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廃棄世界物語 Red coat   作者: 猫弾正
PA.311年 ヴァルカン 
2/9

猫耳踏んじゃった

 裂度鋼徒レッドコート惨状!灰汁は滅びた!


「……なんか色々と字が間違ってない?」

「大丈夫。意味は通じる」

 廃墟と化したビルの壁にでかでかとスプレーで落書きしていた歩兵二人が、やり遂げた笑顔で肯いていた。


 他の歩兵たちは、戦勝を祝う何らかの儀式なのか。バンデットたちの死体を男女問わず持ってくると、首から『わたしは敗北主義者です』とドイツ語で書いた看板をぶら下げて電柱から吊るし上げていく。


 猫耳に対する治療の手を休めて、不安そうに部下たちの行動を眺めていたギーネ・アルテミスは顔を明後日の方角へと逸らした。

「わたしは何も見ていない。そう、見ていない」

 歩兵たちにインストールした簡易軍事知識プログラムが間違っているような気がしてならなかったが、気のせいだと必死に自分に言い聞かせる。

 猫耳の娘は5.56mmを七発も撃ちこまれていたが、今はギーネの手によって摘出されている。

 外科治療に関して彼女は一級の手腕を有していた。再生レーザーとナノマシンジェルを駆使した治療で傷ついた内臓まで完全に復元され、失った血も人工血液パックによる補液を受けている。


 第二、第三分隊の新兵たちが真剣な表情で遊んでいる一方、第一分隊の古参兵たちはトレーダーやハンターたちの首に掛かっているドッグタグを回収していた。

 ドッグタグは、町の戸籍や市民権を証明する簡易の身分証でもあり、後でギルドに届け出ることで縁者に訃報を知らせることが出来る。

 必ずしも義務付けられているわけではないが、ハンターの間では推奨されている行動であるし、行なう事で救われる人間もいるかも知れない。


 ギーネの手によって創り出されたバイオソルジャーは、いずれも非常に高性能の生体式自律人形である。

 普通の人間とは比較にならぬほどに強靭な骨格と筋肉をベースに、優れた反射神経と反応速度を擁しており、大型の銃器を軽々と扱い、格闘すればコンクリートをぶち抜き、自動小銃で30メートル先の移動標的に軽々とヘッドショットを決める。

 意志の統一が為され、各個の役割が分担されたバイオソルジャー15名による戦闘集団というのは実は恐るべき戦力であって、五十名近いバンデットを損耗なく一方的に殲滅したのも、その実力の一端を示したものと言えるだろう。


 バイオソルジャーの高い戦闘力を生かしてのハンター稼業は一見、順調にも見えるが此処に来るまでは実に前途多難であった。

 ギーネとアーネイは、元々、惑星ティアマットの生まれではなく、革命の嵐が吹き荒れるアルトリウス帝國からの亡命者であった。

 ハンターになった当初、ギーネの相棒は少尉……アーネイただ一人だけであり、しかもティアマットの社会に関しては、二人とも全く無知もいいところだった。

 二人は幾度となく騙され、ピンはねされ、襲撃され、浚われかけた。

 現在とは別人のように用心深かったギーネの慎重さと、バイオソルジャーであるアーネイの微塵の容赦もない鉄火の行使、そして幾ばくかの幸運に助けられなかったら、二人はとうに無残な屍をティアマットの曠野に晒していただろう。

 何年かの冒険の後、紆余曲折を経てギーネとアーネイは三人目の仲間となるヴァイオレットを得た。

 戦闘力を飛躍的に高めたチームは、やがて新たなバイオソルジャーを創造するだけの生体材料を獲得する余裕を持ち、ギーネの手によって今は伍長であるフィーアが誕生した。


 英国の戦列歩兵に範をとったギーネのチーム『レッドコート』は、そうして6名の分隊規模となり、やがて二個分隊12名となり、今や三個分隊編成15名まで規模が増強されている。

 レッドコートと言うからには、やはり旅団か、連隊。

 は無理だろうから大隊。

 が難しいのは分かっているから、中隊。

 いや、贅沢は言わない。せめて小隊。

 バイオソルジャー30名を育てあげ、完全に連携の取れた無敵の一個小隊を編成するのが、科学者としてのギーネ・アルテミスが何時か叶えたいささやかな野望であった。

 取り敢えずの目標であった3個分隊の完全充足18名に手が届きそうなので、亡命貴族の機嫌は悪くない。


 三個分隊編成となってからは、ハンターとして出来ることも格段に増えていた。

 収入も鰻上りで、探索で時折、入手したバイオマテリアルに市場で買いあさった出物を足すことで、半年ごとに新兵を増員できるほどの成果を獲得していた。

 しかし同時に、一体当たりのバイオソルジャーに掛ける調整と教育にかける手間隙と時間も大幅に省かざるをえなかったのだ。

 かつては四年、五年を費やして、擬似淡白脳のシナプスとニューロンネットワークを発達させながら情緒の育成に付き合ってきたのが、ここ最近は育成期間が一年二年と短縮されている。

