後編
数時間後。
日暮れ後の住宅街に加藤と坪木はいた。
二人は古い一軒家の前に立っている。
「ここが収録に使った事故物件です」
「実際に何かあった場所なのか?」
「はい……殺人事件や集団自殺、失踪事件も何度か起きていますね」
「普通に呪われているじゃねえか! いくら心霊番組の舞台にしてもこだわりすぎだろ」
「えっ、ここを選んだのは加藤さんだったはずですが……」
坪木に指摘された加藤は、いきなり彼女の尻を蹴り飛ばす。
そして不機嫌そうに家の玄関へと向かう。
「細けえことは気にすんな。さっさと行くぞ!」
「ところで加藤さん、それは何ですか……?」
「悪霊をぶっ殺す用の武器だよ」
加藤が得意げに見せるのは金属バットだった。
バットには古い紙の札が何重にも巻かれている。
「日本最強の霊媒師……東雲鉄斎って知ってるか?」
「いえ、知らないです」
「そいつから買った呪符をな、バットに巻いてみたんだ。こいつでぶん殴れば霊なんてイチコロだろ!」
加藤は嬉々として素振りを披露する。
坪木はますます不安になった。
(ほ、本当に大丈夫かな……?)
二人は事故物件の家へと踏み込んだ。
玄関を開けた途端、加藤は大声で怒鳴りながら土足で進んでいく。
「おら、幽霊! さっさと出てこいよバカ野郎! お前の家がボロボロになってちまうぞ! それでもいいのかァ!」
加藤は手当たり次第に家の中をバットで破壊していった。
あまりの行動に坪木は制止を試みる。
「ちょ、ちょっと加藤さん! これ以上はさすがに……!」
「うるせえ! 止めんじゃねえよッ!」
二人が言い争う中、洗面所の鏡に赤いワンピースを着た女が映り込んだ。
鏡の異変に坪木がぎょっとする。
その直後、彼女は背後から首を絞められた。
恐怖しながら視線を向けると、そこには赤いワンピースの女が立っている。
「うあ……っ!?」
「これでも食らえ、クソ女ァッ!」
加藤が問答無用で金属バットをフルスイングした。
渾身の一撃が女の側頭部に直撃する。
倒れた女に対し、加藤は容赦なくバットを叩き付けた。
「はっはっは! 隙だらけなんだよ、バカ野郎! このまま祓ってやる!」
金切り声を上げる女はなんとか抵抗しようとする。
しかし加藤の圧倒的な暴力の前では無駄な足掻きに過ぎなかった。
霊を滅多打ちにする加藤は、腰を抜かした坪木に命じる。
「おい! てめえ何ボサッとしてんだ! 悪霊退治のシーンだぞ! しっかり撮れよこの野郎!」
「は、はいっ! すみません!」
その後、カメラの前で悪霊の女は消滅した。
失踪した芸人達は、家の風呂場で気絶していたので、坪木が救急車を呼んで助け出した。
元凶である霊が滅びたことで、その家で異常現象が起きることはなくなった。
後日、心霊番組は問題なく放送された。
ただし加藤が悪霊を殴りまくる映像がヤラセ疑惑や暴力事件として炎上したのはまた別の話である。




