9話 路上ライブ
6月に入り梅雨の時期が始まった頃の土曜日、梅雨と言うのに天気は晴れていた。
最近の気候ははっきりと梅雨と言う期間が定まっていなく、晴れる日も多ければ急に大雨が続くこともある。
そんな休日の朝、朝食を終えた星は朝から自分のYouTubeチャンネルを見ていた。
「再生回数25回、登録者数3名、再生回数も登録者数もの変化ないなぁ」
「どうしたら増えるのかなぁ?」
「学校の先生やクラスメート、生徒会のメンバーには言ってないので、YouTubeに素顔を載せる訳にはいかないし、化粧などでごまかしても、動画となると細かなとこまで見えるから心配。」
星のYouTubeチャンネルでは、曲を配信していても画像は録画した景色を映すだけのものとしていた。
他のYou Tuberは素顔を公開して、歌ってみたや、路上ライブを公開しているがそれが出来なかった。
「学校にバレないでするには限界があるのかなぁ?」
「もちろん売れてきて人気が出たら、黙ってるのも無理なのでカミングアウトを考えているけど、でもそれまではこのままで行きたい」
「学校の自分と正反対のことを行っている後ろめたさもあるから・・・。」
「みんなにバレたらどう思われるのだろう?」
「早苗は怒るだろうし、生徒会のメンバーももしかしたら距離を置く人もいるかも知れない・・・。」
「HIKARIの存在を知っているあの男の子はどう思うのだろ?HIKARIが私だと知ったら幻滅するよねぇ」
星は頭の中でいろいろな思いを巡らさせていた。
そんな中、星は路上ライブ配信の動画を調べようと検索欄に路上ライブと打ち込んだ。
そこには有名人、あまり売れていない人も含めたくさんの路上ライブのページがヒットした。
その中で、顔を公開している人がほとんどだったが、その中の数人はYouTubeにアップこそしないが、路上ライブを行っていると言う人もいた。
「そっか、路上ライブだから別にYouTubeにアップすることもしないと言うこともなく、動画に納めなければその場で終わるんだ。
ましてや、私みたいに売れていない人が路上ライブをしたところで、誰も録画しないよね。」
星の心の不安が少し解消された。
「今日晴れているし、夕方に路上ライブしよう」と心に決めた。
夕方なので、それまでは電子ピアノの足を外して、手さげ用ケースに入れた。
アンプは10Wぐらいの小さいアンプをクロゼットから出して用意した。
それらを一度肩に掛けてみる。
「これなら持ち運びができる!」
「でも少しは不安があるから少し電車で遠出をし、埼玉県で行うことにしよう!」
そう決めた星は、画用紙に自分のYouTubeアカウント名と自己紹介を書き込んだ。
「よし、準備万端」
「出るまで練習しよう!」そう言って電子ピアノとイヤホンで弾き語りの練習を行った。
出発前には、眼鏡をコンタクトに変更し、ビックで髪型と色を変えて化粧で幼さを少し大人ぶった顔へと変化させた。
服装は以前のイメージの通り、黒系のワンピースに着替えた。
あの秋葉原のステージに立ったそのままの姿だった。
アパートを出た星は最寄りの駅から埼玉県に移動した。
移動途中にネットでライブの場所を決めると、自分のYouTubeには路上ライブの予定を公開した。
[本日、埼玉県〇〇公園にて、路上ライブを行います。時間は19時開始、数曲をピアノ弾き語りを行います]
公園に着いた頃は、辺りが暗くなってきた。
星がライブの準備をしていると
「何が始まるの?」
「路上ライブじゃない?」
と立ち止まる人もいる中、ほとんどは素通りで去っていく。
「考えても仕方ない!」
19時ちょうどにライブを始めた。
星は通りすがりの人に向けて、
「『HIKARI』です。YouTubeにオリジナル曲をアップしています。本日は数曲ピアノ生演奏で弾き語りをさせて頂きます。」
と挨拶を行うと、オリジナル曲2曲をピアノで弾き語りを行い歌った。
最後は自分もお気に入りのバラード、「希望の一歩」を心を込めて歌った。
ライブが終わるころには数十名の人だかりができて、拍手をもらった。
星は再度、見て下さった人に挨拶を行った。
「『HIKARI』です。」
「良かったら今の曲をUPしているのでYouTubeに登録をお願いします。」
数名からは「登録したよぉ!」「応援しまーす。」
と声を掛けられライブは終了した。
星が頭を下げて挨拶をすると、数十名の人の中に知っている顔を見つけた。
「あっ!同じ学校の・・・」とこころの中で叫んだ。
「顔、髪型を変えているのでわかってはいないはず」
その場は冷静さをキープしながら挨拶終えた。
数名から、サインを求められ対応し、ピアノやアンプの後片付けが終わって振り向くと、その彼はもうその場にはいなかった。
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祐樹の携帯に着信が入った。
登録しているTou Tuberの更新の連絡。
「『HIKARI』さんが更新したんだぁ」
YouTubeを開くと、「路上ライブのお知らせ」と言う題目で、日時、場所が記載されていた。
[埼玉県○○公園と書かれている。]
「今から行って間に合うのかな?」と思ったが、そのチャンスを見逃す訳に行かないと急いで用意を行った。
「お母さん、少し友達のところに行ってくる」と言って急いで出掛けた。
「21時までには帰ってきなさい!」とお母さんに言われながらも聞いている時間はなかった。
「『HIKARI』さんがライブって、生で聞ける」
「あの声が再び生で聴けるんだぁ」
祐樹は顔をニヤニヤさせて駅に向かった。
最寄りの駅に着き、電車を乗り、目当ての埼玉県○○公園に到着、その時のライブは既に1曲が終わっていた。
透き通ったクリアーな声、それでも高音まで出る声量。
「『HIKARI』さんだ」
「ステージとは雰囲気は違ったけど間違いな『くHIKARI』さん」
「その声もあのライブの時と同じ声」
「やっぱり良い」
俺は改めて応援したいと思った。
最後は自分のお気に入りのバラード。
「やっぱりよいなぁ」
「希望の一歩かぁ」
祐樹は終始笑顔になっていた。
路上ライブが終わり『HIKARI』が挨拶を行った時、何か目が合った気がした。
『HIKARI』さんは思わず目をそらした感じがする。
「何だろう?」
でも何事もなかった様に片づけを始める彼女を見て、
「気のせいだね」と思った。
話しかけたいけど、その勇気は俺にはなかった。
「あっ!今から直ぐに帰らないと21時回っちゃう」
俺はダッシュで駅まで向かった。
祐樹は帰りの電車で『HIKARI』のYouTubeを確認する。
登録者数21名
希望の一歩の再生回数、159回
「増えたね」とこころの中で喜んだ。
読んで頂き、ありがとうございます。
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