 或いは、即席培養の弊害が出てきたのか。期間の短縮が新兵たちの人格に悪い方向に影響を及ぼしているのではないか、とギーネは憂慮せざるを得なかった。


 

「大丈夫……全ては順調、順調である……わたしの計画に狂いはない」

 己が精魂込めて丹念に創り上げたはずのレッドコートの歩兵たちが、実はアホの子かも知れないと言う恐ろしい想像にギーネは身を震わせた。

 手塩に掛けた部下たちの真の姿に薄々気づきながらも、現実から目を逸らしている主人の姿を見て歩兵たちがニヤニヤと口元をゆがめた。

 《天才科学者wが悩んでいる》

 《帝国最高の頭脳の持ち主w》

 《お前ら。私たちの創造者なんだからもう少し敬意を払えよ》

 《大丈夫、愛しているよ》

 《特に悩んでいる姿が愛らしい》

 《自重しない新兵たちを見て不安に苛まれているんですね……いいぞ、もっとやれ》

 《泣きそうな顔も可愛いな》

 《可愛いよ、ご主人、可愛いよ》

 《ご主人prpr》

 欲望に塗れた部下たちの通信を耳にしてヴァイオレット軍曹が恐ろしい表情となっていた。


 車の傍に蹲って両手で耳を塞ぎながらぶつぶつ呟いている主人の元へと、少尉が歩み寄った。

「お嬢さま」

「……ひっ!」

 ギーネの配下で唯い……随一の忠誠心を持つアーネイ少尉が心外そうな顔で主人を見つめる。

「何故、わたしを見て脅えるんですか?」

「……脅えてない!脅えてないもん!だけど脅かしたことを謝れ!」

 この方が悪いわけではない。病気なのだ。

 数年来、強いられてきた過度の緊張の反動でアホの子になってしまわれたのだ。

 それにぼっちに反論してあまり追い詰めてもよくない。

 釈然としないながらも不憫に思った少尉は、憐憫の情に打たれて頭を垂れた。

「すみません」

「うむ……許す!」

 少尉と軍曹だけは、安心できる。

 ようやく機嫌を直して嬉しそうにうなずいたギーネに、少尉が淡々とした口調で報告する。

「伝票やタグを集めました。どうやら、トレーダーたちはゼナの町に拠点を置く商人のようです」

 ゼナは、交易の中継地点として有名な町である。『レッドコート』がベースを置いている町コートニーからは50キロの距離であった。


 二人が話しているところに、軍曹も歩み寄ってきた。

 主の傍らで麻酔を打たれて安らかに眠り込んでいる猫耳を示した。

「で、そいつ。何者かは分かりませんが、どうします?」

「もう、食べられないにゃー」

 涎まで垂らして寝言を言った猫耳が、寝返りを打って尻をぽりぽりと掻いた。

 軍曹が険しい目を向ける。

「マスター。そいつ、実は起きていませんか?」

「この猫耳……本物だろうか?」

 首を傾げての主人の疑問に、軍曹が無造作に指を伸ばして猫耳を触るとピクピクと動いた。

「本物ですね。動いてます」

 ギーネは羨ましそうに、しかし、臆病そうな様子で猫耳を弄る軍曹を眺めていた。

「愛玩用ミュータントかな?ぼろい服を来てるが首輪も腕輪もない」

 首を傾げてから、手に入れた乗用車の後部座席に放り込むように指示した。

「一応、連れ帰ろう。ギルド支部で照会すれば、何か分かるかもしれない」


 


 レッドコートの一団が曠野で車に揺られる事、三十分。

 地平の彼方にコンクリートの城壁で囲まれた町が見えてきた。鋼鉄製のゲートは、最初から全開で開いている。ミュータントやモンスター、バンデットが攻めてきた時のみ、急ぎ閉じられるが、普段の出入りはそう厳重でもないのだ。

 尖塔では双眼鏡を手にした兵士が地平線を見張り、市の城壁には迫撃砲や重機銃が備え付けられている。


 舞い上がる砂塵で車の接近に気づいた門番たちが何事かと目を凝らすが、すぐに見覚えのある車だと気づいて安心した様子で銃を下げた。

「……あれはレッドコートだな」

 コートニー市を拠点としている凄腕ハンターの一団として、レッドコートは結構、顔が売れていた。

 門の前で停車した車列の一団に、顔見知りの警備兵が駆け寄ってきた。

「アルテミスさん!お帰りですか」

「……ああ」(知らない人がきた。何故、そんなに顔を近づけるんだろう。なんか恐い)

