休日の街
休日。
レンたちは、学校から少し離れた商業区画へ遊びに来ていた。
「で、どこから行く?」
「決めてないの?」
ユナが呆れたように言う。
「いや、俺はアルトが決めてると思ってた」
「俺もレンが決めてると思ってた」
「何でだよ」
「なんとなく」
「適当すぎるだろ」
そんなやり取りをしながら、四人は街を歩いていく。
「とりあえず、あそこ行ってみようぜ」
アルトが指差したのは、魔法具を扱う店だった。
「お、面白そう」
レンも入っていく。
店内には、日用品から少し変わったものまで、様々な魔法具が並んでいた。
「これ何に使うんだ?」
「説明を読んでから聞きなさい」
「はい」
ユナに言われ、レンは素直に説明を読む。
「……なるほど」
「分かった?」
「半分くらい」
「分かってないじゃん」
「いや、仕組みは何となく」
レンが魔法具を眺めていると。
「……あれ?」
店内の照明が一度だけ明滅した。
「今、消えた?」
「ちょっと暗くなったね」
フィーリアが天井を見る。
数秒後、照明は何事もなかったように戻った。
「故障かな?」
「たまにあるんだよ」
店員が苦笑する。
「この辺の魔素供給が少し不安定になることがあってね。すぐ戻るから気にしなくていいよ」
「そうなんだ」
レンは天井の照明を見上げる。
「魔素って、そんなところでも使われてるんだな」
「魔法具だからね」
「確かに」
レンは少しだけ興味を持ったものの、すぐに別の商品へ目を向けた。
「こっち面白そう」
「もう行くの?」
「せっかく来たんだし」
アルトが笑う。
「レン、完全に観光客だな」
「異世界に来てるんだから、そりゃそうだろ」
「異世界って言うなよ」
「だって異世界じゃん」
フィーリアが小さく笑った。
その後も店を見て回り、昼食を食べたり、街を歩いたりして時間を過ごした。
学校とは違う場所で、四人で過ごす。
それだけのことが、レンには楽しかった。
「次、どこ行く?」
「この先に展示施設があるよ」
フィーリアが言う。
「展示施設?」
「魔導機器とか、昔の魔法具を見られるところ」
「それ行こうぜ」
アルトがすぐに乗った。
「レンも好きそうだし」
「行く」
「即答だね」
ユナが笑う。
四人はその施設へ向かった。
中には様々な魔導機器が展示されていた。
「これ、何?」
「昔の暖房器具だって」
「昔から魔法具あったんだな」
「うん」
レンは展示品を眺めながら歩く。
魔法陣の構造が見える展示もあり、思わず足を止めた。
「……これ、面白いな」
「また勉強?」
「違うって。遊んでるだけ」
「それで魔法陣見てるの?」
「これは別腹」
「何それ」
ユナが笑う。
その時だった。
施設の奥から、低い音が響いた。
「……何?」
照明が一斉に明滅する。
先ほどの店とは違う。
今度は明らかに様子がおかしい。
「ちょっと待ってください!」
施設の職員が慌てて走ってくる。
「皆さん、その場から動かないでください!」
周囲がざわつき始める。
「魔導機器の制御系に異常が発生しています!」
「危ないのか?」
アルトが聞く。
「安全装置は動いています。ですが、念のため一度外へ――」
職員がそう説明している間にも、施設内の魔導機器が次々と停止していく。
そして。
フィーリアが足を止めた。
「……フィーリア?」
レンが気づく。
「どうした?」
「……少し、ふらつく」
「え?」
フィーリアが額に手を当てる。
「大丈夫?」
「うん……たぶん」
けれど、顔色が明らかに悪い。
「座ろう」
「大丈夫だよ」
「いや、顔真っ青だぞ」
「……そう?」
「そう」
レンが近くの椅子を指差す。
フィーリアは大人しく座った。
「水いる?」
「うん」
ユナがすぐに用意する。
しばらくすると、フィーリアの顔色が少しずつ戻っていった。
「もう大丈夫」
「本当に?」
「うん」
その間にも、職員たちは魔導機器の確認を続けている。
やがて。
「原因が分かりました!」
少し離れたところから声がした。
「魔素供給系の制御に異常が出て、一時的に供給量が上がっていたようです!」
「供給量が?」
レンが反応する。
「はい。現在は正常値に戻っています」
職員の言葉を聞きアルトが言う。
「どうやら落ち着いたみたいだな」
レンは心配そうにフィーリアに尋ねた。
「普段は大丈夫なんだよな?」
「うん」
「じゃあ、今回はたまたまか」
「たぶん」
レンはフィーリアを見る。
「……さっきの魔素供給の異常って、関係あるのかな」
「分からない」
「だよな」
レンは少し考えた。
「まあ、たまたまかもしれないし」
「うん」
それ以上は考えなかった。
職員から安全が確認されたと説明され、施設も一部を除いて通常通り利用できるようになった。
「今日はもう帰る?」
ユナが聞く。
「うーん……」
アルトが少し考える。
「フィーリアが大丈夫なら、もう少しだけ見ていかない?」
「私は大丈夫」
「じゃあ、少しだけ」
レンも頷いた。
その後は無理をしないようにしながら、残りの展示を見て回った。
帰り道。
「今日は結構遊んだな」
アルトが言う。
「楽しかった」
フィーリアも答える。
「次はもっと普通に遊ぼうぜ」
「今日も普通だっただろ」
「途中まではな」
「確かに」
ユナが笑う。
レンも笑った。
今日の出来事は、結局たいした事件ではなかった。
魔導機器のトラブルも解決した。
フィーリアももう元気そうだ。
だからレンも、それ以上は深く考えなかった。
四人の休日は、そんな小さな出来事を残して終わった。




