ぼやき事務員に突如生まれた、金魚ビールの縁とざまぁ
「君とはもう付き合っていられない」
そう言ってA君は別れを切り出して去っていった。
……って、うぉい、婚約破棄ならぬ恋人放棄。いくらなんでも会社辞めた後に酷くないかい。せめて婚約まで行けよ。
五年勤めた会社の事務員の仕事を辞めて、結婚して幸せな家庭を築くはずだった私はどうやら騙されたらしい。
あのね、会社に私がいたんじゃ華がないってのはわかるよ。色恋沙汰の為に辞めさせる罠とか、簡単過ぎだよ私は。
まったくどこの異世界だよ――――見事に追放食らったんだ、ざまぁ展開至急求む!
「緊急クエストが発動しました」
妄想能力だけは止まらない。神様の試練もお腹いっぱいだ。
能力というか魅力があると、勘違いしていたよ。レールの敷かれたトロッコに乗って、私は沼にハマッたよ。
趣味じゃねー、行き先はガチの泥沼だよ。
円滑に退職を促す事に成功したA君は社長令嬢は無理だけど、部長の娘と結婚するんだそうな。
ウォぉぉ~誰かこいつらに天罰を。私のぼやきじゃ、火も起こせない。
今思い返すと、お昼にロジハラもどきの説教かます課長もグルだな。
会社嫌になって辞め待ちなのに、昼飯食うと嫌な事を忘れる能力のせいで埓があかないと思ったんだね。
もう焼け酒でも飲むしかなかった。居酒屋に開口一番入って、目についた金魚ビールと温泉たまごセットを頼む。
どうせ私には何もない。ヤケになりつつ今後を思い、一番安くお腹を満たせそうなビールとツマミを選んでしまう。
ツマミを摘みながら人生について考える。
「――――ナニコレうまぁ〜」
思わず声が出た。金魚ビールは荒んだ身と心に染み渡り、温泉たまごの味まで引き立てる。
「いい、飲みっぷりだね事務子さん」
金魚ビールの出資者とやらが、たまたま居酒屋にいたようだ。
試しに飲む呑兵衛はいたけれど、おかわりを頼む女は初めてだったみたいだ。
ヤケになった私は、身体の毒素を吐き出すように身の上話しをしていた。
「ほぅ、それなら是非ともウチの会社に来たまえ」
こうして私は金魚ビール工場の作業員に……ではなく、辞めた会社の親会社に務める事になった。
――――社長秘書として。
酔った勢いで契約書に判子は押したよ。でも私はただの地味な事務員だよ?
金魚ビールの胡散臭い謳い文句はマジだった。金星人のおすすめって、ひと昔前の電波かよって思って笑っていたのに。
あっ、ちゃんと元の会社とは縁を切りましたよ。
……あの会社は、誰一人金魚ビール頼まなかったそう。
お読みいただきありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
早くも十二作目となりました。短編なのですが連載脳のせいか、各作品の関連性や紐づけをしてしまいます。
この作品はフラれたけれど、ほんの少し見返し要素を入れました。ざまぁまではいかない、かな。
短編形式の読み切りになっているので、どこから読んでも大丈夫だと思います。他の話しが繋がるため、それぞれが伏線になっているかな〜って感じですね。悪い癖ですが、作品を読む上での楽しみの一つに捉えていただければと思います。
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