森の生き物
校外学習は、そのまま午後まで続いた。
「この葉っぱ、普通の植物?」
アルトが木の葉を覗き込む。
「そうじゃない?」
ユナが答える。
「先生に聞いてみる?」
「いや、そこまでじゃない」
「なんで聞いたのよ」
「気になっただけ」
「適当だなぁ」
二人のやり取りを聞きながら、レンはリーテルを確認していた。
「この辺り、魔素濃度が少し高いな」
「分かるの?」
ユナが覗き込む。
「リーテルに表示されてる」
「ああ、測定機能ね」
「うん」
レンは周囲を見る。
森の中には、ところどころ魔素が集まりやすい場所があるらしい。
木々の根元。
岩場。
水の流れる場所。
場所によって濃度が少しずつ違う。
「魔素が濃いところほど、魔獣も多いのかな」
「そういう傾向はあるみたい」
フィーリアが答える。
「魔素を取り込んで生きている種類もいるから」
「なるほど」
レンは興味深そうに周囲を見た。
魔素がある。
生物がそれを取り込む。
長い時間をかけて身体が変化する。
そうして魔獣が生まれる。
そう考えると。
「魔獣って、この世界の自然そのものなんだな」
「うん」
フィーリアが頷く。
「ずっと昔からいるよ」
そのとき。
「……あれ?」
ユナが声を上げた。
木の根元から、小さな生き物が顔を出している。
「何だろう?」
アルトが近づこうとする。
「待って」
レンが止める。
「先生、近づかないほうがいいって言ってたぞ」
「そうだった」
アルトが足を止める。
小さな生き物は、こちらを警戒するように見ている。
身体は猫より少し小さい。
丸い耳。
短い脚。
そして、背中には淡い光の筋が走っていた。
「……かわいい」
フィーリアが小さく呟いた。
レンがフィーリアを見る。
「フィーリア、こういうの好きなんだな」
「……うん」
少しだけ嬉しそうだった。
「名前とかあるのかな?」
ユナが聞く。
「先生に聞いてみようか」
レンがリーテルで記録する。
写真を撮る。
その瞬間。
小さな魔獣がびくっと身体を震わせた。
「……ごめん」
レンはすぐに端末を下ろす。
魔獣はしばらくこちらを見ていた。
やがて。
森の奥へ走っていった。
「逃げちゃったね」
「まあ、仕方ない」
アルトが笑う。
「野生なんだから」
「そうだな」
レンも頷く。
その後も、いくつかの生き物を観察した。
普通の鳥。
魔素を帯びた鳥。
小さな昆虫。
そして、遠くを歩く大型の魔獣。
近づくことはできなかったが、その姿ははっきり見えた。
「……大きいな」
レンが呟く。
「この辺りでは珍しくないよ」
先生が説明する。
「ただし、あれには近づかないように」
「はい」
大型魔獣は四人を見ることもなく、森の奥へ消えていった。
危険な生物。
けれど、こちらを襲うわけではない。
ただ森の中で、自分たちの生活をしている。
それを見て。
レンは少し不思議な気持ちになった。
* * *
昼。
観察を終えた生徒たちは、森の開けた場所で昼食を取ることになった。
「外で食べると、なんか違うな」
アルトが弁当を開く。
「いつもと同じだよ」
ユナが言う。
「場所が違う」
「それだけ?」
「それが大事なんだよ」
レンも弁当を開く。
風が吹く。
木の葉が揺れる。
遠くから鳥の声が聞こえる。
学園都市では聞こえない音ばかりだった。
「……こういうのもいいな」
レンが呟く。
「何が?」
「学校の外で、みんなと飯食うの」
「校外学習だからね」
「そうなんだけど」
レンは少し笑う。
「こういうの、結構好きかも」
「じゃあ、また来ればいいじゃん」
アルトが言う。
「今度は学校じゃなくて、遊びで」
「いいね」
ユナが頷く。
「フィーリアは?」
「行きたい」
即答だった。
「珍しい」
レンが笑う。
「そう?」
「うん」
「森、好きだから」
「じゃあ決まりだな」
四人で笑う。
午後の観察が始まるまで。
しばらく、のんびりとした時間が流れた。




