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四章五節 - 金鐘の音

「お前……、女だと思って手加減してやったら――」


 そう向けられた殺気よりも、自分が怖い。

 振り下ろされた刀を、後ろに跳んで避けた。刀で受けたら、また相手を傷つけてしまいそうな気がして……。


 避けて、避けて――、隙を見て辰海(たつみ)は逃げ出した。

 刀と鞘を握りこんだまま拳を地に突き、斜面を登る。振り返る余裕はなかった。爪の間に泥が入り込み、手が擦り剥けたが気にならない。


 斜面を登った後は、下りになった。一瞬ここを下ったら、龍頭天駆(りゅうとうあまがけ)から離れすぎてしまうかもしれないと思ったが、誰かを傷つけて与羽(よう)に失望されるよりはましだと考え直す。

 ここは、まだ誰かが通りかかるかもしれない。今は誰にも会ってはいけない。会ったらその人に怪我をさせてしまう。


 辰海は山を越え、名も知らぬ川を渡り、再び上り坂に差し掛かった。


 その時――、


 カァ……ン、カァ……ン、…………


 遠くで高く澄んだ鐘の音が聞こえた。「神聖な」と形容してもいいかもしれない。聖地に舞手となる娘が入った合図だ。


 それと確認した瞬間、辰海(たつみ)はその場にくずおれた。


「よかった……。与羽……」


 そう呟く。

 もちろん、聖地に入ったのが別の娘である可能性もないわけではないが、与羽だと信じることにした。与羽は無事だ。


 ほっと息をつくと、緊張が一気に緩んだのを感じた。


「少し休んだら、僕も帰ろう」


 誰にともなく言って、まだ響く鐘の音を聞く。

 その時、気付いた。鐘の音がどちらから聞こえてくるのか分からない。来たと思われる方は真っ暗で何も見えず、鐘の音は周りの山に反響して四方八方から聞こえる。


 急いで山を下り、さきほど渡った川に出る。しかし、そこには見覚えのない岩。

 川に沿ってどこか目印がないかと捜したが、恐怖で周りが見えていなかったらしい。通ってきた道の特徴を全く覚えていなかった。

 まっすぐ進んできたつもりだが、登りにくそうな所を避けることもあったので、自信はない。


 辺りを見て、木々の間から見える空を見て、そして辰海は確信した。


「……まずい……、迷った」

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