FOOD
この超能力サバイバルゲームが始まって、10日が経った。
食糧はあと5日分ある。
少し増えた食糧を見るたびに、胸が締め付けられて、孤独が俺を襲う。
「なかなか見つからないね、食糧」
ユウが伸びをしながら、まるでおやつを無くしてしまったかのように軽く言った。
正直、食糧があるはずだ、と言う仮説も今では自信がない。
もしかすると、餓死するギリギリの所で物資が支給されるのではないか。
もしや、生き残らせるつもりは無いのでは無いか……という疑惑が頭を掠める。
その可能性は低い気がする……と思いながらも、超能力という機密情報っぽいものを持ったまま一般社会に出れる可能性について考えるとどうしてもありえない事だとは考えられない。
「今日探す所に食糧無かったら、ちょっとヤバイな」
とにかく今は生き残る事に集中しよう。初期支給品の白シャツを捲りながら、傷の具合を確かめた。
「雪川探検隊、行くか」
辺りは樹に囲まれてるとはいえ、やはり暑い。
ユウがはにかみながら
「やっぱ僕、暑いの苦手だよ……」
と笑ってる。
「とか言いながら爽やかに歩くユウ君かっこいいです。流石剣道部」と軽口を叩くと、
キヨだって陸上部でしょ!と突っ込みが入った。
幽霊部員だから、と笑いつつ、ユウに着いて行けるほど、体力が付いて来た事に少しだけ嬉しく思う。
鍵はカズヒロの言ったとおり共通だったため、仕方ないが荷物は背負っている。今までよく盗まれなかったな、と内心ゾッとした。
そんな事を思いながら地面を見ていると、ある変化に気付いた。
今歩いてる地面に足跡、それも何回も歩いた跡があり、一種の道のようになってる。
「キヨ……これ……」
先日の事があるだけに、身を少し固める。
「人が近くに居るんだろ。危険だから、離れた所からこの足跡を辿って行こう」
冷静に言ったつもりだが、声が微かに震えて居る。ったく、臆病だな俺は。
暫く辿ると、道が二つに別れていた。もう片方が気になるが、登る方の道を選ぶ。
進むとすぐに、少しだけ開けた場所に出た。銀色に光る、人が3人くらいは余裕で入れそうな長方形のボックスがある。高さは腰のあたりしかない。
もしかしてあれって……!?
「キヨ!あれって食糧じゃない?」
辺りを慎重に、だけど素早く確かめながら走り寄ると、しっかりと閉じられた箱には中央に大きくFOODと刻印されている。
そしてその下には、何やら奇妙な模様、というか、黄緑色と赤色に輝く複数の点が、ハンカチ程の大きさの中に、綺麗に整列していた。
タッチディスプレイのような感じだが、触っても何も起きない。
光ってる点は全部で20個だろうか。横5列縦4列なのだが、上10個は四角く囲まれて居る。
右下3個が赤くひかっているので、奇妙だった。
「なんだろ……これ?」
ユウがマークを指差して言う。
「主催者のマーク、かな?それよりこの箱どうやって開けるんだ?」
箱は取っ手が無く、どう頑張っても開けられそうに無い。
こう言うの脱出ゲームにあったよなぁ、と感傷に浸っていると、いきなり甲高い警報が鳴った。
だがこの箱から出ているわけではなさそうだ。ユウと顔を見合わせるが、何か変わった様子もなかった。
暫く鳴ってから音が歪み、プツンと途切れた。
足が震える。
……今の音は警報なんかじゃない。音の歪みがあまりにも、あまりにも人間らしく。
悲しみの感情と、生への執着が混じった若い女の声。
俺がさっきまで聞いていたのは、断末魔だ。