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龍神の詩2 - 龍神の郷(旧バージョン)  作者: 白楠 月玻
二章 領主と神官
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二章一節 - 中州銀と龍神伝説

 与羽(よう)たち一行は、順調に馬を進めていた。


 今馬を歩ませているのは、両脇に田畑の広がる農地だ。稲を刈り終わった金茶の株から、再び緑の葉が伸びはじめているのが見える。

 その間では、小鳥が細かいわらをついばんでいる。落ちた米を探しているのだ。

 しかし、警戒心の強い野鳥は近くを馬が通っただけで逃げてしまう。


「ごめんな」


 与羽は一斉に飛び立つスズメの群れに謝った。


「与羽はやさしいのぉ」と舞行が目を細める。


 彼らが進むのは、中州を南北に貫く街道。南――中州と華金(かきん)の国境を起点に、天駆(あまがけ)領主の住む龍頭(りゅうとう)天駆まで続いている。

 地面はよく踏み固められ、幅も広い。

 街道の西には田畑の先に山地が迫り、東には城下町を流れるのと同じ月見川がある。上流に来たため、川幅はやや狭くなっているが、それでも中型の船が行き来できるほど広く、流れの激しさも健在だ。


 馬を進めてすでに三日が経とうとしているが、この辺りもまだ中州の地だった。中州城下町は中州の南方にあるので、北の天駆に行くためには、中州をほとんどすべて縦断する必要がある。

 ちなみに、城下町が中州の南にあるのは、南の敵国から国を守る砦の役割を担っているからだ。


 ここまで来て思ったが、中州は意外と広い。


 中州の特産品である銀を掘っている鉱山は、このあたりにあるはずだ。

 与羽は西の山々を見た。低い位置には木がなく、一面枯草に覆われていた。肥料や飼料に使う草を育てているのだろう。

 その先は次第に木が多くなり、最後には急峻な山脈がそびえる。鉱山らしきものは見えない。


「この時期は収穫や冬越しの準備で忙しいからね」


 与羽と同じく、西の山地を見ながら答えてくれたのは辰海(たつみ)だ。


「それに、冬になると雪で鉱山には入れなくなる。中州で銀を掘るのは、晩春から夏にかけてだけだよ」


「ふ~ん」


 答えが聞けたのはありがたかったが、考えを読まれているようであまりいい気はしない。

 与羽は不機嫌な顔をしながら、懐から笛を取り出した。城下町を出てすぐ、馬上で暇を持て余していた与羽に辰海が貸してくれたものだ。


 与羽は笛を吹きながら、雨のように葉を落とす山々を眺めた。彼女の奏でる曲は、中州に伝わる歌語りの伴奏。目的地――天駆(あまがけ)にも関係するものを選んで吹いている。


 龍神の降臨と中州の成り立ちを語る『中州龍神伝承歌』

 かつて、北の山脈の奥地におり立った龍神は、人間の少女と出会う。彼女は人間でありながら神通力を宿し、大地に咲く花を統べる力を持っていた。龍神――空主(そらぬし)は人間に代わって彼女を育てた。

 少女は大人になり、龍神との間に四人の子を成す。


 長子は風をつかさどる風主(かざぬし)

 二番目が中州と縁が深い長女、水主(みなぬし)

 三番目は大柄だが、心は誰よりもやさしかったと言われる大地の神――土主(つちぬし)

 末子の月主(つきぬし)は乱暴者だと語られる。誰彼かまわず暴力を振るう悪神だったと。


 彼らの父である祖龍――空主は、そんな月主から娘を守るために、風主に妹の水主を連れて逃げるよう命じた。


 空主自身は、次男土主とともに月主をいさめたが、月主は変わらない。彼を止めるために、土主は月主を組み伏せその身を巨大な山へと変えた。

 それが中州から天駆に伸びる山脈であり、彼らの鱗や骨が銀となったと言われている。

 そして、空主はその頭部で今でも月主をいさめ続け、自分の過ちに気付いた月主の懺悔の涙が月見川の源流となっている――。


 中州の子どもならば、みんな寝る前に聞かされる、有名な物語だ。

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