魔法具というもの
午後の授業。
教室に入ってきた教師が、教卓の上にいくつかの道具を並べた。
「今日は魔法具についてだ」
レンは並べられた道具を眺める。
見たことのあるものもあれば、初めて見るものもある。
「魔法具というのは、魔法適性がない人間でも扱えるように作られた道具だ」
教師が、そのうちの一つを手に取る。
「もちろん、魔法適性がある人間が使えば、より複雑な操作ができるものもある。だが、基本的には誰でも扱えるように作られている」
「誰でも……」
レンは少しだけ身を乗り出した。
魔法適性がない。
そう言われたばかりのレンにとっては、気になる話だった。
教師が道具に触れる。
次の瞬間、淡い光が教室を照らした。
「例えばこれは照明用の魔法具だ」
周囲から小さな声が上がる。
「内部には魔法陣が組み込まれている。そして、魔鉱石から取り出した魔素を利用して、その魔法陣を動かしている」
レンの視線が、照明器具へ向く。
魔法陣。
魔素。
魔鉱石。
これまで別々に聞いていた言葉が、一本の線で繋がった気がした。
「つまり……魔鉱石がエネルギー源で、魔法陣がそれを使って動かす仕組み、ってことですか?」
教師が少し考えてから頷く。
「例えとしては近いな」
レンも頷いた。
元の世界でも、電気そのものを作ったり扱ったりできなくても、家電を使うことはできた。
それと似ている。
「じゃあ、魔法適性がない人でも、魔法を使ってるみたいなことができるんですね」
「そういうことだ」
その言葉を聞いて、レンは少し嬉しくなった。
魔法適性がない。
それでも、この世界の魔法技術に触れる方法はある。
しかも、それは特別な才能を持った人間だけのものではない。
教師が別の魔法具を取り出した。
「これは実際に触ってみるといい」
生徒たちが順番に触れていく。
そして、レンの番になった。
「やってみます」
魔法具に手を触れる。
――カチッ。
淡い光が灯った。
「……ついた」
「そりゃそうだろ」
横からアルトが笑う。
「普通の魔法具なんだから」
「いや、そうなんだけどさ」
レンは少し笑った。
魔法適性がないと分かったばかりだったからこそ、余計に嬉しかった。
自分でも、この世界の魔法に触れられる。
それだけで十分だった。
けれど。
レンの視線は、まだ魔法具から離れない。
「先生」
「なんだ?」
「これ、中の魔法陣って見られますか?」
「内部構造か?」
「はい」
教師は少し意外そうな顔をした。
「まあ、授業で扱う範囲なら問題ない」
そう言って、魔法具の一部を外す。
中には、小さな板状の部品が入っていた。
その表面には、細かな線が複雑に刻まれている。
「これが魔法陣だ」
レンはじっと見つめた。
線が繋がっている。
分岐している。
一部分だけ形が違う。
ただの模様には見えなかった。
まるで――
「……プログラムみたいだ」
「何か言った?」
ユナが隣から覗き込んできた。
「いや、前の世界で似たようなものがあったんだ」
「ふーん」
ユナは魔法陣を見て、少し首を傾げる。
「私にはよく分からないや」
「俺にもまだ分からない」
レンは苦笑した。
けれど、分からないからこそ気になる。
魔鉱石から魔素が供給される。
魔法陣が、それを制御する。
そして、その結果として魔法具が動く。
なら。
それぞれの関係を理解できれば、もっと色々なことが分かるかもしれない。
授業が終わる。
レンはリーテルを開き、新しくメモを作った。
『魔法陣』
『魔素』
『魔鉱石』
『魔法具』
四つの言葉を並べ、その間に線を引いていく。
まだ分からないことだらけだ。
それでも。
魔法が使えないから終わり、ではない。
むしろ、自分には別の入り口があるのかもしれない。
「レン」
顔を上げると、フィーリアが立っていた。
「帰る?」
「ああ。ちょっと待って」
レンはメモを閉じる。
「今日、結構面白かった」
「魔法具?」
「うん」
フィーリアは少し考えてから言った。
「レンも、使えるようになるかもしれない」
「魔法?」
「うん」
「……そうかな」
「分からないけど」
フィーリアはいつものように、淡々と答えた。
それから少しだけ間を置いて。
「レンなら、何か見つけると思う」
「……そっか」
レンは笑った。
魔法適性がない。
その事実は変わらない。
けれど。
魔法を使う方法が、一つしかないとは限らない。
そう思えるだけで、少しだけ前向きになれた。
二人は教室を出る。
レンの頭の中には、今日見た魔法陣と、そこを流れていた魔素のことが残っていた。




