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烙印貴族の下剋上  作者: 宮﨑碧
第1章入学編
10/10

第9話騒動

学院生活はあっという間に時間が過ぎていくもので、入学から10日経った。女子生徒とはまだ壁があるが、男子生徒の一部とは割と上手くやれており話せるようになってきた日の昼休み。廊下がいつもより騒がしかった。


「今日はやけに騒がしいな。」

「Bクラスの連中みたいだよ。シチュワードの奴だとは思うけど。」

「あぁ。あの問題児か。」

「有名なのか?」

「僕の故郷グリモルの田舎町では有名かな。」

「グリモル..ムスペルヘイム国境近くを任されているクリケット子爵の長男が、そんな名前だったような?」

「へぇ〜。ニルって知らない事多いけど、貴族の名前は知ってるんだな。意外だわ。」

「まぁ。領地にいた時、暇すぎて昔の本を読んでたおかげか、古い家名は頭に入ってるだけだよ。」

「正解。血の気の多い奴だったから、両親も苦労してたんだ。環境を変えたみたいだけど、成長は見込めないね。」

「なるほど。」


俺が特に仲良くなったのは、グリモル出身のセクバートとウィン出身のウィン・ブルースの2人だ。


「先生達が来る前に、落ち着いてくれるといいんだけど...。」

「そうか?あれには、巨大な雷を落とされた方がいいと思うぞ。例えば、ウチの巴先生とかによ。」

「そうだな。ブルース、巴先生に掴まれ職員室に連れてかれてた、どっかの誰かさんみたいになった方がいいかもな。」

「嫌な事思い出させるなよ。ニル。」


3人で冗談めかして談笑している間、廊下にはギャラリーが増え続けていた。それを見かねたイズンは立ち上がり廊下を覗いてる生徒の元へ行く。


「連日騒がしいですわね。」

「リッちゃんじゃ〜ん。どったの?リッちゃんも見にきたん?」

「半分当たっていますわ。スズノミヤちゃんも見に来たのかしら?」

「うん!だけど〜、趣味悪すぎて笑えんわ〜。超萎えたって感じじゃん。あ・と気楽に、スーちゃんとかミッちゃんって呼んでよ〜。」

「気が向いたら呼びますわ。」

「ケチ〜。いつになったら愛称で呼んでくれるの〜〜。」


駄々をこねる幼児に劣らない勢い。終いにはイズンの胸目掛けて跳びつき抱き付く。


「ちょっ⁉︎やめなさい!くすぐったいじゃありませんの⁉︎」

「ぶーぶー。ダメです〜。」


「「キャーーー‼︎」」


女子生徒数人の悲鳴が響き渡る。教室にいた生徒達は、イズン達のやりとりを見ていたが、今は教室の外に出たり、顔を出して見物する生徒が増えた。


さっきより人が多くなってるな〜。


「...僕達も見に行く?」

「ふっ。気になりすぎてソワソワしてるぞ。セク。」

「だって心配じゃんか!もし今のが、シチュワードが原因だったら、僕達グリモルに住んでる人達にどう影響があるかわからないんだから。」

「..この場では、領地の顔であるのは間違いないか。ブルースもわかるんじゃないか?」

「まぁな。..からかって悪かった。セク。」

「気にしてないよ。それより、早く行こ!」


人をかき分け3人共廊下へと出ると、この騒ぎの首謀者3名と被害にあったであろう女生徒1名を、取り囲むギャラリー達だった。


異様だな。想像していた状況の斜め上だぞ。誰も止めなかったのか?