 ギーネは警備兵を一瞥すると、言葉少なに肯いた。

 根っからの人見知りなので、門番をちらりと一瞥だけすると顔を逸らした。

 ギーネ・アルテミスは、外見だけは冷たい美貌を誇る妙齢の美女である。

 黒装束を身に纏う銀髪の麗人は、深く知らない人間が見れば怜悧な凄腕ハンターと思うのも無理はない。

 少尉が主人と門番の間にさりげなく割ってはいった。

「なにかな、ハンスさん」

 赤い髪を短く揃えた少尉もシャープな美貌の持ち主であり、話している門番は少し嬉しそうな顔をする。


「新しい車ですね。アーネイさん。拾ったんですか?」

 気を取り直した警備兵が少尉に尋ねかけた。

「ああ、隊員も増えたし丁度良かった」

「おめでとうございます」

 複数の工業国家が存在する先進惑星などと比べれば、崩壊世界では車は極めて貴重品な財産となるが、警備兵は嫉妬した様子も見せずに、にこやかに幸運を祝福している。

 二、三の挨拶を交わしているうちに、城門担当の市の役人がやってきて少尉を相手に手続きと世間話を始めた。


 門番は鼻の下を伸ばしたまま、詰め所にいる仲間たちの所へと戻っていく。

「一言だけど、ギーネさん……司令と話しちゃったよ。俺」

「マジ?どんな声だった」

 興味を示した警備兵たちの質問に肯きながら応える。

「ハスキー系かと思っていたけど、意外と穏やかな澄んだ声だったぜ」

 詰め所のテーブルでカードをしていた歩兵たちも話題に乗った。

「あの人、滅多に喋らんのよな」

「少なくとも俺は聞いたことないな」


 それまで沈黙していた熱心な民主主義信奉者の痩せた兵士が、眼鏡を光らせながら口を尖らせる。

「帝国からの亡命貴族だ。こんな荒れ果てた惑星の住人など、愚民とでも思ってるだろうさ」

「俺のアルテミスさんは、そんな女じゃねーよ。クールだけど、誰に対しても見下したような態度は取ったことないぞ」

 民主主義者の皮肉っぽい物言いに対して熱心に亡命貴族を擁護する門番の兵士は、確かにギーネの熱心なファンで、市中に流通するブロマイドを何枚も買い集めていた。

「誰がお前のだよ。アルテミスさんは皆のアイドルだろ。でも、確かに喋らんな」

 賛同した兵士も、妻に秘密でギーネのブロマイドを持っている。

 凄腕のハンターは若者たちにとっては憧れであり、美貌と力を兼ね備えた高ランクの女ハンターは、花形でもある。

 亡命貴族と言う経歴に加えて、寡黙で謎めいた雰囲気を漂わせるギーネは、ミステリアスな魅力もあってコートニー市のハンターの中では上位に食い込む人気を誇っていた。

「なにか伝える時は、アーネイさんやヴァイオレットさんにだけ耳打ちするな」

「気持ちを許した家臣だけと言葉を交わしてるんだな」

「なんか百合っぽいな」

「ふざけるな。あの人はストレートに決まってるだろ。俺みたいな男がタイプだってこの間、夢で言ってたぜ」

「ストレートだとしても、お前にはなびかねーよ」

「百合だね。俺の百合センサーにそう反応している」

「いや、俺には分かる。きっとドSだぜ」

「それがいいんだ。あの冷たい目付きがたまらん。罵られてみたい」


 警備兵たちの会話に聞き耳を立てていたレッドコートの歩兵たちは、表情一つ動かさずにトラックの荷台に座り続けながら体内無線で交信を続けている。

 《ドSwww!ご主人がドSwww》

 《残念、ボッチですから》

 やがて手続きが済むと、レッドコートの車列は、何事も無くゲートを通過していく。

 後ろのトラックの荷台に乗ったレッドコートの数人が、気さくに警備兵に手を振ったりしている。

「可愛い子、多いなぁ」

「でも、あの子ら。全員、生体式自律人形か、強化人間だろ?」

 表情豊かなレッドコートの隊員を見送りながら、警備兵は頭を振った。

「人形ってことはないだろう。人形なら、もっと無表情で融通が効かないぜ」

「アルテミスさんも遺伝子改造した強化人間なのかな?

 四年前に町にやってきた頃から全然、容姿が変わってないぜ」

「でも、もうこの際、人形でもいいわ」

「……俺も」


 

「……なんか寒気がする」

 ギーネが微かに身を震わせた。乗用車を運転していた少尉が心配そうに話しかける。

「風邪ですか?」

「分からない」

 正体不明の悪寒に首を傾げてから、ギーネは手元に収入と支出を記したメモを取り出した。

「ところで……三個分隊編成になってから随分と仕事もやりやすくなった。

 バンデットのかなり大きな集団も殲滅できるようになったし、これからは動ける車を見つける機会も増えると思う。で、レッカー車を買おうと思うのだが」

「いいお考えかと……探しておきますね」

 運転席で肯いた少尉も主人に提案した。

「しかし、こう大所帯になるとチームにメカニックが欲しいところですね」

「無理を言うな。知らない人と話すのはちょっとだけ緊張する。あくまで、ちょっとだけだがな」


 町に入ってから、歩兵たちのコートや軍服は微妙に色合いを変えていた。彼女たちの軍服には視覚迷彩効果が合って、周囲の景色に併せて、色彩を自動調整できる機能が付いていた。

