六章四節 - 玻璃の雫
その後は蓋をした衣装櫃に座らされ、袴の裾が絡みにくいように、ひざの下辺りで帯と同色の細布を巻かれる。
後ろで髪を結いながら前では化粧を施された。とても手際が良い。
できるだけ表情を変えないようにしていた与羽だったが、いつも左の額に撫で付けている前髪を掻き上げられた時だけは、顔をしかめた。
次の瞬間、化粧を手がけていた巫女がはっと息をのむ。それで一層与羽の顔は不機嫌になった。
「どうしたのですか?」と空が与羽の顔を覗き込んでくる。仕方なく、与羽は自分から額を晒した。
「なるほど。傷があるのですね」
そう、与羽の左眉の上には大きな傷があった。傷をつくってすぐ、しかるべき処置をしなかったため、醜く引きつった傷だ。
中州城下町の人はほとんど全員が知っているので、城下にいる間は意識して隠そうとはしないが、天駆に来てからは頻繁に前髪を撫で付けて隠していた。
「それでは少し化粧を厚めにして、遠目には分からないようにしておきましょう」
しかし、空は大して驚いた様子もない。巫女の手から化粧道具を奪うと、手際よく与羽の顔におしろいを塗っていった。
最後に、「『龍燐の跡』を持つ人にはこうするんです」とほほに黒と青の鱗を描かれて終わりだ。
髪も色糸を結い込まれ、鬣を模した房飾りをつけられていた。
「きれいですよ」
空は上から下まで与羽の格好を見る。いつの間にか彼の後ろへ下がっていた巫女たちも、頷いている。
「装飾品をつけなかったのは正解ですね。髪と目が宝石のように輝いて、とても美しいですよ」
くどき文句のような言葉を、空は全く照れることなく言う。
「でも、全く何もないのはさすがに少し寂しいですわ」
空の台詞に嫉妬したらしき巫女の一人が与羽に近づいた。
「たしか、珍しい白玉の腕飾りがありましたわ」
ほかの巫女が、すばやく装飾品の入った引き出しに飛びつく。
「いえいえ、少し袴の裾を上げて、翡翠の飾りを足首につけるのはいかがでしょう」
「彼女の目にあった、紫水晶の首飾りもありますわよ」
みんな少しでも空にほめてもらおうと必死だ。
与羽には、なぜ巫女たちがそこまでして空に気に入られようとするのか、理解できない。
「万事抜かりはありませんよ」
空がやさしげな笑みを浮かべて、袖に手を差し入れた。
巫女たちがはっとして空の方を向き、そのとろけるような笑みにうっとりと見入る。
与羽だけはいぶかしげに、眉間にしわを寄せていた。
「これを、職人に作らせておきました」
そう言って彼が出したのは、蜘蛛の巣状に編まれた銀糸の混じった白い糸に、大小さまざまなガラス玉があしらわれたもの。ちょうど雨の後、蜘蛛の巣に小さなしずくがついている状態に似ている。
ただ、こちらにはガラス玉の通された糸が何本も垂らされており、少しの動きで揺れ、ガラス同士が触れ合う涼しげな音を立てた。
空は自らそれを与羽の腰に巻く。