映画でも見に行こう
放課後。
授業が終わり、レンが鞄を持って立ち上がる。
「今日、このあとどうする?」
アルトが聞いた。
「どうするって?」
「どっか行こうぜ」
「また急だな」
ユナが呆れたように言う。
「いいじゃん。最近ずっと学校と家の往復だったし」
「この前も出かけたでしょ」
「それはそれ、これはこれ」
「どういう理屈?」
アルトは少し考える。
「……遊びたいから?」
「最初からそう言えばいいじゃん」
ユナがため息をつく。
レンは思わず笑った。
「で、どこ行くんだ?」
「映画」
「映画?」
「ああ。駅前に映画館あるだろ?」
「あるな」
「新しい映画やってるんだよ」
アルトが楽しそうに言う。
「それ、見たいだけじゃない?」
「もちろん」
「開き直った」
「いいだろ?」
レンはユナとフィーリアを見る。
「二人は?」
「私はいいよ」
ユナが答える。
「フィーリアは?」
「うん。行きたい」
「じゃあ決まりだな」
「……アルトの独断みたいなもんだけどね」
「結果的に全員行くんだからいいだろ」
「まあ、そうだけど」
四人はそのまま駅前へ向かった。
学校から駅までは、それほど遠くない。
夕方の街には、学校帰りの学生たちが多く歩いている。
「映画って、何やるの?」
レンが聞く。
「『星渡りの旅人』」
「聞いたことないな」
「最近人気なんだって」
アルトが答える。
「ファンタジー映画らしいぞ」
「ファンタジー?」
レンが少し反応する。
「好きそう」
ユナが笑った。
「……まあ、嫌いじゃない」
「前にファンタジー好きだったって言ってたもんね」
「よく覚えてるな」
「そりゃ覚えてるよ」
フィーリアも頷く。
「私も少し気になる」
「じゃあ、ちょうどいいな」
映画館に着く。
入口には大きな魔法表示が浮かび、上映作品が並んでいる。
「結構混んでるな」
「人気なんじゃない?」
「席、取れる?」
「リーテルで確認する」
ユナが操作する。
「大丈夫。まだ空いてる」
「じゃあ行こう」
チケットを購入し、館内へ入る。
「映画館って、こっちにも普通にあるんだな」
レンが周囲を見る。
「普通にあるよ」
アルトが笑う。
「何だと思ってたんだ?」
「もっと魔導っぽいものかと思ってた」
「映画は映画だろ」
「まあ、そうか」
四人で席につく。
照明が落ちる。
正面の巨大な画面が淡く光った。
やがて。
映画が始まった。
* * *
上映が終わる。
館内の照明がゆっくり戻っていく。
「……面白かったな」
レンが呟く。
「だろ?」
アルトが満足そうに言う。
「私は、最後のところが好きだった」
フィーリアが言った。
「最後?」
レンが聞く。
「主人公が帰る場所を決めるところ」
「ああ、あそこか」
レンも頷く。
「確かによかったな」
「私は途中の展開のほうが好き」
ユナが言う。
「意外と話が読めなかった」
「俺は戦闘シーン」
アルトが即答する。
「分かりやすいな……」
「だって格好よかっただろ」
「まあ、それは分かる」
レンが笑う。
四人で映画の感想を話しながら、館内を出る。
外へ出た瞬間。
「……あれ?」
レンが足を止めた。
「どうしたの?」
フィーリアが振り返る。
「いや」
レンは周囲を見る。
「ちょっと寒くないか?」
昼間はまだ暑かった。
けれど、今は風が少し冷たい。
「そう?」
ユナが腕をさする。
「……確かに」
「もうすぐ秋だからね」
フィーリアが言った。
「朝も少し涼しくなってきたよ」
「そういえば、そうだな」
アルトも空を見上げる。
「夏、終わるの早くない?」
「もう九月だし」
「早いなぁ」
レンも空を見る。
夕暮れの空。
昼間よりも少し高く感じる。
街路樹の葉が、風に揺れていた。
「……そっか」
レンは小さく呟く。
「もう秋か」
「こっちに来てから、初めての秋だね」
フィーリアが言った。
「そうだな」
レンは少しだけ笑う。
この世界に来たときは、季節のことなんて考える余裕もなかった。
空から落ちて。
フィーリアに助けられて。
学校へ通うようになって。
友達ができて。
気づけば、夏が終わろうとしている。
「……時間が経つのって早いな」
「楽しいからじゃない?」
ユナが言う。
「そうかもな」
レンは笑った。
アルトが先に歩き出す。
「ほら、帰ろうぜ」
「待ってよ」
「置いてくぞー」
「待てって」
ユナが追いかける。
フィーリアもその後を歩く。
レンも三人を追いかけた。
少し冷たくなった風が、レンの頬を撫でる。
夏が終わろうとしている。
そして。
この世界に来て、初めて迎える秋が始まろうとしていた。
「……秋、か」
レンは小さく呟く。
どんな季節になるのか。
それはまだ分からない。
ただ。
隣には、いつもの三人がいる。
それだけで。
少し楽しみだった。




