第1話 霧の向こうの目覚め
意識が戻ると、そこには見慣れない天井があった。
「......これは?」
田中翔太――いや、今はアルバート・スチームフォードという名前らしい――は、重い頭を抱えながら起き上がった。
前世の記憶と、この身体の持ち主の記憶が混在している。
研究所での実験事故、そして突然の死。そして気がつけば、この蒸気と煙突の匂いが立ち込める世界にいた。
窓の外を見ると、石造りの建物から白い蒸気が立ち上り、遠くの工場地帯からは黒煙が空を染めている。まるでスチームパンクの世界様だった。
「アルバート様、お目覚めですね」
部屋に入ってきたのは、質素な服を着た中年の女性――メイドのマーサだった。
彼女の表情には安堵の色が浮かんでいる。
「三日間も高熱で寝込んでいらしたので、心配しておりました」
アルバートの記憶によると、彼は落ちぶれた男爵家スチームフォード家の三男。
長男は軍人、次男は商人として家を出ており、彼だけが領地に残っている。
といっても、その領地も小さな村ひとつ程度の規模でしかない。
「マーサ、暖炉の調子はどう?」
「相変わらず煙ばかりで、なかなか暖まりませんわ。薪も限られておりますし...」
アルバートは暖炉を見つめた。
前世の知識が頭の中で蘇る。
この世界の暖房技術は明らかに非効率だ。
不完全燃焼により熱効率が極端に悪く、煙突の設計も熱を無駄に逃がしている。
「マーサ、村の鍛冶屋は元気かい?」
「ええ、ガーレット親方は相変わらずお元気ですが、最近は仕事が少なくて困っていらっしゃるようで...」
アルバートの口元に微笑みが浮かんだ。
前世の田中翔太が研究していた熱力学の知識、そしてこの身体に宿ったエーテル感知能力。
この二つを組み合わせれば、この世界の技術を革新できるかもしれない。
第1話の成果:
転生と能力の確認完了
現在の状況と世界観の把握
改革への第一歩を決意