21話 CM曲2
第1章 出会い~恋人に変わる
21話 CM曲2
土曜日の当日、星は新宿にいた。
アリス人財派遣会社のCMの打ち合わせで来ていた。
誰にも相談できなく一人で会わなければいけないため、凄く不安な気持ちでいっぱいだった。
13時、どきどきで昼食も食べれないほどの緊張で、待ち合わせの喫茶店の前に居た。
中に入ると結構人が多くどの人がアリス人材派遣の方なのかわからない状態であった。
「HIKARI様?」と店員が言うと星は「はい!」と返事した。
店員は「ご案内します。」と言って、星を店の2階へと案内した。
2階の窓際にスーツ姿の女の人が座っている。
歳は20歳代後半ぐらいで、黒髪ロングのすらりと高身長の女の人である。
店員はその席に星を案内し、「広瀬様、HIKARI様が来られました。」とその女の人に声を掛けた。
女性はこっちを向くと、立ち上がりスーツのポケットから名刺を取り出し
「初めまして、株式会社アリス人材派遣の広瀬です。」
と言って星に名刺を渡し、頭を下げた。
星は、「初めましてHIKARIです。」と挨拶した。
広瀬さんは店員に「ありがとうございました。」と挨拶し、星に「座りましょう!」と言った。
2人は椅子に座ると、広瀬さんは「何か飲まれますか?」と言ってきた。
星は「では、アイスコーヒーでお願いします。」と返した。
広瀬さんは再び店員を呼んで、アイスコーヒーを2個注文した。
「あらためまして本日は新宿まで来て頂きありがとうございます。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
「この喫茶店は、アリス人材派遣会社が運営している喫茶店なので安心してください。」
「早速ですが、HIKARIさんの『希望の一歩』と言う曲をYoutubeで聴かさせて頂きました。」
「その歌詞の内容、曲のイメージが弊社の人材派遣のイメージにピッタリの曲とわかりました。」
「現在HIKARIさんのYouTubeアカウントは20万人近くまで来ています。」
「『希望の一歩』の再生回数も200万回近くまで来ています。」
「その人気に合わせて、弊社のCM曲に使用させて頂きたいと弊社の広報メンバーで相談しお願いにあがりました。」
「もちろん無償でという事はありません。基本契約としましては、CM1本に使用する場合、100万円となります。」
「有名な歌手の曲などは1000万円を超えることがありますが、HIKARIさんはまだ無名という事で、基本は100万円となります。」
「この先、もっと有名になられて続けてこの曲を使用させていただく場合は、その相場から100万円を引いた値を追加で支払います。」
その金額を聞いて星は驚いた。
「自分の曲に100万円の価値があるものだろうか?」と凄く悩んだ。
「しかし、自分の曲がCMに流れることは願ってもないこと。」とも考えた。
「広瀬さん、少し質問させてください」星は尋ねた。
「はい!大丈夫ですよ!」と広瀬さんが答える。
「自分でもなぜ自分の曲がここまで再生回数が伸びたのかわからなくて?何かご存じなら教えてください」
広瀬さんは答えた。
「私たちも、HIKARIさんの曲を聴いたのは人気が出てからなので、それまでの経緯はわかりません。」
「ただ今この時点もどんどん再生回数が増えている。」
「登録者数も増えているのは、間違いなくあなたの実力です。」
「弊社としましても、その実力を持たれているHIKARIさんを完全にバックアップさせて頂こうと考えています。」
星は少し考えて
「ありがとうございます。わかりましたCMでの使用をよろしくお願いします。」と返した。
広瀬さんは
「ありがとうございます。承知しました。」と返し、続けて
「本来事務所に所属されているのであれば、事務所の口座に100万円を入金させて頂きます。」
「個人の場合は、個人の口座に入金するのですが、HIKARIさんはまだ未成年という事で、入金には親御さんの同意が必要です。」
「しかしながらHIKARIさんの希望で、親御さんに内緒と言われていますので、弊社で検討しYouTubeの寄付金として送金します。」
「いわゆる投げ銭と言うものです。」
「よろしいでしょうか?」と説明してきた。
