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空から始まる2度目の青春  作者: 紺野 翼


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五人の時間


 フィーリアの家。


 買ってきた食べ物をテーブルへ並べていく。


「これ、どこに置く?」


 アルトが袋を持ち上げる。


「そこ」


 ユナがテーブルの端を指差す。


「こっちは?」


「それは冷蔵庫」


「了解」


 アルトが動く。


「レン、そっちお願い」


「分かった」


 レンも買い物袋から飲み物を取り出す。


 ミレイは少し離れたところから、その様子を眺めていた。


「……何か手伝います」


「じゃあ、このお菓子お願い」


 ユナが袋を渡す。


「……分かった」


 ミレイが受け取り、テーブルの上へ並べていく。


「これで全部?」


「うん。たぶん」


「たぶん?」


「アルトが勝手に買ったやつは知らない」


「俺のせいにするなよ」


「実際に買ったのアルトでしょ」


「そうだけど」


 レンが笑う。


「結局、結構買ったな」


「五人いるからな」


 アルトが胸を張る。


「食べきれるの?」


「余ったら明日食えばいいだろ」


「最初からそれを考えてるの?」


「当然」


 ユナが呆れたように笑う。


「じゃあ、準備できたし」


 フィーリアがテーブルを見る。


「食べようか」


「賛成!」


 アルトが椅子に座る。


 五人もそれぞれ席についた。


「じゃあ」


 アルトが飲み物を持ち上げる。


「フィーリア復帰おめでとう!」


「おめでとう」


 ユナが続く。


「おめでとう」


 レンも笑う。


「……おめでとうございます」


 ミレイも小さく言った。


「ありがとう」


 フィーリアが微笑む。


「じゃあ、乾杯」


 五人のグラスが軽くぶつかった。


 小さな音が響く。


「……いいな、こういうの」


 レンがテーブルを見ながら言う。


「何が?」


 アルトが聞く。


「みんなで飯食ってるの」


「それだけ?」


「それがいいんだよ」


 レンが笑う。


「確かに」


 ユナも頷いた。


「じゃあ、これからもこういう時間増やしていこうよ」


「賛成」


 アルトが手を上げる。


「私も」


 フィーリアが続く。


「……私も」


 ミレイも小さく手を上げた。


「全員一致だな」


 アルトが満足そうに笑った。


 その横で、ミレイが料理を少しずつ取り分けている。


「ミレイ、それだけ?」


 アルトが聞く。


「……うん」


「もっと食べなよ」


「……そんなに食べられない」


「そう?」


「……うん」


「じゃあ、これだけでも」


 アルトが小さな菓子を皿に乗せる。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 ミレイは少しだけ笑った。


