ユナの好きなもの
放課後。
「レン」
教室を出たところで、ユナに呼び止められた。
「ん?」
「ちょっと付き合って」
「どこに?」
「服見に行く」
「ああ」
少し前に話していた、フィーリアの服を見る約束を思い出す。
「フィーリアは?」
「今日は用事があるって」
「そうなんだ」
「だから今日は私とレンだけ」
「俺、必要?」
「荷物持ち」
「やっぱりそれか」
ユナが笑う。
「冗談。……半分くらい」
「半分は本気なんだな」
二人で商業区へ向かう。
学校帰りの学生で、通りはいつもより賑わっていた。
「この店」
ユナが一軒の服屋の前で立ち止まる。
「ここ?」
「うん」
「結構ちゃんとした店だな」
「そう?」
「俺、こういう店あんまり入ったことないから」
「じゃあ今日は勉強ね」
「何の?」
「服の」
「必要かな……」
「必要」
ユナに押されるように店へ入る。
店内には様々な服が並んでいた。
シャツ。
スカート。
ジャケット。
季節に合わせた服も多い。
「フィーリアなら、こういうの似合いそう」
ユナが一着の服を手に取る。
「確かに」
「こっちは?」
「それも似合いそう」
「じゃあ、これは?」
「それも」
「……レン」
「ん?」
「さっきから全部同じじゃない?」
「いや、だって俺には違いがよく分からない」
「もう」
ユナが呆れたように笑う。
「ちゃんと見て」
「分かった」
レンも真面目に服を見る。
「……こっちのほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「フィーリア、普段あんまり派手なの着ないだろ」
「そうだね」
「だったら、こっちのほうが普段使いやすそう」
ユナが服を見る。
「……確かに」
「だろ?」
「レン、意外とちゃんと見てるんだね」
「人を何だと思ってるんだ」
「もっと適当に選ぶと思ってた」
「ひどいな」
二人で服を見て回る。
しばらくすると、店員が近づいてきた。
「お連れ様へのプレゼントですか?」
「友達の服を探してて」
ユナが答える。
「普段どんな服を着られる方ですか?」
「えっと……」
ユナは少し考える。
「落ち着いた色が多くて、あまり派手なものは着ないです。でも、動きやすいほうが好きだと思います」
「なるほど」
店員がいくつかの服を選ぶ。
「でしたら、この辺りはいかがでしょう」
「ありがとうございます」
ユナは並べられた服を見る。
「……こっちかな」
「お好みに合いそうですか?」
「はい。たぶん」
「よく見ていらっしゃるんですね」
「そうですか?」
「お友達のことをよく知っていらっしゃるようなので」
ユナは少し照れたように笑った。
「長い付き合いなので」
店員が離れていく。
レンが言った。
「ユナって、こういうの得意なんだな」
「何が?」
「人に似合うものを選ぶの」
「好きだからね」
「なるほど」
「服って面白いよ」
「そう?」
「同じ人でも、着るものが変わるだけで雰囲気が変わるから」
「確かに」
「それに、その人が何を好きなのかも少し分かるし」
「なるほど」
ユナは服を戻す。
「だから、人の服を選ぶのも好きなんだと思う」
「フィーリアの服を選ぶのも?」
「うん」
「納得した」
「何が?」
「ユナらしいなって」
「どういう意味?」
「人のこと、よく見てるから」
ユナが少し黙る。
「……そうかな」
「ああ」
「自分ではあんまり分からないけど」
「フィーリアのこともよく見てるだろ」
「まあ……長い付き合いだからね」
ユナが少し笑った。
「フィーリアって、あんまり自分から欲しいって言わないんだよ」
「そうなのか?」
「うん」
「だからユナが選ぶ?」
「そういうこと」
ユナは少し照れたように笑う。
「別に私がいなくても困らないと思うけどね」
「でも、いるじゃん」
「……そうだね」
二人で店内を歩く。
しばらくして、ユナが一つの棚の前で足を止めた。
「これもいいな」
「また買うの?」
「迷ってるだけ」
「結局どれにするんだ?」
「分からない」
「珍しいな」
「何が?」
「ユナって、すぐ決めるイメージがある」
「私だって迷うよ」
「そうなの?」
「うん」
ユナは服を見ながら答える。
「特に、自分のことになるとね」
「……なるほど」
レンはそれ以上聞かなかった。
けれど。
少ししてから、ユナがぽつりと言った。
「進路とかも、まだちゃんと決めてないし」
「進路?」
「うん」
「もう考える時期なんだな」
「高等だしね」
ユナは苦笑する。
「周りは研究とか、魔導関係とか、いろいろ考えてる人もいるけど」
「ユナは?」
「私は……」
少し考える。
「まだ分からない」
「そっか」
「服を見るのも、人と話すのも好きだけど」
ユナは少しだけ店内を見回した。
「それが将来何になるのかまでは、まだ考えたことないかな」
「別に今すぐ決めなくてもいいんじゃないか?」
「レンはそう思う?」
「ああ」
レンは少し考えてから言った。
「やりたいことが見つかってから考えてもいいだろ」
「……そうだね」
ユナは少し笑った。
「なんか、レンに言われると変な感じ」
「なんで?」
「もっと計画的に考えろって言われるかと思った」
「俺が?」
「うん」
「俺、そんなに真面目に見える?」
「見えるよ」
「アルトにも聞いてみたいな」
「絶対笑われるよ」
「それは分かる」
二人で笑う。
店を出る。
ユナは結局、最初に手に取った服を買っていた。
「それでよかったの?」
「うん」
「迷ってたのに?」
「迷ったけど、最初にいいと思ったから」
「なるほど」
袋を持って歩く。
「じゃあ、次はフィーリアの服だな」
「そうだね」
「今度はフィーリア本人も連れてくる?」
「うん」
「アルトも?」
「荷物持ち」
「またか」
ユナが笑う。
「ミレイも誘おうよ」
「ミレイも?」
「服とか興味ありそうじゃない?」
「どうかな」
「でも、五人で行ったほうが楽しいでしょ」
「それはそうだな」
二人で歩きながら、次の予定を話す。
特別なことではない。
ただの放課後。
それでも。
ユナが何を好きなのか。
何を考えているのか。
少しだけ知ることができた。
「レン」
「ん?」
「今日、付き合ってくれてありがと」
「別にいいよ」
「荷物持ちしてくれたし」
「結局そこかよ」
「半分冗談」
「半分は?」
「本気」
「やっぱりな」
二人の笑い声が、夕方の商業区に響いた。
ユナの進路は、まだ決まっていない。
けれど。
今日の店で見せたように、人をよく見て、その人に合うものを考えること。
それが彼女にとって、ただの「好きなこと」なのか。
それとも。
いつか別の形になるのか。
今のユナには、まだ分からなかった。