被害にあった女性徒は力無く横に倒れていた。外傷は鼻から血が出ていることぐらいしかわからない。


「よっこいしょ。」

「わっ⁉︎」

「見えないんだろ。さっきのお詫びだ。」

「あ、ありがとう。あ〜..最悪だ。」


セクバートは、皆より身長が20センチ程低い為、ジャンプして見ようとしていた所、ブルースが持ち上げ見えるようにしてあげると、現場を見て落胆する。


てことは、あれがシチュワードか。


3人の中心にいる男子生徒を、睨むように見る。


残り2人は取り巻きだろう。彼女をやったのは間違いなくあの中心にいる生徒だろう。取り巻き2人は、少し動揺している様子だし。


「お、おい!」


ブルースの呼び掛けには答えずに人をかき分け、横たわる女子生徒の元へ行き体に触れる。


意識がない。鼻血以外の出血等は見られないが、呼吸が浅くなっている。保健室に連れてくか。


「なんだ?部外者は引っ込んでろ!怪我したくねぇだろ?」

「失礼するよ。」

「おい!」

「軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?」

「チッ!無視してんじゃねぇよ!」

「シチュワードさん!待ってください!」

「なんだぁ?いつ、俺が喋っていいと許可した?あぁ?」


シチュワードの拳は、俺に向けられた状態で止まり左隣りにいた生徒を睨む。


「ま、待ってくれ!首、見てくださいよ。」

「ん?」


シチュワードを止めた生徒は、俺の事を指さしして訴えかけた。


「あぁ。...なるほど。」

「わかっていただけました?」

「あぁ。テメェが、舐めてる事がな‼︎」

「え⁉︎」


止めていた拳は、友人を殴りつけ。殴られた生徒は、ギャラリー達の方へと吹っ飛び巻き添えをくらう。


「俺を!軟弱者と並べるじゃねぇ‼︎」

「...。」


もう片方の取り巻きは、硬直していて一連の行動を傍観するばかりだった。


被害が広がったのは、自業自得だな。面白半分に見物してるからこうなる。勘違いして増長させた馬鹿は、お前らがケツ拭けよな。


その場を去ろうと一歩踏み出すと


「待ちやがれ!」

「..何?」

「そいつを置いていけ。そうすれば、見逃しておいてやる?」

「そうか。じゃあな。」

「〜〜。チッ!」


シチュワードに向かって、ポケットに入ってた金貨を後方へ放り投げる。その行動が気に食わなかったシチュワードは、我慢の限界なのか蹴りをくり出してきた。


単純な奴。


予想通りの行動に呆れつつ応戦しようと振り向くと、眼前にブロンドの髪がたなびいていた。その人物は、シチュワードの蹴りを扇子一本で止めていた。


「‼︎」

「後ろからの不意打ちとは、貴族としての矜持も忘れたのかしら?」

「スノリット・イズン⁉︎」

「昨年の社交会以来かしら?..ずいぶん、楽しんでいるご様子。わたくしも加えていただけますかしら?」


シチュワードは、一瞬怪訝な顔を見せて足を振り抜いた。


「強引ですこと。」

「何のつもりだ?テメェが、庇う理由がわからねぇな?」

「簡単な答えですわ。彼の委員長だからですわ。」

「..クックッ。ハッハッハッハー‼︎」

「「...。」」


頭のネジが外れたか?


「滑稽だな!スノリット家の地位が、危ういと聞いていたが予想以上だったとはなぁ?そう思うだろ?」

「は、はい!偽貴族には、お似合いだと思います!」

「だよなぁ〜。オメェらもそう思うよな?」


シチュワードは、取り巻きの肩を掴み脅す様な形で顔を近づけると、台本が用意されているのかと思うぐらい、シチュワードの都合の良いセリフを吐かせた。それに流されるように、周囲も都合よく動く。


見ていて気分が悪い。自分達の意思は無いのか?


