「思い出してくれた?」


「まあ、ね。そりゃもうクッキリと」


修学旅行のバス移動の際、山道の途中で猛烈な暴雨風に巻き込まれバスが横転。オレ以外が全員重傷を負う大惨事となったのだ。


「そして君は全員をバスの外に避難させ、最後には君だけが取り残されバスと共に崖の下に落下、死亡した。君は悲劇のヒーロー扱いになってるよ、やったね」


「嬉しくねぇ~」


「だろうね。君は助ける気無かったんだろ?」


「⋯⋯そこまでお見通しなんすね」


神様の言う通り、オレは助ける気なんかサラサラ無かった。オレ一人助かってラッキーと本気で思っていた。だから、天罰でも下されるのかと思っていたが笑っているのでそう言うわけではないらしい。


「わかるさ。だって君、女の子に振られまくって男の子には貧乏神扱い。良い事無しの人生だもんね」


「うぐっ!」


言い方が胸に来るが、その通り。オレは中学から失恋記録を更新し続け今日死ぬまでで25連敗。部活や球技大会に出ようものなら一回戦で大敗。男子にも女子にも邪険に扱われ続けた哀れな人生だった。特に今のオレのクラスの連中はクズばっかりで、この一年近くの間苦汁を舐めさせられいつか殺してやると決意したくらいだ。だからこそ自分一人助かっていたあの状況で、何故助けてしまったのか分からない。


「君、いつも物事が全て裏目に出るだろ?」


「はあ、まあそうっすけど」


テストで山を張れば大外れ。体育祭でリレーを本気で走れば大コケ。隠し事は次の日にはバレて。好きな女の子の前で良い恰好しようものなら、特に関係のない女の子にラッキースケベをぶちかまし好感度ダダ下がり。こう考えると本当に良くないことばっかり起きてるな。


「そこで君の家系が関係してくるわけさ。ここまで言えば何のことかわかるだろ?」


「⋯⋯陰陽師の家系ってことですか?」


さっき言った隠し事筆頭のオレんちの家系、それが平安時代から脈々と続く陰陽師としての血筋だった。つまりは、


「オレのご先祖が何か退治した時に呪われてたって話ですか?」


「おしいね、退治ではなく封印。もっと厳密にいえば、今君に憑いてるそいつが原因さ」


「はい?」


神様がオレの後ろを指差す。振り向くとさっきまでオレが座っていた椅子に子供が座っていた。神様も子供だけど、こっちは悪ガキっぽい雰囲気が全面に出ている。褐色の肌にくすんだ金髪。虎柄のパンツしか身に着けておらず、眼は白目であるはずの部分が黒く黒目の部分が赤く染まっていた。そしてなによりも特徴的なのが、額から飛び出た一本の角。


「んだよ、いつ気づくか遊んでたのによぉ」


「いい加減悪さをやめる気はないのかい?」


「無いね、まったく」


「えっと、神様?アイツは誰です?」


険悪な空気の中に恐る恐る足を踏み入れ神様に質問する。神様が答えるよりも早く、悪ガキがオレの頭に蹴りを入れた。子供の蹴りとは思えない重さの蹴りを後頭部に貰いその場に蹲る。頭の上から悪ガキの声が降ってくる。


「おいテメェ。俺様をアイツ呼ばわりとはいい度胸じゃねぇか」


「やめな天邪鬼。今の君にはそこまでの力は無いはずだよ」


「けっ!関係ないね。俺は俺がやりたいようにするだけだ」


「本当にどうしようもないね、君は。というわけだ、こいつは天邪鬼。君の人生を狂わせてる張本人だ」


「そういうわけだ。わかったら俺の言う事黙って聞いてな」


上で勝手に話が完結しているが、大体のことはわかった。ようは⋯⋯、


「テメェが全ての元凶か、このクソガキぃ!!」


「あだ、あだだだだっ!?てめ、おい!やめやがれ!!」


クソガキ、もとい天邪鬼の言う事に聞く耳なんざ持ち合わせていない。故にアイアンクローでクソガキの頭を締め上げる。器用に角を避けつつ握力は緩めない。クソガキの絶叫をBGMに神様との会話を続行する。