 光学迷彩は高価すぎて手が届かないが、色彩の変化程度でも多少の隠蔽効果は見込める。

 それにしても赤い色は目立つ、と少尉は顔を曇らせた。

 くすんだ赤に妥協してもらったものの、出来るならばもっと地味な色合いか、意匠に変更したいものだと常々、考えていた。

 赤にしても一か所くらいならさほど目立たない。

 制服の変更を試みて「肩を赤く塗りませんか」と主人に提案してみたが「貴様、塗りたいのか?」と何故か厳しい表情で退けられてしまった。

 状況によって軍服を着替えればいいと少尉は思うのだが、主人にとってはなにやら譲れない一線らしい。


 文明の崩壊した世界でも人々は逞しく生きていた。コートニー市の大通りは、結構な人通りで溢れかえっている。

 旅人たちが町の住人から銃弾や水を買い求め、稼動部から煙を上げてるロボットがよたよたとさ迷い歩き、溝に転がった死体を甲殻の鱗を持つ犬が貪り、醜く変異した肉体をフードで隠したミュータントが暗い瞳で路地裏から天を見上げている。

 怪しい紫色の肉や合成淡白を焼いている屋台や露店が軒を連ね、天幕を張ったり、車の荷台に衣服や武器弾薬を置いて売っている商人。金属部品を買い取る商人に鍛冶屋もいる。

 二本足の巨大な鳥にライフルを括り付けたテンガロンハットのガンマンたちが横道から飛び出してきて、クラクションを鳴らしながらのろのろと進む車列の横を駆け抜けていった。

 ギーネ一行は町の大通りで停車した。ギーネと少尉、気絶している猫耳を担いだ軍曹。二名の歩兵が車から降りると、五階建てのビルへと向かった。

 フィーア伍長率いる五名の歩兵が買い物要員として市場へと向かい、残りの者はレッドコートの拠点。町外れにある廃ビルへと車で帰還していく。


 元は区役所だったらしい五階建てのビルは、今はハンターギルドのコートニー第五支部となっている。

 扉を開けて中に入ると、中は西部劇の酒場と見まがうばかりに古風な装丁が広がっている。

 壁には賞金首のポスターや仕事の張り紙がべたべたと張りつけられている。

 テーブルやカウンターに座っていた複数の男女が、ギーネたちに鋭い視線を向けた。僅かだがミュータントもいる。差別を受けやすいミュータントにとっては、危険ではあるが実力主義のハンター稼業は他の仕事よりましなのだろう。

「レッドコートだ」

 恐れを含んだ囁くようなざわめきが、ハンターたちの間に広がった。

 人見知りのギーネには、辛い雰囲気なのか。表情はやや強張っている。

 逆に軍曹は仏頂面でハンターたちを睥睨し、少尉は無表情に歩き出した。


 ハンターたちが慌てて道を開けたので、少尉はカウンターに生首を放り投げた。

「賞金首のデギルだ」

 受付嬢は生首に顔色も替えずに、機械を取り出して遺伝子をチェックする。

「確かに。ただいま賞金の一千GCをお持ちします」

 コンピューターのキーを叩くと、提示版に貼り付けてある賞金首の手配書の一枚に赤い×印が大きく浮かび上がった。

「1000GCか。羨ましいぜ」

「……浴びるほど酒が飲めるな」

「連中は大所帯だ。それほどの金額にはならんさ」

 ハンターたちがざわつき、囁きあっている最中、カウンターの奥でブランデーを啜っていた禿頭の男が立ち上がってレッドコートの一行に近づいてきた。


 

