苦悩
拠点に戻った。拠点に着くまでユウは気を使ってくれたのか、水の能力について質問するだけで、戦いについて深くは聞いてこなかった。
俺は、戦ったんだ。夢じゃない。それも命をかけた戦いだ。
心のどこかで、平和にやっていけるんじゃないかと、そう思ってた。仕組まれたゲームとは言え、みんな協力して、生きて行くのではと思っていた。こんなよくある話みたいに、殺し合いなんてあるわけないと思ってた。
カズヒロと戦ってる最中でさえ、心の奥底では謝れば許してくれるのではないか、本当は殺すつもりはないんじゃないかと、思ってた。信じてた。
手に入れたカズヒロのバックを見る。食糧は、ユウと分けて1.5倍に増えた。それを見て、思う。
信じてたなんて、言い訳だ。平和にやっていけると言いながら、
俺は___カズヒロに会った瞬間から、粗探しを始めていた。
このサバイバルで、人を疑うのは当たり前だろう。疑心暗鬼になるのも当然だ。
でも俺は「食糧を奪うために」疑った。当然の感情ではない。
カズヒロが食糧を守り、得るために人を殺したように、
俺は食糧を守り、得るために疑い、殺すつもりはなくとも奪おうとしていた。
カズヒロのミスさえ、いくらでも言い訳出来る話だっただろう。
俺はこじつけに近い形で挑発し、たまたまそれがあっていた。それだけの話だ。
そんな自分が、薄ら寒く、気持ち悪く思った。
それが希望を持つということなのだろうか。ユウに叱られた時、希望が見えた気がした。それは、これのことなのだろうか。
……んなこと、しるわけねえよ。
感傷的な事考えて、
自分の現状を美化してるんじゃねーよ。
俺は生きるために朦朧としたカズヒロを疑い、勝ち、殺すのが怖くて逃がした。それだけじゃないか。押し込めていたとある2、3の疑問が、ふっと浮かんでしまった。
「ユウ……」
「なに?」
黙って外を見つめてたユウが、心配そうに顔をむける。
昼ごはんには手がつけられてない。
喉まででかかった質問をしまう。
__答えは出てるじゃないか。ユウに聞いてどうするんだ?
あの時直接、手を下さなかっただけで、俺はカズヒロを殺したも同然だ。
それより最悪、カズヒロは誰かを襲って殺す可能性もある。襲わなければ、食糧が無くなり、当然死ぬ。
誰かに救われる可能性もあるが、それがもたらす結果はどのみち良くないものだろう。
わかっててやったんじゃない。わからないままやったんだ。わかりたくなかったんだ。
後悔とも、悲壮感ともわからない感情が胸を潰す。
死ぬかもしれなかった。戻れなくなるかもしれなかった。
いや、俺は死ぬことはなくても、もう二度と、元居た自分に戻ることは出来ないのだ。
決定的な境界線に、足を踏み入れてしまった。