「ふふふ。偽貴族..ですか。そんなスノリット家ですが、貴方方より位は高いのですから不思議ですわね。何故、偽貴族に負けているのかお聞きしたいですわね?」

「偽りの実績を陛下に進言していたからだろうが‼︎」

「真実と偽りの情報の区別もつかないとは、この先の祖国は大丈夫なのかしら。こうなると、人材不足もいいところだわ。」

「なんだと⁉︎」

「ヴィトニルくん。怪我人を運んでいるのですから、もっと丁重に扱いなさい。」


イズンは振り返り、怪我した女子生徒を脇に抱えて持っていたを見て指摘してきた。


「彼女は人間ですわよ。物ではないのです。」

「あぁ。すまん。人間を運ぶの初めてだったんだ。」

「はぁ。面倒のかかるお人ですわね。」


今度は、昔絵本で見たお姫様抱っこなるものに持ち替える。


「わかっているじゃないの。なんで、最初からできなかったのかしら。ほら、保健室に行くのでしょう?早く行きなさいな。」

「おい!待っ」

「ありがとう。よろしく。」


長居はしたくなかったので、そそくさと逃げるようにその場をイズンに押し付け。俺は保健室に向かった。


「..。帰ってきましたら。今度は運ぶスピードについてもお教えしなければなりませんわね。」

「チッ‼︎」

「おっとっと。暴力はんたーいだよん。」


苛立っていたシチュワードは、足を上げようとした時、イズンとの間に颯爽とスズノミヤが入る。


「あれ?今、ウチの登場かっこよくなかった?決まってたじゃね?リッちゃん、どうよ?」

「ややこしくなるから、ちょっと離れててくれるかしら。」

「え〜。ひど〜。ウチ助けようとしただけなのに〜。もう!こうなったのは、あんたのせいよ!脳筋!」

「アァ⁉︎」

「ふふふ。本人に言ってはダメですわよ。自身で思ってないのですから。」

「え?ウチより馬鹿ってこと。ウケる〜ww」

「囀るな‼︎」


鬼の形相で拳を振りかぶる。


少し、煽りすぎてしまいましたわね。


「はい。終了。」

「「「⁉︎」」」


シチュワードの動きが停止する。まるで、時間が止まったかと思うぐらい。そして、止めた人物が誰なのか声を聞いただけでわかった。


「まったく。人が息抜きできる貴重な時間に何をやってるかと思えば3馬鹿か。」


湯呑み茶碗を持った巴先生が、こちらに向かって歩いてくる。その進行方向にいた生徒達は端に寄り巴先生を通してわたくし達の前で止まり見下ろすと、巴先生の手刀が綺麗に頭へと落ちていく。シチュワード・取り巻き・イズン・スズノミヤへと。


