二章四節 - 同盟国の現状
「お前に任せる」
そう言ったが、譲ったも同然だ。
「では、代わりにわたしが――」
空はそう言って、澄んだ声で話しはじめた。
「内乱と言ってもさほど大きなものではありません。中州から舞行様たちがいらっしゃる知らせを受けた時には、まだはじまってすらいませんでしたから」
もし、以前からそのような状況になっていれば、中州にも情報がきていただろうし、与羽たちの受け入れも断っていたはずだ。
「内乱の核となっているのは、龍頭天駆の神官と官吏です」
「でも、あなたも神官なんですよね?」
与羽の突っ込みに、空は当たり前のことを言うように、「わたしは内乱に参加しなかった神官です」と言う。
「あと、敬語は不要ですよ。わたしは龍神一族に仕える神官ですから」
そう付け足して、空は再び話しはじめる。
「内乱の理由は些細なことです。天駆では、毎年正月に行う神事で舞を奉納するのですが、舞い手に良い娘が見つからず――。たいていは神官家の娘が舞うのですが……」
空はここで言葉を濁す。
「龍神への舞は、穢れのない数えで二十歳前後の乙女が舞わんといけんけど、神官家にはそれに当てはまる子がおらんかったってことですか」
与羽が眉間にしわを寄せて、空の言葉を引き継いだ。
「はい、恥ずかしながら――」
空は馬上で肩をすくめた。もともと神官家自体数が限られ、数え年で二十歳と言えば、女性ならば結婚しているのが普通だ。神官家で人を確保できなことは珍しいが、前例がないわけではない。
「どこから情報が漏れたのか、舞手がいないことを知った官吏たちから、それではわたしの子を――、孫を――と求めてもいないのに、どんどん推薦がやってきまして。龍神のために舞を捧げたとなれば、その娘にも家族にも大きな名誉になりますから……。
しかし、その中には明らかに『穢れのない娘』ではないものもいました。
ほかにも、あいつの娘は何某の男と交わりがあるだのといわれのない噂を流したり、ごろつきにお金を払って純潔を奪わせようとしたりと――。
それで、痺れを切らした神官や官吏などが、自分の意見を通そうと武力に訴えはじめたのです。数日のうちに起ったことなので、こちらも対処が間に合わず――」
「町民の多くは避難させたが、龍頭天駆は混戦状態だ」
今度は口ごもった空に代わって、希理が空の言葉を引き継いだ。
「龍神の家系は、女なら誰でも舞えるはずじゃ――?」
与羽は品定めするように、希理を見た。
「俺には、女兄弟がいないし、子どももいない」
与羽の友好的とは程遠い視線に気づいているだろうに、希理は全く動じずに答えた。
与羽は「はぁ」とため息をつく。彼らがわざわざ国境付近とはいえ中州まで迎えに来た意味が分かってしまった。