男
今日含めて、3日。食糧が見つけられなかった場合の、拠点を離れる迄の時間だ。それまでに何としてでも食糧を見つけなければならない。
ユウと二人、木の棒を握り、まだ暗い中を走りながら一番近くの高台を目指す。
「ちょ、ちょっとタンマ。」
ユウにお願いする。軽そうな華奢な体はどこ迄も跳ねるように森を駆け抜けていく。少しぬかるんでるのに、随分と軽やかに行くもんだ。
「たらたらしてる暇無いから!」
ユウが叫ぶ。
エセ陸上部の俺は持久走が苦手だかだ。息がゼェゼェ言ってる。手に持つ棒が酷く重く感じる。それでもユウが休ませてくれないのは、俺に足を引っ張らせて劣等感を抱かせない為の配慮なのだろうか。それともただ薄情なだけか。
木々が少ない平野に差し掛かると、丁度日が上がる所だった。
辺りを照らして、走っている影が一直線に伸びる。
高台までもうすぐだ。やっと_____
ん?ユウが俺を制止する。高台は小さな公園程である程度開けているが、所々木が密集している。
心臓が、走った所為だけじゃない、バクバク嫌な音をたてている。きたか?ユウに次いで会う人間。いや、もしかしたら単なるウサギとかかもしれない。
木々が邪魔なので、少し頭をずらす。
20代後半くらいの、身長は170程、黒髪で、何処にでもいそうな知的でくたびれたサラリーマン風の男が立っていた。
食糧袋を持ち、辺りを伺っている。
「どうする、ユウ。」
声が震える。
「自称皇帝なんでしょ?キヨが決めてよ。」
俺コミュ障だから、とユウにお願いする。
「......まぁ仕方ないか、僕が話しかけてみるよ。これから僕のこと皇帝って呼んでね。」
物怖じしてないというか、ユウは堂々としてる。だが一抹の不安が拭えない。
ユウの後をついて、男に会いに行った。
「あの、こんにちわ。」
ユウの声にビクッと男が反応し、サッと身構えた。
「あ、戦う気は無いですよ。」
ユウがにこやかに言う。
男はユウの笑顔に安心したのか、構えを解いた。ユウ恐るべし。
「あー、私はカズヒロだ。宜しく。ちょっと周辺の地形を把握しようと思ってね、ここに来たんだ。驚いたよ。」
良い人、っぽい。ユウが謝る。
「驚かせてしまってすいません。
僕たちも同じ理由と、食糧を探しに来てて。もちろん貰うつもりは無いですよ?」
カズヒロさんは苦笑いしてる。
勇気が出て来たので話しかけて見た。
「まぁ、少しここに座って話しませんか。」
「ああ、疲れてるだろうね、私も走って来たし、意識が飛びそうだ。そうしよう。」
と、カズヒロさんも応じた。
「いきなりここに連れて来られて驚いたよ。その日は仕事が早く終わってホッとしてた時だったからね。」
この人も同じ体験したんだな。まぁ当然か。
普通にまともな人そうだな、俺たちと同じ経験をした。心配しすぎだったんだよ、いくらサバイバルだからって、テレビみたいに殺し合いが始まる訳がない。
以外と平和に物事は解決されるもんだ。
「僕達以外には誰か会いました?」
だけどこれから危険も無いとは限らない。仲間を増やすに越した事はないだろう。もしもの為に、人脈を広げなければ。
「いや、誰にも会ってないよ。君達が初めてだ。」
「そうですか......。」
沈黙が広がる。この人も自分達以上に苦労したんだろう、目の隈が濃い。俺の場合はユウがいたけど……
沈黙を破る為か、カズヒロさんは口を開いた。
「私の拠点に来てみるかい。そこまで遠く無いから、位置を確認して行った方が良いだろう。」
確かに人が居る所が解るのは安心だ。ゆくゆくは同じ拠点に居るのも良いかもしれない。俺は立ち上がった。
また森の中に入る。カズヒロさんはボーッと歩いている。ふとこっちを見て言った。
「ん?君達どうして食糧袋を持ってないんだ?取られるぞ?カギは共通だ。」
マジか、盲点だった。
「じゃぁ、最初に僕達の拠点に来ましょうか。」
計画変更だ。もと来た道を引き返す。何かひっかかるが、気のせいだろう。いや……
「そう言えば、君達の能力は何だね?私は水だよ。全く不思議な能力だ。」
カズヒロが言う。ユウがすっかり打ち解けたのか、すかさず喋る。
「僕は火、っていうか炎かな?
でもキヨはね、」
バッ、とユウの背中を叩く。ユウはキョトンとした顔をしていた。
「俺は念力っすよ。どんなもんでも防げるんです。疲れるからあんまし使わないんですけどね。
まだ使い方が完璧じゃないんですけど、説明書って銀の箱だけでした?」
「私の知る限りではそうだね。」
そうか。それだけか。
「やっぱそうですか。
......あ、ユウ、先に行って荷物2つ取ってくれ。ユウは持久力あるだろ。そっちの方が速いし、俺はカズヒロさんと先に拠点行ってるわ。高台で合流な。」
え、でも......とユウが何か言おうとする。
「良いから早く取ってこい!!」
きつめに言う。カズヒロはまぁまぁ、と俺を制止してくる。
ユウが涙を浮かべて、俺を一瞥して走って行った。
ユウが森の中へ消えたことを確認してから俺はカズヒロを見た。
「ちょっと荷物を見せてもらえませんか、カズヒロさん。」