「よう、アルテミス。戻ってきたのか?」

 ギーネは、無言で肯いた。傍らの少尉が支部長に語りかけた。

「町の北西30キロ地点で。国道4号沿いの駅前。トレーダーがバンデッドに襲われていた」

「あの車は、ハイエナしたのか?」

「バンデットからの戦利品は、好きにしていいはずですよ」と軍曹。

 少尉は「間に合わなかった」と口にする。

 どうだかな。と支部長や何人かのハンターは思ったが口にはしなかった。

 バイオソルジャー15名を従える指揮官ともなれば、この町のハンターの中でもかなり上位である。

 支部長も一級のハンターであるギーネ・アルテミスの機嫌を損ねたくなかった。


「……トレーダーの一団が壊滅か」

 渋い顔をするギルド支部長に、少尉がポケットからタグの束を取り出して手渡した。

「これがトレーダーとハンターのタグです」

 ギーネが口ごもりながら、軍曹にそっと耳打ちする。

「ええっと、たしか、闇夜の……だっけ?」

「闇夜違う!……暗黒フェンリル軍団です」

 咳払いして訂正した軍曹の言葉に、少尉が思い出したように支部長に話しかけた。

「そう……暗黒フェンリル軍団。それを五十人くらい殺した。メンバーに賞金、掛かっているかな?」

「暗黒フェンリル軍団の隊員なら、一人当たり40GCギルドクレジット支払われる。

 証拠はあるか?」

 ギルドクレジットは、ハンターギルドの発行している通貨である。信用度は極めて高く、ギルド支部の在る大抵の町で流通している。

 次元ゲート管理局の発行するレンドルよりも多く流通し、大陸中央銀行のオーガン紙幣よりも信用度の高いGC紙幣は、危険な地区になればなるほど好まれていた。


 手の内を晒すことになるので戦闘テープは一部しか見せないが、戦闘後の敵の顔を撮影した写真をプリントアウトして支部長に提出した。

「おう、凄まじいな」

 死体に赤字でNOを振っていく。支部長と部下たちが折衝して賞金を精算している間に、腕組みして壁に寄り掛かったギーネは所在無げに足元の蟻を観察していた。


 レッドコートは市街の内外に潜んでいる凶暴なミュータント退治やバンデット掃討を好んで引き受ける為、コートニー周辺はいくらか治安が良くなってきている。

 そういう意味でも、強力なハンターは何処の町でも引く手数多であった。

 が、ハンターは風来坊が多い。

 居心地が悪くなくとも、あっさりと町から出て行く事も有り得た。

 なので、ギルド支部長も出来れば、機嫌を取っておきたいのだが。


「いい加減、ランキング上げろよ」

「……興味ない」

 清算した札束を持ってきた支部長が飴のつもりで提案したのだが、ギーネは首を振るうと目を閉じた。

 レッドコートの現在のハンターランクはDクラス。

 だが、支部長の値踏みするところ、戦力的にはBクラスに匹敵していた。

 状況と相手によっては、Aクラスハンターをも凌駕する戦闘力を発揮できるだろう。

 15名のバイオソルジャーというのは、それだけの戦力なのだ。

 ハンターランクが上がれば、ギルド経営の宿舎や協賛している宿屋で割引となったり、食材や武器、弾薬、車両の整備も安くなる。その他には賞金首や稼働中のプラント、宇宙港など文明崩壊以前の遺跡の情報提供も格安、或いはロハで受けられる。

 高ランクには色々と特典があるのだが、しかし、ギーネは別にハンターとして上を目指している訳ではない。


 アジトはすでに確保していたし、弾薬の割引もFランクで充分に安かった。

 遺跡漁りには既にそれほど興味もないし、賞金首の噂も町で情報屋に依頼すれば簡単に手に入る。なにしろ、他のハンターにも流れているのだから。

 それに、ランクが上がるとギルドや町から名指しの依頼や要請もあるのだが、一部は強制なのだ。

 ギーネからすると、C以上のランクアップはメリットよりデメリットの方が大きかった。

 強制。ぼっちであるギーネが此の世で一番、嫌いな言葉であった。

「はい、二人一組でペアを作ってください」

 ギーネの脳裏に忌々しい教師の声が蘇り、屈辱に満ちた学校生活の思い出が胸を焼く。

 考えてみれば、あれが彼女にとって人生最初の挫折であり、躓きであった。

 ギルド支部長も最初は変人にしか見えないギーネを冷たくあしらった為、互いの第一印象は兎に角悪かった。

 ギーネは付き合いが深まってギルドに取り込まれるのを危惧していたし、ギルド長は一向に馴染まないギーネの思惑を図りかねている。

(悪人ではないんだろうがな。何を考えていやがる。ギーネ・アルテミス)

 ギーネ・アルテミスに限っていえば、銭ゲバでもないようだし、市での権力や影響力を望むような素振りも見せてはいない。

 壁に寄りかかって静かに瞑目しているギーネの横顔を見ながら、支部長は僅かに目を細めた。


 バンデット二個小隊を一方的に殲滅。

 火力も相当なもんだが、それよりも犠牲が皆無ってのも大したものだ。

 出来るなら、うちと専属契約を結んでもらいたいものだが……こればかりはな。

 ランクが高まるのを嫌がるのは、大抵、理由有りの奴だ。


 

 ギルドのランクが高ければ、知名度が上がる。それは特権の享受を意味すると同時に、同業者や賞金首の注目を集めやすいということでもある。

 文明の崩壊した廃棄世界ティアマットは、次元世界の果ての掃き溜めであり、他所の次元世界や外惑星からの亡命者や逃亡者、犯罪者も少なくない。

 中には、本国からの追っ手を恐れている者も珍しくはないのだ。


 専属契約と言うのは、ギルドの支部のいずれかと数年単位、或いは永続的な契約を結び、支部に所属することである。

 ハンターギルド本部とのやり取りや契約も支部を通してのみとなり、支部の指示で行動する事になるが、代わりに支部から契約金と給与が支払われ、メカニックや治療のバックアップを受けることも出来る。

