武神流2〜斎藤仁という漢〜
「櫛名田闘千どのは居られるか?」
「私が闘千だが?どちら様かな?」
「私は、日向剛と申すもの。棒術を些か嗜む身なれば、いざ尋常に勝負願いたい。」
「先刻ご承知の様に我が道場は格闘技に有らず、護身術なれば、今のご時世棒術を相手と言われましても甚だ迷惑にございます。しかし、どうしてもと言うのであれば、我が二番弟子、山本祐樹がお相手仕りましょう。」
「これは、臆病風にでも吹かれましたかな?私は、師範殿と試合たいと申し上げているのだが?」
「勘違い召さるるな。我が二番弟子は、この道場の中でも、対武器先頭では1、2の上手。相手にとって不足はないと思うが先ずは、試合われよ。山本で不足なら私が直にお相手仕る。」
「あい分かり申した。では、山本殿。尋常に勝負!」
「山本祐樹と申します。いざ、尋常に勝負。」
(高校生くらいの子供が相手だと?舐められたものよ。)
「セイヤー!」
棒を真っ直ぐに全力で、突こうとしたのだが、山本はすぐさま空中で回転しながら、棒の切先を足の裏で受け止め、間髪入れずに、全力で蹴り返した。相手は地に足が着いており、山本は空中で軽く受けてから、全体重を載せて蹴っているのである。
これには、堪らず棒を却って胸に打ち付け胸骨を折ってしまった。
「ぐうっ!なんのまだまだ。」
「それまで!」
闘千が静止を掛けるが、構わず下段に棒で足払いを繰り出した。
山本は空中で半月状に避けてすかさず棒を掴みそのまま地面で回転して棒を奪い取り、棒の切先は日向の顔面を捉えた。
「それまで!それまで!」
闘千が再び二人を制する。
山本は棒を後ろ手に放り投げ、仁王立ちとなった。
バツが悪そうに目を逸らしながら、日向が。
「ま、参りました。」
降参を告げた。
と、そこへ一人の男がスタスタと上がりこんできて、
「いやー、今時道場破りとは物珍しいものを観ました。山本君棒を返してあげなさい。」
誰かと、訝しがるが、一先ず棒を拾って日向に返した。
「さっさと去りなさいよ。負けたんだから。」
そう言われ、苦悶の表情を浮かべひょこ、ひょこと日向は帰って行った。
「これは、これは、仁どの。お久しゅうございますな。会うのは、十年ぶりか?」
「いやー、闘千どの。ご立派に成られたな。しかし、お主は良い弟子に恵まれ羨ましい。」
「なんぞ、立ち寄られる御用が御座いましたか?」
「実は願いごとが御座いましてな。」
「なんなりと、お申し付け下され。他ならぬ御仁からの仰せとあらば。」
「実は、ここ最近、斎藤道場なるものを開きましてな。入門者は、順調に集まったのだが、入ってそうそう辞める者が後を立ちませんでな。」
「一体何故で御座ろう?お主ほどの御仁に教えを乞うて辞めるとは?」
「そのことでね。相談したいんだ。訳は道場で話すから、何も言わず弟子を2.3人貸しては貰えないだろうか?」
「他ならぬ仁殿からの頼みだ。真琴、祐樹、翔太、すまんが斎藤殿と一緒に道場へ行ってくれんか。私が以前大変お世話になった御仁でな。」
「はい。」
「はい。」
「分かりました。」
「いやー、流石は櫛名田どの話しが早くて助かる。では、三人をお借りする。着いて来てくれ。」
闘千の1、2、3番弟子を連れた斎藤は道場への道すがら話しを切り出した。
「辞めて行った門下生はな。皆入って一週間位の子達ばかりだったんだよ。何故か恨みを買った憶えは無いんだけどね。尽く道場からの帰り際襲われてね。それで、辞めてしまったんだ。相手の特長は、ヤクザ風らしいことを聞いたんだが、全く覚えが無いんだ。それで、君達を臨時の弟子に迎えたかったんだよ。」
「しかし、話しが妙じゃな?ならば何故、斎藤殿が直接送ってやらなかったのじゃ?」
「ああ、君は闘千さんのご息女だね。」
「ことがあってからは送ったさ。しかし、それ以外の時に襲われるらしい。正直、何がなんだか分からないんだ。」
「では、我らがその犯人を捕まえればよろしいのですか?」
「はは、頼もしいね。でも、危険な目にはできるだけ合わせたく無い。着いたよここが道場だ。先ずは、道着を着替え私に型を見せておくれ。」
「構いませんが、それだけですか?」
「もちろんそれからの頼みもある。が、先ずは、実力を知りたい。よろしく頼むよ。」
「分かりました。では、真琴、翔太、アレを出してくれ。」
「ああ。」
「ん?それはなんだい?」
「ドスに見たてた木刀です。刀には黒い粉が塗ってあって、対武器戦闘の稽古に使っていて、擦れば色が付く仕組みなんです。」
「ほう、流石は櫛名田さんだ。おもしろい僕にも使わせてくれ。」
「?構いませんが、斎藤さんが使うんですか?裁くのなら分かりますが。」
「実はね、斎藤流を名乗るまでは、僕が武神流の正当後継者だったんだよ。当千どのの起こした武神流。つまり、櫛名田流の源流は二千年にも遡っていて、今の様な護身術ではなく、実践武術、それも武器使用当たり前の超危険極まりない武術だったのさ。ところが、それじゃ現代に即さないってんで、真琴さん。君のお父さんが改良して、護身術に仕立てたものだったんだ。」
「初めて聞いたぞ?そんな話し。」
「先ずは、論より証拠。三人まとめて掛かって来なさい。」
木刀を持った斎藤が構える。
三人は、対峙した時の圧倒的な強さを感じ取っていた。
「祐樹、翔太。本気で行くぞ!」
「でやあぁぁぁ!」
to be continued....