1日常
一応、主人公は涼です。設定は陰が薄い。です。
ため息が一つ、二つ、三つ……いやもっとだろう。
ため息の出処は全体が銀色をしている巨大な建物の、正面にあるグラウンドと思われる所からである。
グラウンドでは大勢の生徒が集まっており、その生徒達の注目を浴びる何かが飛び回っていた。
飛び回る何かとは、あの少年も乗っていたエアスクーターという乗り物だ。今乗っている生徒は順調に指定されたコースを巡回している。
グルグルと同じ所を何度も行き来しながら、何かを待っているかの様に、エアスクーターを運転している少年がソワソワし始める。直後、少年は前方に壁がある事に気付き焦ってハンドルを思いっきりきってしまう。
その勢いで少年はエアスクーターから吹き飛び地面に叩き付けられてしまった。
「NO,26不合格。また半年後に出直せ」
地面に叩き付けられて、倒れたままの少年に教員と思われる男が側に近寄り、無情に言い放つ。
倒れたまま少年はハァ〜とため息をつく。
勢い良く叩き付けられた割に少年への被害が少ないのは、今少年が着ている服にあるらしい。パイロットスーツの様な体にフィットしたダサイ服で生徒全員が嫌っているが、これは一時的に肉体を強化、及び保護してくれるらしい。そのため危険の伴う事をする時は大人も子供も皆このタイツのような服を着込むのだ。
少年は立ち上がり、肩をガックリと落としながら歩き出した。皆が集まっている場所……では無く、その先だ。皆から少し離れた所に数人の生徒がいる。彼等は皆同様にため息をついている。
そこに合流した先程倒れた少年も同じようにため息をつく。
もはやそこでははため息のハーモニーが奏でられている。
「キャハハ、ここに来たって事は思えも落ちたのか」
ガックリと肩を落としている少年に、先にいたタイツの様なスーツの首元のファスナーを下げだらしない格好をしている男が声をかけた。
「なんだよ、見て無かったのか」
「あぁ、お前なんて興味ないね」
だらしない格好の生徒は少年を挑発する。しかし少年は
「あれ、涼! なんでお前までここに」
華麗にスルーし、後ろの方でうつ向いてる少年に駆け寄った。
「お前エアスクーター得意だろ。まぁ、それしか才能無いって方が正しいけど」
「最後の一文は余計だよ」
黒い髪にオシャレのつもりだろうか?額の少し上にゴーグルを付けた少年が気だるそうに答えた。
「キャハハ、涼はな“エアスペ”に捕まったんだ」
「エアスペ!?」
すると先程スルーされた少年が不快な笑い声を上げながら、二人の方に寄ってきた。
「本当かよ。何したんだ?」
「うん……規定高度を大幅に上回っちゃって……」
「またそれか……」
「キャハハ、こりねぇ奴だな。まぁ俺はインテリジェンス振り撒く奴より、お前みたいなのが好きだぜ」
慰めのつもりだろうか?笑いながらゴーグルを付けた少年、涼の肩をバンバンと叩く。
「ま、まぁ僕はエアスクーターの免許はもう持ってるから今回のテストは別に良いんだけど……それより」
「キャハハ、そうだ忘れてねぇよな。“あの事”」
「う、いや…僕はテストに参加出来なかったんだし。外れた事にしてよ」
“あの事”という言葉に涼は過敏に反応する。その反応を見ては少年は不気味に笑いまくる。
「あ、僕バイトクビになっちゃって……だから」
「あぁ〜言い訳か?」
「隼人、勘弁してやれよ」
不気味な笑い声を上げる少年に、倒れた少年が言う。
「なんだよ、じゃあお前が涼の分も払えよ」
「い、いやそれは……」
少年は涼を助けようとしたが、隼人に言われ口籠る。
「ま、待ってよ。まだ僕が負けたわけじゃない」
涼のその発言に二人とも全く別の反応を示す。
「キャハハハハハ、エアスクーターしか取り柄の無いお前が言う台詞じゃねぇな」
「だからそれは余計だって。僕はエアスクーターのメンテも得意だよ」
懸命に反論したつもりなのだろう。しかし、それは隼人の笑いという炎に油を足しただけに過ぎなかった。隼人はますます笑い出す。
「ギャハハハ、聞いたか流今の」
流石にここまで言われると温厚な涼も少しはムッとなる。しかし、実際自分が言った事は笑われるような事だったと気付いた。流も涼に加勢してやりたいが、何を言えば良いのか分からなかった。いや、きっと隼人には口では勝てないだろう……そう悟った。
「まぁいいや、じゃあこれから
実技、五教科の平均を足した数が一番少ない奴が二人に一週間弁当をおごるって事で。キャハハ……じゃあな!」
隼人は高笑いを上げながらその場を去って行った。
「ま、まぁ頑張れよ涼」
流は涼には頑張って欲しいが、自分も負けたくは無かったので非常に複雑な心境で、そそくさと涼から離れて行った。
一人残された涼は
「うん、まだ負けた訳じゃないんだ。家に帰ったら頑張ろう!」
そう心に強く決め、エアスクーターの試験も終わり皆が、銀色に染められたメタリックな校舎へと帰って行った。
数日後、ビリは涼に決まった。
なんかほのぼのしちゃってますが、結構重い話の予定です。
次回から物語が動きます。
しかし、タイトルが悪かったのでしょうか……非常に読者が少ないです