あと一人
文化・競技祭、三日目。
第二ラウンドの日が来た。
レンは参加者用の区画で、自分の名前が表示された組み合わせ表を見ていた。
「……エリオとは別か」
「みたいだな」
観客席からアルトが答える。
「まあ、決勝まで残れば会うだろ」
「そうだな」
レンは少し離れた場所を見る。
エリオも自分のグループで準備をしていた。
こちらに気づくと、ゆっくり近づいてくる。
「レン」
「ん?」
「君もこの組なんだね」
「ああ」
「なるほど」
エリオは組み合わせ表を見る。
「僕とは別か」
「そうみたいだな」
「残念だね」
「何が?」
「せっかくなら、君がどの程度走れるのか見てみたかった」
レンは少し眉を上げる。
「別に、決勝で見ればいいだろ」
「……決勝?」
エリオが小さく笑った。
「そこまで残れるつもりなんだ?」
「残るつもりだけど」
「そう」
エリオはそれ以上何も言わなかった。
「じゃあ、決勝で会えるといいね」
そう言って、自分のグループへ戻っていく。
「……なんか、引っかかるな」
レンが呟く。
アルトが笑った。
「あいつ昔からあんな感じだよ」
「そうなのか」
「自分より下だと思った相手には、妙に余裕あるんだよ」
「なるほど……」
レンは苦笑した。
そして、自分のマギアへ向き直る。
第二ラウンド。
第一ラウンドとは違い、最初から順位を競う。
同じグループの参加者が一斉にスタートし、上位二人だけが最終ラウンドへ進む。
「二人だけ、か……」
レンはマギアに跨がる。
ハンドルを握る。
魔鉱石が淡く光った。
フットレストが展開する。
ハンドルが定位置へ収まる。
「……よし」
スタート地点。
同じグループの参加者が並ぶ。
前方には青白いコースが伸びている。
今日のコースは、最初から狭い道へ入り、その後に大通りへ抜ける構成になっていた。
レンはコースを見る。
狭い道。
大通り。
複数の曲がり角。
そして、終盤には長い直線。
昨日とは違う。
また、判断が必要になる。
表示が切り替わった。
三。
二。
一。
――スタート。
マギアが一斉に加速する。
「っ!」
周囲の選手が一気に前へ出た。
レンも身体を倒す。
速度を上げる。
最初の狭い道へ入る。
左右から他のマギアが迫ってくる。
無理に前へ出れば、進路を失う。
レンは一台後ろについた。
前の選手が少し速度を落とす。
その瞬間。
レンは内側へ寄せた。
前のマギアを抜く。
「一人」
さらに前を見る。
もう一台。
その先には曲がり角。
レンは追い抜きを急がない。
曲がり角を抜ける。
前の選手が外側へ膨らんだ。
レンは内側を抜ける。
「二人」
順位表示が視界の端に浮かぶ。
現在、二位。
「……このまま」
前方を見る。
先頭との差は、まだ大きい。
後ろから別のマギアが迫ってくる。
レンは少しだけ速度を上げた。
けれど、無理はしない。
大通りへ出る。
道幅が広くなった。
レンは身体を前へ倒す。
マギアが加速する。
風が強くなる。
後ろのマギアも追ってくる。
「……来るか」
レンはちらりと後ろを見る。
距離が縮まっている。
さらに後ろにも、もう一台。
ここで抜かれれば三位になる。
その瞬間。
前方に分岐が見えた。
広い道。
そして、昨日走った狭い道。
レンは一瞬だけ考える。
広いほうが速度は出せる。
だが、距離が長い。
狭いほうは曲がりが多い。
それでも。
「……こっちだ」
レンは狭い道へ入った。
速度を少し落とす。
身体を傾ける。
曲がる。
また曲がる。
後ろから追ってきていたマギアが、広い道へ進んでいく。
レンはそのまま狭い道を抜けた。
大通りへ出る。
「……よし」
後ろを見る。
まだ追いつかれていない。
けれど。
残り距離は少ない。
前には先頭の選手。
その距離も、少しずつ縮まっている。
レンは身体を前へ倒した。
加速する。
「もう少し……!」
先頭との差が縮まる。
けれど、同時に後ろからもマギアが迫ってくる。
レンは前を見る。
ゴール。
もうすぐだ。
「間に合え……!」
最後の直線。
レンはさらに身体を倒した。
風が強くなる。
先頭の選手がゴールへ入る。
そして、その直後。
レンもゴールラインを越えた。
――ピッ。
順位表示が浮かび上がる。
一位。
二位。
三位。
「…………」
二位。
そのすぐ後ろ。
三位のマギアがゴールを通過した。
差は、ほんのわずかだった。
「……危なかった」
レンは大きく息を吐いた。
数秒遅ければ、三位だった。
「レン!」
観客席からアルトの声が飛んでくる。
「ギリギリだったな!」
「見てたのかよ!」
「そりゃ見るだろ!」
ユナとフィーリアも手を振っている。
レンは手を上げ返した。
「……疲れた」
マギアを止め、ゆっくりと降りる。
スタッフが近づいてきた。
「第二ラウンド、二位通過です」
「はい」
「最終ラウンドへの進出が決まりました」
「……ありがとうございます」
レンはコースを見る。
決勝。
そこまで来た。
そのとき。
「レン」
振り返る。
エリオが立っていた。
「お疲れさま」
「ああ」
「二位だったんだね」
「ギリギリだけどな」
「そう」
エリオは順位表示を見る。
「僕は一位だったよ」
「聞いた」
「それなら、分かってると思うけど」
エリオがレンを見る。
「決勝では、さっきみたいに簡単にはいかないよ」
「……簡単だったつもりはないけど」
「そう?」
エリオは笑う。
「まあ、君がここまで残ったことは認めるよ」
「どうも」
「でも――」
エリオは少しだけ口元を上げた。
「決勝に来たところで、僕には勝てないと思うけどね」
レンは少し黙る。
「……走ってみないと分からないだろ」
「そうだね」
エリオはあっさり頷いた。
「じゃあ、決勝で確かめようか」
「ああ」
「楽しみにしてるよ」
エリオはそう言って離れていった。
レンはその背中を見る。
「……やっぱり、感じ悪いな」
アルトが笑う。
「だろ?」
「お前、よく相手してたな」
「昔からだから慣れてる」
ユナが呆れたように言った。
「レン、負けないでね」
「もちろん」
フィーリアも頷く。
「頑張って」
「任せて」
レンはもう一度、コースを見る。
ここまで来た。
なら。
最後まで走りたい。
エリオがどれだけ速いのか。
自分がどこまで通用するのか。
それを確かめるのは、明日だ。
決勝。
今度は、同じ場所で走る。