 実力のあるハンターで契約しているものは、三割ほどだろうか。


 かなり大きな市であるコートニーには、ギルドの支部が大小九つあった。

 そのうち第二、第八は名ばかりの貧弱ギルドであり、第四は悪評が酷く、第六は支部長が病気に倒れた影響でごたごたが長引いている。

 出来たばかりの第九支部は、小さすぎてよく分からない。

 実質的に機能しているのは四つ。老舗の第一支部、商会と繋がりの深い第五支部、駐屯軍の紐付きと言われる第七支部。そして荒くれ者の多いこの第三支部である。


 ちなみに第五支部は警備の仕事が多く、ハンターの幾人かは町の警備兵を兼任している。

 第七支部では、スカウトされて軍属になったハンターも多い。

 第五と第七に緩やかな対抗意識があるのと、第四が大方に嫌われているのを除けば、支部の間に敵意などは存在しない。


 支部など意識せず、利用しているだけのハンターも多いが、その一方でハンターによっては支部と専属契約を結んで紐付きになったり、色がつくのを嫌って支部を移ったりのごたごたもあった。


 レッドコートは二年ほど前から第三支部に出入りしているが、それ以前は主に第五支部を利用していた。

 別に第五支部の面々と揉めたり面倒ごとを起こして移った訳ではなく、拠点を構えたビルに近いので自然と第三支部に出入りすることが多くなっただけである。


 当時のレッドコートは、リーダーのギーネを含めて十二名。

 確かに強力なチームではあったが、第五支部が固執するほどには魅力的なチームではなかったのだろう。

 ギーネも色が付くのを嫌って専属契約は結んでおらず、表面上のビジネスライクな付き合いだけに終始していた為に、河岸を変えたことにも摩擦は起きなかった。


 アルトリウス帝国の亡命貴族か……そもそも、ギーネ・アルテミスってのは本名なのか?

 これだけの部下がいて尚、脅かされるほどの追っ手が差し向けられる可能性もあるのか。

 色々ときな臭いが、ハンターの前歴を問うってのも野暮ってもんだ。


 苛烈で知られたアルトリウス共和派の諜報機関ゲルニカは、帝国政府を支援する王党派の人間を内外問わずに非合法に暗殺しているとの噂だった。

 ギーネが、ランクの向上をいやがる理由もそこらへんに在るのかもしれないと、支部長は推測していた。


 

「それで、そいつはなんだ?」

 気を取り直した支部長が、ヴァイオレット軍曹がずっと肩に担いでいる猫耳の女性を眺めて突っ込んだ。

「愛玩用の自律人形でも見つけて、売りに来たのか?」

「現場で拾いました」

 ベルトを掴んで軍曹が猫耳を支部長に差し出した。

「バンデットかも知れないし、トレーダーの下働きかも知れない」

 少尉の呟きに支部長が目を光らせた。

「ふむ。いっちょ尋問するかね」

 ティアマットは命の安い世界だから、間違いで人を殺しても警察は要らない。御免ですんでしまう部分がある。後ろ盾がいない人間だと尚更である。


 