「それで神様。こいつの名前も関係ある感じですか?」


「君意外と容赦無いね⋯⋯。まあその通り、此奴は憑りついた人の行動や運の方向性を望んだ方とは逆側に捻じ曲げるんだ。能力だけで言えば、下級の神なんて目じゃないくらいに強力。だから、僕らにも手に負えず、君たちの一族が封印したってわけさ」


今回君が死んだ原因も天邪鬼にあるんだよ、と語った神様の言葉を自分なりに噛み砕く。


「⋯⋯なるほど。つまりオレだけ生き残ろうと考えたから、こいつはその逆。全員を助けるって行動をさせた訳か。ついでに言うとオレが勝負ごとに勝てないのも。運が悪いのも。女の子にモテないのも。全部こいつのせいだと」


「そうだね。もっと言えば、天邪鬼は君の女の子との絡みに関しては全力で妨害してるから。もしこのまま生きていたとしても君の告白は一回たりとも成功しなかっただろうね」


「きぃさぁまぁ!!」


「いってぇつってんだろ!?どこにそんな力隠してたんだよ!!」


アイアンクローからヘッドロックに移行し、首をへし折る勢いで落としにかかる。一生彼女出来なかったかもしれないなんて地獄すぎんだろうが!!そんな怒りを込め続け遂にクソガキが顔を青くしオレの腕をタップし始めた頃、神様が大きく咳払いした。


「そろそろ本題に移るよ。逆巻さかまき しょう君。君には天邪鬼と共に異世界に行って貰うよ」


「異世界?なんでまた。しかもこいつと」


気絶しオレの腕の中で力無く垂れ下がるクソガキをいらない、と神様に差し出す。神様が憐憫の眼差しでクソガキを見つめた後、申し訳なさそうな声で続ける。


「恥ずかしい話。今、此奴を正しく罰することができないんだ。地獄は鬼にとっては住み心地がいいから罰にはならず、天国だと此奴が全て壊して回る。輪廻転生の輪から外そうにも此奴の力だとそれも叶わない。だから此奴が更生する様に異世界で性根を叩き直してほしい」


「それと異世界に行くの、どういう関係が?」


「此奴は人の目には映らないから好き勝手に悪さが出来る。けど、君が行く異世界は眷属と呼ばれる者が人間と共に生活する世界なんだ。だからそこで此奴と一緒に生活して、好き勝手出来ない様に監視してはくれないか?」


そういって頭を下げる神様の姿に驚きつつも、頭を掻きながら答える。


「まあいいっすよ。どうせ一回は死んだ身ですし、異世界でやり直すのも悪くないです」


「そう言ってくれると思ってたよ!それじゃあ、いってらっしゃい」


「は?」


どういうことですか、そう聞く前に足下に光り輝く魔方陣が現れる。光の壁が魔方陣を縁取りオレと神様の間を隔てる。


「お、おい!どういうことだよ!?」


『そっちの声は僕には聞こえないけど僕の声は届いてるよね。これは君を異世界に送るための魔方陣さ。言葉の読み書きは心配しなくていいよ、転送途中で君の頭にインストールされるから』


「そういうのは魔方陣で隔離する前に言うもんじゃないんですかね!?」


『ん?何か言ってるみたいだけど話を続けるね。天邪鬼の能力ーー君にとっては呪いだね、それは異世界に行っても継続されるから頑張ってね』


「それって彼女出来ないって意味じゃーー」


『それじゃあ、張り切っていってらっしゃ~い』


聞こえてないために被せ気味に放たれた言葉と共に地面がふっと消え、数秒の浮遊の後落下を開始した。


「こういうのは一瞬で飛んでくもんじゃねぇのかよ~っ!?」


小さくなっていく穴に叫びながら、オレと気絶したままのクソガキは異世界に落とされた。



***



「⋯⋯行ったね。いやぁ、やっぱり人の警戒心を解くには子供の姿が一番だね。最後までずっと騙されててくれたし」


正の叫びが残響する部屋で、神は伸びを一回だけする。それだけで神の姿が一変する。小学四年生くらいの見た目から、20代前半くらいの高身長の男性の姿へ。幼さが消えた顔立ちは芸術品の様に整っており男が見たら嫉妬と羨望の眼差しで見られることは間違いないだろう。しかし、その顔に張り付いているのは悪巧みの成功を待ち望む子供の様に無邪気で残酷だった。


「逆巻正君、君は異世界でどうなって行くのかな?」


バカ正直な少年の行く末を楽しみにしながら、神は部屋を後にした。




















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