表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/38

六章四節 - 玻璃の雫

 その後は(ふた)をした衣装櫃(いしょうびつ)に座らされ、袴の裾が絡みにくいように、ひざの下辺りで帯と同色の細布を巻かれる。


 後ろで髪を結いながら前では化粧を施された。とても手際が良い。

 できるだけ表情を変えないようにしていた与羽(よう)だったが、いつも左の額に()で付けている前髪を掻き上げられた時だけは、顔をしかめた。

 次の瞬間、化粧を手がけていた巫女がはっと息をのむ。それで一層与羽の顔は不機嫌になった。


「どうしたのですか?」と(ソラ)が与羽の顔を覗き込んでくる。仕方なく、与羽は自分から額を晒した。


「なるほど。傷があるのですね」


 そう、与羽の左眉の上には大きな傷があった。傷をつくってすぐ、しかるべき処置をしなかったため、醜く引きつった傷だ。

 中州城下町の人はほとんど全員が知っているので、城下にいる間は意識して隠そうとはしないが、天駆(あまがけ)に来てからは頻繁に前髪を撫で付けて隠していた。


「それでは少し化粧を厚めにして、遠目には分からないようにしておきましょう」


 しかし、空は大して驚いた様子もない。巫女の手から化粧道具を奪うと、手際よく与羽の顔におしろいを塗っていった。

 最後に、「『龍燐(りゅうりん)の跡』を持つ人にはこうするんです」とほほに黒と青の鱗を描かれて終わりだ。

 髪も色糸を結い込まれ、(たてがみ)を模した房飾りをつけられていた。


「きれいですよ」


 空は上から下まで与羽の格好を見る。いつの間にか彼の後ろへ下がっていた巫女たちも、頷いている。


「装飾品をつけなかったのは正解ですね。髪と目が宝石のように輝いて、とても美しいですよ」


 くどき文句のような言葉を、空は全く照れることなく言う。


「でも、全く何もないのはさすがに少し寂しいですわ」


 空の台詞に嫉妬したらしき巫女の一人が与羽に近づいた。


「たしか、珍しい白玉(しらたま)の腕飾りがありましたわ」


 ほかの巫女が、すばやく装飾品の入った引き出しに飛びつく。


「いえいえ、少し袴の裾を上げて、翡翠(ひすい)の飾りを足首につけるのはいかがでしょう」


「彼女の目にあった、紫水晶の首飾りもありますわよ」


 みんな少しでも空にほめてもらおうと必死だ。

 与羽には、なぜ巫女たちがそこまでして空に気に入られようとするのか、理解できない。


「万事抜かりはありませんよ」


 空がやさしげな笑みを浮かべて、袖に手を差し入れた。

 巫女たちがはっとして空の方を向き、そのとろけるような笑みにうっとりと見入る。

 与羽だけはいぶかしげに、眉間にしわを寄せていた。


「これを、職人に作らせておきました」


 そう言って彼が出したのは、蜘蛛(クモ)の巣状に編まれた銀糸の混じった白い糸に、大小さまざまなガラス玉があしらわれたもの。ちょうど雨の後、蜘蛛の巣に小さなしずくがついている状態に似ている。

 ただ、こちらにはガラス玉の通された糸が何本も垂らされており、少しの動きで揺れ、ガラス同士が触れ合う涼しげな音を立てた。

 空は自らそれを与羽の腰に巻く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