「ギニャ゛!」

 コンクリートの床に乱暴に放り投げられ、バケツで水をぶっ掛けられた衝撃に目を覚ますと、後ろ手にナイロンザイルで縛られて身動きが取れなかった。

 周囲を見回してみれば、何人もの男女に囲まれている。サイボーグやミュータントもいて全員が武装しており剣呑な雰囲気を放っている。

 気を失う前に彼女を取り囲んでいた、赤い軍服の女たちもいた。

 いや、一人だけ。黒装束を纏った銀髪の女が、腕組みして壁に寄りかかっていた。

 他は誰も彼も見るからに凶暴そうな連中だったが、その女だけは異質な雰囲気を纏っており、酷く冷たい無関心な眼差しを猫耳の娘に向けていた。

「お前は何者だ?無線で問い合わせたが、キャラバンの構成員にも護衛にも登録はない」

 凶暴な顔つきの支部長がずいと猫耳に詰め寄った。

 荒くれ揃いのハンターギルドの纏め役を任せられているだけあって、恐ろしい迫力だった。

「商品か、それともバンデットの一人か?」

 どすの聞いた声に猫耳は震え上がった。

「ど、どちらでもないニャ」

「こんな時でも語尾にニャをつけるとはな。あざといな。さすが猫耳。あざとい」

 赤い軍服の歩兵の一人が呟いて、ギーネは悩ましそうに額に手を当て、軍曹はにらみつけた。


「歩兵共の脳みそは、相変わらず残念ですな」

 やや離れた位置に立って眺めていた少尉の呟きにギーネが眉を顰める。

 少尉に耳打ちするようにそっと囁いた。

「何分にも調整期間が短かったし、生体頭脳もちょっと値段の安い蛋白質を使っているから」

 言ってから、慌ててギーネは小声で捕捉した。

「元々の性能の問題だ。けしてわたしの人格を基本に転写したからではないぞ」

 転写した記憶だってほんの一部分だし……と呟くギーネに少尉が白い目を向けた。

「我々は何も言ってませんよ。マスター」

「そっ、そうか。ならばいいのだ」

 一連のやり取りを無線で傍受していた軍曹が不味いコーヒーを啜りながら眉を顰めた。

「……墓穴を掘るような言動は慎めばいいのに」


「そうだ!ギルド本部に見習いとしての身元引受人を調べて欲しいニャ」

 床の上では、縛られた猫耳がハンターたちに必死に弁解していた。

「その人が隊商の護衛についていたはずニャ」

 支部長がカウンターの受付嬢に視線を向けると、無線で話していた受付嬢が肯いた。

「ああ、確かに師匠は死んでいたハンターの一人です」


「ふうむ。なるほど。護衛の一人だったか。悪かったな」

 猫耳は困ったような顔をして支部長を見上げた。

「実は護衛でもないのニャ」

「なに?どういうことだ」

「あちしは、湖の近くに在るソレトから、助けを求めにきたのニャ」

「ソレト、車の整備や製造で有名な町ですね」

 少尉の言葉に興味を覚えたのか、ギーネも人ごみに近づいて猫耳の話に耳をそばだてる。

「ハンター見習いに登録したのは、腕のいいハンターを雇用するのに、大きな町に入るための身分証にするつもりだったニャ」


「それにハンターだと、町を出入りするのに通行料がまかったりするからな」

 猫耳の言葉に支部長が相槌を打ちながら、続きを促がした。

「あちしたちの町はいま、賞金首の悪漢に支配されてしまったのニャ。そいつを頭にしてどんどん悪党が集ってきていて、今は三十人くらいの悪者が好き勝手してるニャ」


「ミュータントが使者か。ソレトの町の住民も思い切ったものだな」

 土地によってはひどく差別される。人を雇う仕事には不向きだろうとふと思ったギーネは、傍らの少尉に何気なく疑問を口にした。

「ソレトの住民は三割がミュータントだよ。士爵」

 隣にいた浅黒い肌をした精悍な顔つきの女ハンターが教えてくれた。

「大戦時の変異性バクテリアの影響らしい。今は水も浄化されたが当時は大騒ぎだったそうだ」

 対物ライフルを背負ったサイボーグのハンターが無表情で捕捉してくれる。

「勿論、他ほどではないが差別は残っている。

 だが、逆に市民扱いされていないからこそ、悪党共に重視されずに町を逃げ出せたのかも知れん」

「なるほど……色々と複雑な事情がありそうだな」

 ギーネは帝国貴族らしい慇懃かつ優美な仕草で、見ず知らずのハンターたちに礼を述べた。


「お、お金はあるニャ」

 報酬は、と支部長に突っ込まれた猫耳が懐をごそごそと探って顔色を青くする。

「ない、ないにゃ!町の皆から預かった大切な証文が!」

「……これか」

 軍曹が紙の束を取り出した。猫耳に差し出した。

「ほら、返すぞ」


「こ、これで、村を襲う悪漢を退治して欲しいニャ」

 猫耳の差し出した証文を見て、支部長が首を捻った。

 ソレトの町名義でティアマット中央銀行の証印が刻印されている。

「為替か。少し待っていろ」

「ちょっと確かめるぜ」

 支部長の支持でコンピューターを操作していた受付嬢が肯いた。

「たしかに口座に現金が入っています」

 一定の期間が過ぎるまで、名義人は解約も引き卸しも出来ない。

 ギルドを保証人とした立会いの元、契約が遂行されたら金がハンターに振り込まれる。

「五千といったところか。よくかき集めたもんだ」


「しかし、ソレトにだってハンターはいるだろう?」

 ハンターの一人が訝しげに口にした。

「皆、やられるか、逃げ出してしまったニャ」

 猫耳の言葉に鼻を鳴らした大男のハンターが、太く逞しい腕を誇示するように胸を叩いた。

「安心しろ。たとえ悪党が三十人いても、こっちには車やテクニカルが何台も……」

