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六章三節 - 風主神殿

 

  * * *



 風主(かざぬし)神殿の人々は、舞手を心待ちにしていたようだ。まだ日が昇って間もないが、眠たげにする者はおらず、与羽(よう)は年長の巫女たちによってあっという間に神殿の奥へと連れ込まれた。

 彼女らの説明によると、ここは舞手の控え室らしい。早朝にもかかわらず、よく暖められている。


 その中央に立たされて、与羽は手際よく濡れていた小袖を脱がされ、清められた布で体を拭かれた。

 そして下着として白の小袖を身に付けさせられたところで、巫女たちは舞手の衣装が入った衣装櫃(いしょうびつ)の前で相談をはじめる。


「暗い色が彼女には合うと思うわ」


「何言ってるの。お正月なんだから明るい色にするべきよ」


「中州の子なんだから、黒と青にすべきだわ」


「それを言うなら、ここは天駆(あまがけ)よ。緑と黄色にしましょう」


 どうやら彼女らは、舞を舞う時に与羽が身につける衣装の色でもめているらしいが、待たされる与羽にとっては、たまったものではない。いくら部屋が暖かくても、冬の朝は寒いのだ。

 それを悟った誰かが、後ろから分厚い着物を着せ掛けてくれた。


(ソラ)?」


 気配だけで誰か察し、与羽が振り返る。


「風邪をひかれると困りますからね」


 その澄んだ低い声で気付いたのだろう、衣装櫃を覗き込みながら話し合っていた巫女たちの顔が一斉にあがった。

「空様!」とかん高い声があがる。


「人気もんじゃな、空」


 与羽がからかうと、「わたしは顔がいいので、もてるのです」としれっとして言われた。


 そして、真顔になって空は巫女たちを見る。前髪で顔が隠されている時に気付く者は少ないが、前髪があげられ顔が晒された今、空は誰がどう見ても好ましいと思う顔だちをしていた。しかも、彼の少し愁いを帯びたような瞳には、与羽でさえどきりとするものがある。

 空の指示を待ちながら、巫女たちは内心で黄色い悲鳴を上げまくっているのだろう。


蘇芳(すおう)の小袖と白の小振袖(こふりそで)に紅色の袴、紫斑濃(むらさきむらご)の帯と足緒(あしお)を用意してあげてください」


「は、はいっ!」


 空の指示に巫女たちが背後の衣装櫃(びつ)に飛びついた。誰が空の言った衣装を取り出せるか競うように中を漁る。


「あんたすごいな~」


「何がです?」


 空は全く我関せず、と言った様子だ。


 あっという間に発掘された衣装を今度は、我先にと着せ付けられる。

 肌触りのいい赤紫に近い蘇芳の小袖。その上から純白の小振袖を重ねられた。ほとんど倒すようにして、紅の袴を履かされ、むらができるように染められた紫の布を腰に巻かれる。


 この程度の着替えなら、与羽一人で十分できるのだが、空を前にした巫女たちは言っても聞かなさそうだったので、黙ってされるがままになっていた。

 その様子を空はほほえましく見ている。きっと、着せ替え人形のようでかわいらしいとか何とか思っているに違いない。もし、与羽の周りを巫女たちが固めていなかったら、顔面に二、三発拳を叩き込んでやりたいところだ。


「命拾いしたな、空」


 与羽は低くすごんでやったが、空は「何でです?」といっそう笑みを深めたのだった。

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