第21話 国際情勢の変化
アスタリスクの登場は、周辺諸国に大きな衝撃を与えていた。
特に隣国のブルトニア帝国は、海軍力の劣勢を深刻な問題として捉えていた。
「我が国の海軍力では、もはや王国に対抗できない」
ブルトニア海軍本部での会議は、危機感に満ちていた。
アスタリスク一隻で、彼らの艦隊全てを相手にできる戦力差が生まれていた。
「スチームフォードの技術者を引き抜くことはできないか?」
「既に試みましたが、王国が国家機密として厳重に保護しています」
「それなら我々独自で対抗艦を建造するしかない」
ブルトニア帝国では、アルバートのアスタリスクを超える戦艦建造計画が本格化していた。
設計図は粗削りで、現代工学の知識がないため効率は低く、建造速度も遅い。しかし、彼らは諦めずに巨艦の建造を進めていた。
「目標は、あのアスタリスクに匹敵する艦を五年以内に完成させることだ」
ブルトニア海軍提督の声は硬く、工場の騒音と蒸気の吐息がその場を満たす。
「しかし、現状の技術では15インチ砲の発射精度すら満足できない……」
設計担当者の声には焦燥が混じる。
巨大砲の反動や装甲の重量バランスが予想以上に難しく、試作艦の性能は想定より低下していた。
一方、アルバートは王国の海軍本部で、遠くブルトニアの建造進行状況を把握していた。
「彼らの砲術と機関性能はまだ私たちの半分以下だ」
アルバートは航海図と蒸気出力曲線を見比べ、シミュレーションを開始する。
「戦術的に優位を維持する必要がある」
アルバートの提案で、王国は秘密裏に新型戦艦の設計に着手した。
5000トン級のアスタリスクに続き、さらに大きな22000トン級超戦艦の建造が進む。
「この艦は、ブルトニア帝国の建造計画が完成する前に戦略的圧力を与える。心理戦も兼ねるのだ」
ネルソン准将の言葉には、軍人特有の冷徹な計算が含まれていた。
王国内では、アルバートの超戦艦建造計画に対する議論が起きていた。
「22000トンの戦艦など、本当に必要なのか?」
海軍内部にも懐疑的な声があった。
アスタリスクで十分に優位性は確保されており、さらなる巨艦は過剰投資ではないかという意見だった。
「諸君、油断は禁物だ」
ネルソン准将が会議で反論した。
「他国も必ず追従してくる。我々が技術的優位を維持するには、常に先を行く必要がある」
結局、海軍上層部は超戦艦建造を支持した。
しかし予算の問題は深刻で、建造費用の調達に苦労していた。
アルバートは冷静に、王国海軍と民間投資家の間で資金・技術を再分配する計画を練った。
「民間投資家からの資金調達はいかがでしょうか?」
アルバートの提案により、戦艦建造への民間投資が検討された。
造船業の発展により利益を得ている商人たちが、積極的に投資を申し出た。
「アルバート様の技術なら、必ず成功します」
トーマス商人をはじめとする投資家たちの支援により、資金問題は解決した。
数か月後、ブルトニア帝国の情報部から報告が入る。
「王国艦隊が、アスタリスクよりさらに巨大な艦を秘密裏に建造中です」
提督は唇を噛む。敵の圧倒的技術力に対抗するには、自国の造船技術ではまだ間に合わない。
「我々も新型艦を投入せざるを得ない……しかし資金も技術も不足している」
こうして、王国とブルトニア帝国の間で密かな戦艦建造競争が始まった。
各国の軍事バランスは微妙に変化し、外交は緊張に包まれる。
王国内での議論でも、アルバートの存在が大きな影響を与えていた。
「彼の技術はもはや、戦術だけでなく国家戦略そのものを左右する」
海軍高官たちは口々に、アルバートが設計する超戦艦の進水を心待ちにした。
一方、ブルトニア側も焦燥を募らせつつ、諦めずに対抗策を模索していた。
「彼らの科学力は異常だ……我々も独自の蒸気エーテル融合技術を開発するしかない」
その研究は成功すれば脅威となるが、実用化にはまだ時間がかかる。
そして、より深刻な問題が発生した。
近隣諸国の海軍拡張により、軍事バランスが崩れ始めていたのだ。
「各国が戦艦建造競争に突入している」
情報部からの報告は憂慮すべき内容だった。
ブルトニア帝国だけでなく、他の複数の国も戦艦建造を計画していた。
「軍拡競争の始まりですね」
アルバートは冷静に状況を分析した。
技術革新は必然的に軍事バランスを変化させ、各国の対抗措置を誘発する。
「だからこそ、我々は常に最先端を走り続けなければならない」
超戦艦の必要性は、国際情勢の変化により一層明確になっていた。
こうして、ヌエルラントの海は、鋼鉄の均衡と緊張の中で静かに熱を帯びていった。
海戦はまだ始まっていない。しかし、戦艦建造という名の競争そのものが、各国に戦略的圧力を与え続けていた。
第21話の成果:
周辺諸国の軍拡競争開始
超戦艦建造への民間投資獲得
国際的な戦艦建造競争の激化
技術的優位維持の重要性再確認