「待て、安受け合いするな」

 痩せて目付きの鋭いハンターが大男を制止すると、猫耳に鋭い目を向けた。

「おい。相手は誰だ?賞金首といったな」

「相手のリーダーは、ヴァルカンって言う装甲車に乗ったいけ好かない気障な男ニャ」

「ヴァルカン?」

「だけど奴は死んだって聞いたぜ」

 猫耳の言葉に、周囲のハンターたちが一斉に息を飲んだ。

「……ヴァルカンか」

 賞金首の名前を耳にしたギーネが、微かに目を細めて呟いた。

「APC乗りなら、パープルフレイムのヴァルカンか」

「C級首じゃありませんか」

「ヴァルカンは、A級首のレーザーネイル・マリオンに殺されたはずだ」

 ざわついている賞金稼ぎやハンターたちを見て、猫耳が不安そうに尋ねる。

「そんなに有名なのかニャ」

 支部長が声を張り上げた。

「通常の賞金3000に加え、8000で引き受ける奴はいないか?」

「……8000か」

「8000ってなると、もうB級首だな」

「俺たちがチームを組めば……幾らヴァルカンでも」

「だけどよ。車を持っていたって……相手はあのヴァルカンだぜ」

「歩兵用の機動甲冑なら……」

「あいつはナパームを使う。鎧ごと蒸し焼きだ」

「ゾッとしませんね」

 ハンターたちの脅えたような消極的な言動と態度に、猫耳はあからさまに意気消沈した。


「だれか……だれか助けてくれないかニャ」

 猫耳の縋るような言葉と目つきを前にして、しかしあるハンターは露骨に顔を背け、あるハンターは俯いた。

「おい、お前受けてやれよ……前にC級をやって名を上げるっていってたろ」

「い、いや。俺はちょっと調子が悪くてな」


「C級……いや、B級首を狩れそうなハンター、か。心当たりがないでもないが、さて、引き受けてくれるかな」

 何かを考えながら支部長が呟いている。

「B級首となると、コートニー広しといえどもそう多くはいないね。

 うちのギルドに出入りする連中だと、まずはアルテミスさんのレッドコートか」

 ハンターの一人が何気なく呟いた言葉に、支部長は周囲を見回して目を瞬いた。

「……おい、アルテミスは何処へ行った?」

「……ん、いねえな」

 戸惑っている支部長やハンターたちに、浅黒い肌の女ハンターが肩を竦めて答えた。

「士爵ならヴァルカンの名前が出た途端、目を細めて笑いながら出て行ったよ」

 ハンターたちが戸惑ったように視線を交わした。

「笑った?あの氷の姫君がか?」

「少尉と軍曹も後を追いかけていったな。もしかして、ヴァルカンとやりあうつもりか」

 別にそんなこともないのだが、モブの一人が無責任に適当なことをほざいた。

「そいつは豪儀だ。あの人なら、いけるかもしれないぜ」

 ベテランハンターの一人が考え深そうに肯きながら言うと、猫耳は砂漠でオアシスにたどり着いた遭難者のように目を輝かせて立ち上がった。

「そ、その人のことを教えて欲しいニャ」


「あの場の空気の流れだと、何となく私に押し付けられる。そんな気がした」

 人気の少ない裏通りを歩きながら、ギーネ・アルテミス士爵は小声で呟いている。

「考えすぎですよ。マスター」

 穏やかに慰める軍曹にギーネは頭を振るう。

「いいや、あの禿げ」

「絶対にわたしのレッドコートにヴァルカンを押し付けてきたね。

 だが、そうは問屋が降ろさなかった。わたしの優れた危機回避センサーが事前に察知して見事にフラグを躱したのだ」

 自画自賛するギーネ・アルテミス士爵。

 人ごみから離れた途端に饒舌になった残念美人の背中を追いかけながら、果たして主人の人見知りが解消される日はくるのだろうかと軍曹と少尉は危惧を抱いた。

 ギーネの横に並んだ少尉が首を傾げた。

「確かにこの町では、ヴァルカンを相手取れるチームは少ないですな」

「逃げるのですか?」

 主人の背中を追いながら、口々に訊ねかける忠実な部下たちの言葉にギーネは文字通り震え上がった。

「当たり前だ!だって相手はあのヴァルカンだぞ!」

「確かに恐ろしい犯罪者だと聞いていますが、レッドコートなら充分に……」

 軍曹の自信有りげな言葉に、ギーネは涙目になって嫌がっている。

「人間バーベキューを喜んでいるサイコ野郎なんか相手にしていられるか。絶対にごめんだ!」

 その言葉を聞いた歩兵たちが不満げに頬を膨らませた。基本的に主人に忠実なバイオソルジャーではあるが、各々の個体によって様々な欲求や嗜好は存在している。

 好戦的な性格に創りすぎたのか。レッドコートたちは、ギーネの意に反してどうにも戦ってみたいようだ。

「怪物なればこそ、仕留められる機に仕留めておくという考えもありますが……」

 凄みのある低い声でふと洩らした軍曹の囁きに、ギーネは帰ったら湿った下着を取り替えようと思った。

 今日は熱かったから汗で濡れたのだ。この股の湿り気はけしてヴァルカンの名前を聞いてチビッたからではないのだ……多分。


 


次回予告 

大破壊によって人気の失せた廃墟の町。

鋼鉄とコンクリートの墓石は赤い獣たちの巣窟だ。

格好をつけて一人芝居しているところを、ぼっちは猫耳に目撃される。

目撃者には死を。容赦のない黄金の鉄の槍の穂先が不法侵入者に襲い掛かる。

皆に隠れて濡れたパンティを一人洗う夜は、寒い。

次回も、ぼっちとアホの娘分隊に付き合ってもらう。


初出 2013年 06月25日

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