始まりの指示
......暗い。目覚めた瞬間は家だと思ったが、違うようだ。地面は固く冷たいコンクリート。大気は蒸し暑い。汗で額に髪の毛が張り付いてる。一体、ここは何処だ?
鈍くなった寝起きの頭で必死に時系列を辿った。
......確か帰宅途中だったはずだ。軽自動車が横を通って......何かが起きた。視界が急に暗くなって......。
背中にゾッとした感覚が走った。拉致か?拉致だよな。軽自動車で拉致られた。これから何をされるんだ?どうすれば?いや落ち着け、お前は今まで脱出ゲームを何の為にやってきたんだ?落ち着けば落ち着いて落ち着ける筈だ。
取り敢えず息を整え周りを見回し、何か外に出られそうなヒントを探す。
暗くてよく見えないがここはバスケコート一個分ぐらいの広さのようだ。周囲と天井は恐らくコンクリートで覆われていて、窓は無い。
よく見ると部屋の中央に箱が置いてある。ステンレス製のようだ。恐る恐る近付く。
『開けてください』
と明朝体で書かれたシールが貼ってある。箱に触れると、無機質な箱がカシャリと音を立てて開いた。
蓋の裏側が平たいライトになっていて、箱の中を照らしている。その中には何か書いてある紙と鍵、細い針のようなものが置いてある。
ライトで照らしながら紙を開くと、タイプされた字でこう書かれていた。
『君達には今からゲームに参加してもらう。
既に、君達の左腕に腕輪が嵌められている事に、気付いて頂けたと思う。』
しまった盲点だった。慌てて左手首をみると確かに、ステンレス製ぽい腕輪がついている。
『箱の中に金属で出来た棒がある。それを腕輪の上部にある穴に挿入して欲しい。10分以内に挿入すれば次の指令が出てくる。しなければ、命の保証は無い。』
挿入とは懐かしい響き......いや、何でもない。
それより命の保証って、従わなければ死ぬってことだよな。つまりお前に選択肢は無い、従えと。
訳の解らない事に言いなりになっている事に気味の悪さを感じつつ、棒を腕輪に入れる。
「っつー!痛っっ!」
キュー、という高い音と共に血管に何か冷たいものが流されている感覚がした。 突然の出来事に動悸が乱れる。
暫くじっとしているとおさまった。まじまじと腕輪を見つめる。
取り敢えず命に別条はないみたいだ。多分、今の所は。
箱を見ると新しい紙が追加されてる。
『信じられないだろうが、君は超能力を手に入れた。おめでとう。
君はその能力を駆使して、この島で200日間、生き延びて欲しい。君の健闘と活躍を祈る。
因みに能力の詳細については新しく箱に追加されてる筈だ。
食料は箱の置いてあった場所に鍵穴があるから、そこに鍵をはめれれば手に入れられる。』
......は?はぁ?頭可笑しいだろ、こいつ。目ェ覚ませよ。何も起きてねぇっての。
能力?サバイバル?どこの漫画だよ、ふざけんな。そんなのは中2で卒業しろっての。
下らないジョークに付き合わせやがって、糞ッ。おちょくるだけかよ。
それにしてもさっきの腕輪からの注入はなんだったのだろう。クスリ...なのかな。毒なのかな、考えても仕方ないか。
もうどうでも良くなって、バタン、と冷たい床に大の字で寝ころんだ。暗い天井を見つめていると、寂しさで胸がきゅっと、締め付けられる感じがした。
......寂しい。母さんの晩御飯が喰いたい。父さんの顔が見たい。姉ちゃんにまた愚痴言われたい。最後の最後にケンカ別れしちゃったよ......。馬鹿な事したな。
これから俺はどうなるんだろ。このまま死ぬのかな。何処かに連れられて、売られるのか?殺されんのか?
サーカスに売られるのかもな。まぁこんな平凡なバカ学生を見せても金にならないよな、と無理矢理笑って見る。
あまりにも不安が大き過ぎて、不安が感じることができない。
中間テストの結果を渡される時の方がまだ不安だった。その不安ですら懐かしい。