「なんで⁉︎ウチ達も⁉︎」

「当たり前だ。馬鹿共。本来ならこの場にいる全員にしたい所だが、手は2個しかないからな。ここは騒ぎの張本人共で済ます。」

「そ、そんな〜。」

「...。」

「ごめんなさい!もうしませんから、睨まないでください。ともちゃん」

「先生と呼べ。」

「イタッ⁉︎」


スズノミヤの頭に再び、手刀が落ちる。


「関係ない奴らは、自分達の教室に戻って大人しく座ってろ!時期に各担任が、教室に行く。..お前らは、ここに残れ話しがある。」


ギャラリー達は各々の教室に戻って行き、わたくし達は一連の事を巴先生に伝える。持っていた湯呑み茶碗を飲み終えた巴先生は、静かにわたくし達に問う。


「お前達はどうしたい?」

「...。」

「基本教師の介入はなしだが、今回は一線を超えた案件だ。私や他の教師を立てることができるがどうする?」

「..。わたくしが決めるべきではないかと。決めるのは、被害に遭われた彼女ですわ。」

「わかった。お前らも教室に戻れ。午後のはじめは自習とする。委員長。頼むぞ。」

「わかりましたわ。」

「シチュワードくん。君は、私と来てもらおうか。」


苦虫を噛み潰したような顔をしながら、引きづられて行く。


「ねぇねぇ。あれって、どうやってんの?ウチもやりたいんだけど。」

「さぁ。機会があったら伺ったらよろしいかと思いますわよ。」

「じゃあ、放課後聞きに行こおっと。」


シチュワードを引ける要素がないのに、何故か巴先生の後を追うように引きづられて行くシチュワードに疑問を抱きながら見送った。



ー保健室ー


「問題ないですね。時期に目を覚ますと思うよ。」

「そうですか。」

「お友達ですか?優しいんですね。」

「友達じゃないですよ。たまたま場に居合わせただけです。」

「そうですか。」

「じゃあ、俺教室に戻るんで失礼します。」


穏やかそうな保健室の先生に任せ去ろうとした時、勢いよく保健室の扉が開く。


「戻らんでいいぞ。」

「先生。」

「叶ちゃん戻るの早かったねぇ。もう終わったのかい?」

「当たり前だ。」

「流石だねぇ。爺さんも鼻が高い。」

「血縁なのか?」

「違う。同じ異邦人で同郷ってだけだ。」

「ふぁふぁふぁ。」

「爺。おかわりだ。淹れといてくれ。」

「はいよ。よっこいせ。」


重い腰を上げ湯を沸かしに行く。その空いた席に巴先生が座る。


「叶ちゃん。お菓子はいるかい?」

「任せる。」

「はいよ。」

「仲いいですね。」

「普通だ。私は少し驚いている。」

「..。」

「お前が率先して人助けした事にだ。入学した時には、人と関わらない様避けていたように見えた。だが、この短期間で考えが変わっていき今はこれだ。変化というより別人を見ているようだ。」

「今も変わってないですよ。できれば人とは関わりたくありません。ですが、するしかないでしょう。運命を変えるには。」

「...。まっ、そういう事にしておこう。」

「〜〜〜〜。」

「あれは?」

「ん?また、騒ぎをされてはかなわんからな。連れてきた。」


必死に訴えかける生徒を見下ろす。


「離さないんですか?」

「「!」」

「..。ハッハッハ。」


突然笑いだす巴先生に驚くと同時に、ベッドで寝ていた女子生徒が動いた音が聞こえた。


「そうか。そうか。お前には'見える'のか。波長が合うらしい。それもそうか。」

「これは、驚きですねぇ。はい、どうぞ。君も飲んでいきなさい。」

「ありがとうございます。」

「どれどれ、わしは彼女を見るかな。」


爺さんは、カーテンの中に入って行き女子生徒と話す声が聞こえた。どうやら意識が戻ったらしい。


「ヴィトニルくん。君にはシチュワードくんと闘ってもらう。」

「は?」

「〜⁉︎」

「これは、決定事項だ。」

「なんで俺が」

「闘わなければならない。君達とCクラスの未来を思えばな。」

「わからないね。得するようにはみえない。」

「本音を曝け出せ。面白くないんだろ?こいつが。」

「サンドバッグにすると?」

「さぁ?どう捉えるかは、お前のすきにしろ。」

「叶ちゃん。命を軽く扱ってはいけないよ。」

「安心しろ爺。私はまともだ。最初にやったのはこいつだ。人の世を渡っていくには、命の有り難みを知らなくちゃならない。こいつには、それが欠けてやがる。」

「だから、彼にやらせると?ワシは反対じゃぞ。」

「爺には聞いてない。私が聞いているのはヴィトニル。お前だ。教師が教えるのは容易いが、1番効果があるのは同年代だ。」

「考え」

「ここで決めろ。私は気が長くない。」

「..。やります。」

「決まりだな。おい!」


巴先生が、声をあげるとスーツ姿の男達が入ってくる。


「これから、ヴィトニル・シチュワードは闘技場地下で1日過ごしてもらう。明日の同刻、闘技場にて闘い雌雄を決める。敗者には、勝者の命を聞き入れる事とする!」


巴先生は高らかに宣言し一枚の用紙を出す。


「これは契約書だ。お前達が地下に入った時に渡す。名の横に血判をすること。いいな?」


俺とシチュワードは頷く。契約書には既に一つ血判されておりそこには、巴叶の名が記されていた。


立ち合い:巴 叶


原告:クリケット・シチュワード


被告:ブラック・インハート

代理:ハティフローズ・ヴィトニル


用紙の右上には、名前が記載されており下にはびっしりと文字が並んでいた。


面倒な事になったな。知らない奴の代理人って、笑えない話しだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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