第12話 処女航海の感動
『スターター号』の艤装工事が完了し、ついに進水式の日がやってきた。
港には見物人が大勢集まり、王国技術院からも代表団が視察に訪れていた。
「神よ、この船に祝福を」
伝統的な祈祷の後、アルバートがシャンパンのボトルで船首を叩く。
スターター号は静かに水面に滑り降りていった。
「浮いた!本当に浮いた!」
見物人から歓声が上がる。
しかし、これはまだ序章に過ぎない。真のテストは機関始動だった。
「機関室、準備はいいか?」
「はい、アルバート様!ボイラー圧力正常、すべて準備完了です!」
アルバートは操舵室で深呼吸をした。
前世の夢が、ついに現実になる瞬間だった。
「機関、前進微速!」
蒸気機関が唸りを上げ、スクリュープロペラが回転を始めた。
スターター号は静かに、しかし確実に前進し始める。
「速度3ノット...5ノット...8ノット...」
従来の帆船では決して実現できない速度で、スターター号は港を出ていく。
風向きに関係なく、思いのままの方向に進む姿は、まさに革命的だった。
「信じられない...風がないのに、あの速さで」
港の人々は口々に驚嘆の声を上げた。
外海でのテストでは、さらに驚異的な性能を発揮した。
最高速度12ノット、燃料消費量は予想を下回り、操舵性も良好。
すべての性能が設計値を上回っていた。
「完璧だ...」
アルバートは操舵室で感動に震えていた。
前世で愛した戦艦たちの雄姿が脳裏に浮かぶ。
この技術があれば、いつかは大和に匹敵する戦艦も建造できる。
帰港すると、港は見物人で埋め尽くされていた。
王国技術院の代表は興奮を隠せない様子で、
「アルバート殿、この技術を王国海軍に提供していただけないか?」
しかしアルバートの答えは意外なものだった。
「もちろんです。しかし、私にはもっと大きな計画があります」
「大きな計画とは?」
「戦艦です。この世界にかつてない、巨大で強力な戦艦を建造したいのです」
会場がざわめいた。戦艦――それは海軍力の象徴であり、国家の威信をかけた存在だった。
「大艦巨砲主義こそが、海上覇権の鍵なのです」
アルバートの眼に、熱い決意の炎が宿っていた。
第12話の成果:
スターター号処女航海成功
蒸気船技術の完全実証
王国海軍からの正式な関心表明
戦艦建造計画の公表