 しばらく食事を続ける。


 学校の話。


 授業の話。


 最近見つけた店の話。


 次の休日の話。


 特別な話は何もない。


 それでも。


 五人で話していると、自然と会話が続いていく。


「そういえば」


 ユナが言う。


「次の休み、どこか行く?」


「また?」


 アルトが笑う。


「いいじゃん」


「俺はいいぞ」


 レンも頷く。


「ミレイは?」


「……私も」


「フィーリアは?」


「行きたい」


「じゃあ決まりだな」


 アルトが笑う。


「どこ行く?」


「まだ決めてない」


「じゃあ考えようぜ」


「食べ物中心になるのはやめてよ」


「なんで分かった?」


「顔に出てる」


 ユナが呆れる。


 フィーリアが小さく笑った。


 ミレイも口元を緩める。


「……楽しいですね」


 小さな声だった。


「ん?」


 レンが聞き返す。


「……こういうの」


 ミレイが少しだけ周囲を見る。


「……五人でいるの」


「そうだな」


 レンが頷く。


「俺も楽しい」


「私も」


 フィーリアが言う。


「もちろん私も」


 ユナが笑う。


「俺も」


 アルトが手を上げる。


「じゃあ全員一致だな」


 アルトが満足そうに言った。


 食事が一段落すると。


「で」


 アルトが立ち上がる。


「次は何する?」


「まだやるの?」


 ユナが聞く。


「せっかく集まったんだから」


「何するの?」


「ゲーム」


 アルトが即答した。


「やっぱり」


 レンが笑う。


「何のゲーム?」


「対戦できるやつ」


「俺もやる」


「レンは絶対やると思った」


「こういうのは別だ」


「どう違うの?」


「ゲームだから」


「理由になってない」


 ユナが笑う。


 フィーリアも興味深そうにゲーム機を見る。


「私もやってみたい」


「フィーリアも?」


「うん」


「じゃあ五人でやろうぜ」


 アルトが準備を始める。


 ミレイが少し戸惑ったようにゲーム機を見る。


「……私、こういうのやったことない」


「大丈夫」


 レンが言う。


「最初は適当にやればいいって」


「……適当に?」


「やってれば分かる」


「……うん」


 五人でゲームを始める。


「待って!」


 ユナが叫ぶ。


「それ反則!」


「反則じゃないだろ!」


 アルトが笑う。


「ルールに書いてないし!」


「そういう問題じゃない!」


「レン、助けて!」


「俺はアルト側」


「裏切った!」


 フィーリアが笑う。


「……面白い」


 ミレイも画面を見ながら小さく笑った。


 何度か対戦して。


 勝ったり。


 負けたり。


 途中でルールが分からなくなったり。


 しばらくして。


「……あ」


 レンがコントローラーを置いた。


「ちょっとトイレ行ってくる」


「いってらっしゃい」


 ユナが画面から目を離さずに答える。


「早く戻ってこいよ。次、レンの番だからな」


「分かってる」


 レンは立ち上がり、廊下へ出た。


 トイレはリビングから少し離れた場所にある。


 廊下を歩いていると。


「……あれ?」


 一つの扉が少し開いているのが目に入った。


「ここ……」


 フィーリアの家に何度か来たことはある。


 けれど、この部屋に入ったことはなかった。


 扉の隙間から中を見る。


 机。


 本棚。


 いくつかの魔導機器。


 そして、研究用らしい道具。


「……アーヴェルさんの部屋か」


 研究室も兼ねているのだろう。


 そう考えれば、見慣れない道具が置かれているのも不思議ではない。


 レンは少しだけ立ち止まった。


 気になる。


 どんな研究をしているのか。


 普段、アーヴェルが何をしているのか。


 知りたい気持ちはある。


 けれど。


「……勝手に見るのはな」


 中へ入るのはやめておく。


 そう思って扉へ近づいたとき。


 足元に、小さな瓶が転がっていることに気づいた。


「……ん?」


 レンはしゃがんで拾い上げる。


 空だった。


 透明な小瓶。


 ラベルには、薬品名らしいものは書かれていない。


 代わりに、短い文字と記号が刻まれていた。


 『F-01 / MSA-03』


「……なんだこれ」


 意味は分からない。


 研究用の管理番号だろうか。


 レンは小瓶を眺める。


「これ、踏んで割れたら危ないよな」


 そのまま廊下に置いておくのも気になる。


 レンは部屋の中へ入らないようにしながら、近くの机へ小瓶を置いた。


「……ここなら大丈夫か」


 研究室を兼ねているなら、こういうものがあっても不思議ではない。


 薬品の管理番号か何かだろう。


 レンはそれ以上考えなかった。


「っと」


 時計を見る。


「こんなことしてる場合じゃない。トイレ、トイレ」


 そのまま廊下を進んだ。


 用を済ませ、手を洗う。


「……早く戻らないとな」


 レンはリビングへ戻っていった。


 * * *


「遅い!」


 戻ってきたレンを見るなり、アルトが言った。


「そんなに経ってないだろ」


「俺の番が終わりそうだったぞ」


「それはお前が勝手に進めただけだろ」


「細かいことはいいんだよ」


「よくない」


 ユナが笑う。


「ほら、レンの番」


「はいはい」


 レンは元の席へ戻る。


 フィーリアが笑った。


「おかえり」


「ただいま」


 レンはコントローラーを手に取る。


「じゃあ、続きやるか」


「うん」


 五人の笑い声が、再び部屋に響いた。


 廊下の先。


 アーヴェルの研究室では、机の上に置かれた小さな瓶が、静かにそこに残っていた。


 そこに刻まれた文字の意味を知る者は、この場にはいない。


 ただ。


 その小さな記号が、後になって別の意味を持つことになるとは。


 今のレンには、知る由もなかった。

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