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パワハラ男が事故物件で金属バットを振り回す話  作者: 結城 からく


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1/2

前編

 テレビ局の廊下。

 ディレクターの加藤は、ADの坪木を蹴り飛ばした。


「おい、遅いんだよてめえ! 何分待たせてんだッ!」


「ちょっと別の用件で呼び出されて……」


「知らねえよ! 俺が呼んだらすぐ来い!」


「す、すみません……」


 坪木はしきりに頭を下げる。

 彼女の頭を丸めた台本で叩きながら、加藤は鬱陶しそうに舌打ちを連発する。


「本当にノロマだよな、お前。他の職場じゃやってけねえぞ。俺だから使ってやってるんだ」


「……ありがとうございます」


「嬉しそうじゃねえな。感謝してんのか?」


「も、もちろん感謝してますよ」


 坪木は精一杯に愛想笑いをする。

 本音を言えばパワハラ気質が嫌で関わりたくないのだが、それを正直に伝えられるはずもない。

 彼女は遠慮がちに話を切り出す。


「あの、加藤さん」


「何だよ」


「さっき連絡があって……二か月前の心霊番組を憶えてますか?」


「あ? そりゃ憶えてるよ。芸人が事故物件で暮らすってやつだろ。それがどうした」


 加藤が尋ねると、坪木は途端に暗い顔になった。

 彼女は周囲を気にしながら小声で報告をする。


「出演した芸人さん、みんな失踪しちゃったみたいです」


「……は? 行方不明ってことか?」


「そう、みたいです……はい。さっき遅刻したのもその件でして……」


「ようするに何が言いたいんだ」


「さすがに今回の放送はお蔵入りかなぁと……」


 次の瞬間、加藤が坪木の脛を蹴り上げた。

 坪木は目に涙を浮かべてぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「痛っ!?」


「バカ野郎! 失踪なんてどうせ嘘だ! ふざけんじゃねえよ! ちくしょうが、舐めやがって!」


 苛立つ加藤は、顔を真っ赤にして壁を蹴る。

 近くを通りかかった他のテレビスタッフは、怪訝そうに避けていく。

 加藤の問題人物ぶりは局内でも有名で、いちいち話しかける者はいなかった。


 坪木は周囲に謝りつつ尋ねる。


「で、でも、どうするんですか。放送まで一週間ですよ? さすがにこのままだと上の許可が下りないというか……」


「事故物件に行って芸人どもが消えた原因を探る。ついでに幽霊でも撮れたらスクープだぜ。そしたら企画変更だ! あいつらの出演シーンは全没にしてやる!」


 加藤は不敵な笑みを浮かべて宣言すると、何事かを喚きながら意気揚々と歩き出す。

 その様子を見た坪木は、強烈な不安を覚えるのであった。

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