街を走るもの
放課後。
「レン、今日このあと暇?」
教室を出たところで、アルトが声をかけてきた。
「特に予定はないけど」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれよ」
「何するの?」
「街、見て回ろうぜ」
「いいね」
ユナも話に入ってくる。
「私も行く」
「フィーリアも」
「……うん」
四人で学校を出る。
街へ向かう途中、レンは何気なく大通りを眺めていた。
人が多い。
学生もいれば、仕事へ向かう人もいる。
魔導車が道路を進み、その上空では別の魔導機が静かに移動している。
そして――。
「……あれ?」
レンの視線が、一台の乗り物に止まった。
二輪車のような形。
ただし、どこにも車輪がない。
細長く、シャープな車体。
表面には魔導装甲が施されているが、装甲らしい厚みはほとんどなく、空気の流れを意識したように滑らかな形をしている。
その中心には、一本の杖を思わせる構造が通っていた。
後方には魔鉱石が組み込まれている。
そして、その車体は――。
地面から少し浮いていた。
「……浮いてる?」
「ん?」
アルトが振り返る。
「何あれ?」
「マギア」
「マギア?」
「そう」
マギアは道路の上を滑るように進んでいく。
音もほとんどしない。
車輪が回っているわけでもない。
ただ、浮いたまま滑らかに加速していく。
「……バイクみたいだな」
レンが呟く。
「バイク?」
「いや、こっちの話」
前の世界にあったバイク。
形だけなら近い。
けれど、実際に見れば全然違う。
「マギアって、あれが普通なの?」
「普通だよ」
ユナが答える。
「高等部から使えるようになるから、学校でも基本操作を習うんだよ」
「へえ」
「街でもよく見るだろ?」
「確かに」
レンは改めてマギアを見る。
全長は一・六から一・八メートルほどだろうか。
人が一人乗るには十分な大きさ。
それなのに、余計な部分がほとんどない。
「なんであんなに細いんだ?」
「空気抵抗を減らすためだって」
フィーリアが答えた。
「できるだけ体積を小さくして、空気の抵抗を減らしてる」
「なるほど……」
魔法だけで動くからといって、何もかも魔法任せというわけではないらしい。
形状そのものにも理由がある。
「マギアは昔からあるの?」
「かなり前からあるよ」
アルトが言う。
「最初に作られた、個人向けの小型魔導機って言われてる」
「へえ」
「今じゃ普通に移動手段として使われてるし、競技にも使われてる」
「競技?」
「レースとか」
「面白そう」
レンの目が少し輝く。
「乗ってみたいな」
「高等なら乗れるぞ」
「本当に?」
「学校に練習用があるから、今度行ってみる?」
「行く」
即答だった。
ユナが笑う。
「気に入ったね」
「だって、浮いてるんだぞ?」
「そこ?」
「そこだよ」
四人で笑う。
しばらく歩くと、今度は大きな魔導車が通りを進んでいった。
「じゃあ、あっちは魔導車?」
「そう」
「マギアとは別物なんだ」
「基本的にはな」
アルトが説明する。
「マギアの技術を大きくして、四輪車みたいな形にしたのが魔導車だ」
「へえ」
「魔導車は基本的に自動で走る。目的地を指定すれば、あとは魔導車が勝手に向かってくれる」
「じゃあ、運転しなくていいの?」
「普通はな」
「すごいな……」
「安全用の魔法も入ってるから、普通に使ってる限り事故もほとんどない」
「ほとんど?」
「わざと危ないことしたり、外から邪魔されたりすれば別だけど」
「なるほど」
レンは頷く。
便利なだけじゃない。
安全に使うための仕組みまで組み込まれている。
「じゃあ、魔導列車は?」
今度は遠くを走る長い車両が見えた。
「それも魔導機?」
「魔導列車」
ユナが答える。
「魔導車をもっとたくさん繋いで、一度に大量の人を運べるようにしたのが始まり」
「なるほど。だから列車」
「そういうこと」
レンは少し考える。
「じゃあ、マギアだけ名前が独特なのは?」
「最初に広く使われた小型の魔導機だったからじゃないかな」
フィーリアが言った。
「昔からマギアって呼ばれていて、そのまま定着したって聞いた」
「技術の名前が、そのまま乗り物の名前になった感じか」
「たぶん」
レンはもう一度、街を走るマギアを見る。
杖のような形をした細い車体。
魔鉱石。
魔導装甲。
そして、地面に触れることなく浮いて進む姿。
「……やっぱり面白いな」
「そんなに気になる?」
ユナが聞く。
「うん」
レンは頷いた。
「どうやって浮いてるのかも気になるし」
「そこまで?」
「そこまで」
アルトが笑う。
「じゃあ、明日な」
「うん?」
「マギア、乗ってみようぜ」
レンは少しだけ笑った。
「絶対乗る」
明日が、少しだけ待ち遠しくなった。




