水
沈黙が流れる。俺から、その沈黙を破った。
「もう一度聞きます。本当に、今まで人に会ったのは、今回が始めてですか?つまり____
何故鍵が共通だと知っていたんですか?」
はっ、とカズヒロは目を開いた。
説明書にも、そんな事は書かれてない筈だ。さっきこいつが自分で証言してくれた。
暫くした後にカズヒロが言い訳をした。
「確かに私は食糧が二人分ある。急に襲われたから、反撃して、手に入れたんだ。
君達に言わなかったのは、疑われたく無かったからだ。」
俺は口を開く。不思議と落ち着いている。
「こうなった以上、貴方と行動を共にする事は出来ません。今すぐ別れましょう。」
カズヒロは黙ったままだ。
ユウがこの前拾ってきてくれた棒をぎゅっと握る。ずっと素振りやなんやらで握ってきたし、ゆうが燻してくれたお陰で手にしっくるくる。
嵐の前の静けさと言うべきか、辺りがしん、としている。
コイツが自分から人を殺して食糧を奪う人間なら今は1体1の、俺を殺すまたと無いチャンスだ。
普通なら自分の事を疑ってる人間をみすみす野放しにしたりはしないだろう。
喉が乾いて来る。不安が心の底で渦巻く。対するカズヒロは俯いて黙ったままだ。
スッと、カズヒロの右手に透明な筋が見えた気がした。
咄嗟に木々が密集してる斜面に飛び込んだ。
ーーやっぱり黒だったか。
ビシッ、と言う音と共に、視界の隅で木が深く抉れた。
ウォーターカッター、か。心臓が張り裂けそうな程バクバク言っている。当たったらひとたまりもねぇな。
棒を構え、所々に生えてる木でカズヒロから見えない様にする。こうすればウォーターカッターは当たらない筈だ。
緊張しながらも、変に冷静な自分に少し驚く。
「雪川君、早く君の能力を使ったらどうだい?」
カズヒロの声が聞こえた。さっきより近付いてる。
「雑魚に使うような能力じゃねぇよ。」
そう言ってるあいだにも間をとる。相手も返事から俺の位置を探ってるはずだ。
____俺は一人で闘う、という選択を、後悔しない。
たぶん、優しいユウは会った人を疑うなんて事が出来ないだろうし、こんな状況でも何かの誤解だろうと必死に止めた筈だ。
仮に戦うとしても、相手は水だ。火は恐らく不利だろうし、加えてユウの味方には無能力者という邪魔者が居る。圧倒的不利だ。
なら、ここでコイツと闘うのが一番良い。
仮に俺が殺されても、ユウが邪魔者無しで闘えるなら、あいつは頭も良いし、多分強いから勝てる可能性はあるだろう。あと俺の死体を見れば状況が解るはずだ。
ユウが勝ったなら、ユウは4人分の食糧が手に入るし、それは本望でもある。
なんて考えちゃいけないんだったな。ユウが戻ってくる前に俺はコイツと決着を着けなきゃなんねぇ。
俺が勝ったら、少しはユウの役に立てるという証明にもなるんだ。
ユウが戦闘に加わるという事態から遠ざける事にもなる。
俺はこいつを倒す。そして生きるんだ。俺は絶対に、勝つ。