星はお金自体はどうでもよいと思っているので、「大丈夫です。」と返した。
「ではこの契約書に必要事項の記入をお願いします。」
「名前は本名が必要ですが問題ないでしょうか?」
「公開しないのであれば大丈夫です。」
「もちろん公開はしません。」
「ありがとうございます。」と言って契約書にサインを行い、横に押印した。
「『根元星』さんと言うのですね。素敵な名前です。」
「では契約のは話は以上となります。」と広瀬さんは頭を下げた。
しばらく来たアイスコーヒーを飲んでいると、広瀬さんが「ここから少し雑談よいですか?」と聞いて来た。
星は「はい!」と答えると。
「本当にあの曲はすごく素敵な曲だと思います。」
「はじめて聴いたときからそう思っていました。」
「ですので、弊社のCMで流れると、もしかしたら弊社以上の王手からCM依頼や、歌手としてのデビューも夢ではありません。」
「その時には親御さんには内緒にできませんね」と笑顔で話してきた。
星は「自分がデビュー?」夢の様なことで気にもしなかった。
「しかし、言われてみればもしデビューなんかになったら、親にはもちろん学校にも説明する必要があるんだ?」と心で思った。
広瀬さんは続けて、
「どうして親御さんに内緒にされているのですか?話せないのなら無理には大丈夫です。」
「私は今一人で住んでいます。父親の仕事の関係で小さい頃から住居地が点々と変わり友達もできませんでした。」
「そんな中、お母さんがピアノを買ってくれました。」
「それを小さい頃から練習していました。」
「私が高校生になった時に、お父さんの体調が少し悪くなって、お母さんがお父さんのところに行くようになりました」
「心配を掛けたくないんです。お父さんのことと自分のことと心配を増やしたくない。」
「だから今は内緒にしたいと思っています。」
星は少し考えて、「もしこの先、本当に売れてデビューする様なことになれば、親にも説明する様にします。」と返した。
広瀬さんは「その方が良いですね、必ず売れます!」と返した。
「私は人材派遣会社でたくさんの人と接しています。」
「人材派遣は就職難で苦しんでいる方を何とか仕事をして頂きたく考えています。」
「でも現実は難しく、人材派遣に来られる方は自分に自信がなかったり、夢を持たれていない方がほとんどです。」
「とりあえず働きたい。お金が必要だから働きたいという感じで、いつしか自分の夢を捨てている方?少し表現が悪いですが、あきらめている方なんです。」
「星さんの様に夢を持たれている方には頑張ってほしい。是非夢をかなえてほしいと思っています。」
しばらくして、広瀬さんが席を立って、「少し待ってて下さいね」と1階に降りて行った。
星は「トイレかな?」と思うと、すぐに戻って来て、
「私はこれから会社に戻らないといけないので、すみませんが先に失礼します。」
「ここの支払いは済ませておいたので、ご心配しないでください。」
「あっそうそう!CMの公開は数か月先になると思います。」
「まだまだ、この曲に合うキャスト、内容など企画しないと行けないので・・・。」
「また詳細などは後日ご連絡させて頂きます。」
「本日はお時間取らせてすみませんでした。」
「今後もよろしくお願いします」と頭を下げて喫茶店から出て行った。
星はしばらく席に座ったままであったが、契約書の控えを眺めていた。
「素敵な人だったなぁ」
「本当にキャリアウーマン?見えないなぁ」
「そして優しさを持っている方」
「きっとあの方を信じて大丈夫だよね」と思った。
契約書の控えをかばんにしまうと、喫茶店を後にした。
帰りの電車の中で
「この先のこと、本当に真剣に考えないと・・・。」
「お父さん、お母さんはどう思うかな?」
「早苗は応援してくれるかな?嘘をついてるのがバレたら絶交されるかな?」
「祐樹君は自分がHIKARIと知ったらどう思うんだろう?」
「がっかりするかな?」
そんなことが頭の中をぐるぐる回っていた。
「でも前を向かなきゃ!自分の夢を目指して」とこころに誓った。
読んで頂き、ありがとうございます。
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