雪川清一の能力
俺は救世主を見つめた。
大き目のTシャツと短パンに包まれた白く華奢な身体に、
耳あたりで切り揃えられた明るい茶色の髪。
身長は160後半の俺より10センチ程低いようだ。
顔は整っていて女みたいだが、射抜くような瞳孔を持つ目は蘭々としていて、少年のような輝きがあった。
「さっきはありがとうな。
俺は、雪川 清一って言うんだ。高校2年生の17才。よろしくな、救世主の少年。」
笑顔を見せながら握手を求める。コミュ障の俺は普段ならこんな事はしないが、彼は自然にそうさせる何かを持っていた。
彼は一瞬動きを止めた。じっとこっちを見つめてきたので、少したじろいた。
それから俺の手を握り、自己紹介を始めた。
「僕__僕の名前はユウ。中学2年の14才。」
ぶっきらぼうにユウは言った。
「ところでさ、セイイチってどう書くの?」
腕組みをしながら聞かれる。なんだか威圧感がある。
「清く美しくの清に、いちにの一です。」
何故に敬語なんだ、普通逆だろ逆。まぁそう言うのには拘らないタイプだけどね、俺。
敬語に拘る先輩ってなんか滑稽だし、ダサいもん。
まぁ、いちにの一ってのもちょっとダサかったかな。斎藤一の一とか言えば格好良かったかもしれん。
ユウが口を開いた。
「清一も雪川も言いにくいからキヨって呼ぶね。
ま、清いってイメージ全然無いけど。
あっ、ところでさ、キヨの能力って何なの?」
さっきの爽やかな登場は何処やら、えらく攻撃的な言い方っすね。なんか気に障る事言ったっけ俺?救世主ってのがマズかったのかな。
ん、それより何て言った今?
「能力って__あのジョークプリントのこと?まだみてないけど。
」
何でユウは驚いた顔をしてんだ?
「ジョークプリント?そんな事ないよ、嘘は書かれて無かった。
何か腕に入った感覚したあと、何も起きなかったの?」
「いや、少し驚いたけどさ。」
「__僕、の時はね......」
ユウは自分の体験を細かに語り始めた。
「何か腕に入った気がした後、すっごい頭痛で倒れちゃって。
体が凄く熱くなって、うずくまってた。
チラチラ体に這う炎が見えた気もしたけど、痛みで堪える事しか出来なくて......
脚が痺れた時ってすっごい苦しくなるでしょ?アレが体全体に広がった感じ。
でも気付いたら治まってたけど。
次に出てきた紙を見たときは、疑う事は無かった。
その紙で予測がはっきりとした確信と感覚に変わってた。
"自分に新しい能力が備わった"ってね。
どうやって使うかも何故か分かってたよ。
ちょっと、見てて。」
そう言うとユウは右手を前にし、力を入れた、と思った瞬間......
メラメラっと、ユウが出した炎の熱が頬で感じられた。マジかよ、信じられない......!
目を大きく見開いても結果は変わらない。これは現実だ。
本当に夢じゃない......。まじか、これ本当にまじかよ。
「最後の紙に能力説明が書いてある筈だよ。」
澄ました顔でユウは言った。
俺はすぐさま部屋へと引き返した。鼓動が高まる。
恐らくこれは__
武器が"超能力"の生き残りゲーム。
能力が無ければこの世界は生きられないし、生き残れない。
逆に言えば、上手く能力を使えば他の能力を躱し、生き残れる筈だ。
現代社会の縮図の強化版。なんて.......すげぇワクワクするじゃねぇか......!
「っしゃあああ!」
急いで箱を探す。逃げるわけないのは分かってるけど、居ても立っても居られない。
箱......箱.......どこだ?箱......あった!
俺のはなんて書かれているんだ?焦って紙が上手く開けない。
「ユキカワ セイイチ(17)
能力:水
君が持つのは水を操る能力である。
言われなくとも既に分かってると思う。
水を操る感覚を持ち、イメージの赴くままに力を入れれば、
液状の水はもとより、水蒸気でさえ操る事が出来る。
応用為れば、様々な事に転用可能である。以上。」
感覚をもってイメージのままに力を入れる......か。しっかりとイメージし、力を入れてみる。
......が、力を入れても何も起きない。
「う......うぉあああああ!!」
叫んでも、何も、起きない。
そんな筈無い。水が、水が操れる筈だ。俺には能力がある筈だ。
ユウだって炎を出してたじゃないか。
瞬間的にユウの言葉を思い出す。
『何か腕に入った感覚したあと、何も起きなかったの?』
動悸が激しくなったじゃないか。驚いただけじゃ無かったんだよ、アレは!
『どうやって使うかも何故か分かってたよ。』
違う、違う、何かの気のせいだろ!!
考えたくないが......恐れていた事が現実になろうとしてる。
俺にも__頭が悪くて__勉強出来ない俺にも__
何の特徴も無い俺にも___
一つくらい___平凡じゃない___平凡じゃない能力をくれよ___
「あああああああ!!」
叫び声をあげても、何も起こらなかった。
暫く呆然としていても、何も起こらない。
ふと、頭の中に二文字の漢字が浮かびそうになった。
頭を振ってそれを振り払う。違う、違う。
平凡よりも嫌いな言葉。俺が、1番大嫌いな言葉。どうか浮かばないでくれ。
何でなんだよ。何で俺なんだよ。何で俺ばっかり。
思考が悪い方向ばかりに回っていく。
とぼとぼとユウの元へ向かった。
日に照らされたユウが顔を輝かせてこっちを向いた。
「なんの能力だっ___」
事態を直ぐに察したのか、表情が曇る。
「ユウ......おまえ、食糧はどの位入ってたか確認してるか。」
「10日分持つか持たないかくらいあったよ......」
やっぱり___
これは__武器が"超能力"の生き残りゲーム___
能力が無ければこの世界は生きられないし、生き残れない___
もともとそんなに生に執着心があるわけでも、むしろ無い方だと思っていた.......。
でも.......むざむざと殺されるのは......誰だって嫌だろ......?殺されるのかな......俺......。
「俺さ......」
ガクンと床に手を着く
「分かってるから......ね......?
僕がキヨを守るから......落ち込まないで......?」
「俺......俺さ......」
視界が歪んで、ユウがよく見えない。
こんな時に、中学時代の教師が頭に浮かんだ。
中年に差し掛かって髪の薄くなった担任。
教卓にはギリギリ二桁をセーブしたテストが置いてある。
俺は、笑うクラスメイトを前に半笑いでそれを受け取る。
ダメだ、これ以上考えちゃダメだ......もう......ダメ......
無惨にも回想は止まる事なく、教師の口が開いた。
「雪川、お前はっきり言ってな___」
「無能......だった......俺......」
涙が目から零れ落ち、一つ、また一つとコンクリートに滲を作っていった。
ユウは黙ってそれを見つめていた。




