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バスター・マックス -魔筒(マジックシリンダー)使いの冒険者-

作者: Mr.ゴエモン

 思い付きで書いた短編です。

 連載中のと違って、1話が結構な長さになってます。

 ザッ!、ザッ!…

 日が暮れ、暗くなりつつある森の中、人間の足音が響き渡った。


 「はぁ〜、暗くなってきたな…今日はこの辺で野宿だな…」 


 人気ひとけのない森の中、1人歩く男がため息混じりに呟いた。

 男はランニングシューズに長ズボン、無地のシャツに薄手のフード付きジャンパーといった、森の中を歩くには少々裸婦な服装に、リュックサックを背負い、両手首にリストバンド、首にはチェーンネックレスをしている。

 が、そのチェーンネックレスの先には、アクセサリーの範疇を有に超えている大きさの筒が付いていた。その筒はビールジョッキ位の大きさをしている。この筒がなけれは、至って普通の若者らしい格好なのだが、筒の存在ゆえ変に目立っていた。

 辺りを見回し、手頃な木の下に足を運んだ。


 「この木の下がいいかな…」


 そう言うと彼は、辺りに無数に落ちている枯れ枝を集め、焚き火の用意をした。

 枯れ枝が集まると背負っていたリュックからサバイバルマッチを取り出し、近くの石にマッチの頭を擦り付け、火を付け枯れ枝の山に突っ込んだ。火はまたたく間に燃え上がった。

 焚き火の炎を眺めながら、男は同じくリュックから取り出したシートを敷き、その場に腰を下ろした。


 「地べたはやっぱ硬いな…まぁ、贅沢は言えないか…」


 それだけ呟くと、持っていた缶詰や干し肉などの携帯食料で簡単に夕食を済ませた。 

 簡単な夕食を済ませると、そのまま横になった。食べてすぐ横になると牛になる等と言われているが、1日中歩きっぱなしで疲れている彼は、そんなことお構いなしとばかりに、寝転がった。

 そして大きめのタオルを毛布代わりに、リュックを枕代わりにし、星をぼんやりと眺めながら目を閉じて、眠りについた。


 暫くして、焚き火の炎がかなり弱まった頃、彼に近づく者達がいた。その者達は、ネズミの頭をしているが、シルエットは人間に限りなく近い。そして、申し訳程度だが鎧や短剣を装備している。

 奴らは、Cランクの魔獣「鼠兵士(ラットソルジャー)」だ。


 この世界には、人間や普通の動物以外に、魔獣と呼ばれるモンスターが存在している。魔獣は危険度や強さに応じて、ランク付けがされている。基本的に下はEから始まり、上はSランクまである。世にはSSS(トリプルエス)ランクも存在するという伝説がある。鼠兵士(ラットソルジャー)は強さ的にはDランク程度だが、下級の魔獣の中では知能は高い方で、ネズミらしく繁殖力も高く、何より好物が人肉で特に、子供の肉を好むのである。単体では弱い分、それを補うように数をなして人間を襲う。大群を率いて、1つの村を一晩で滅ぼしたという記録も残されている。旅人が襲われ、命を落とすケースも少なくはない。なので、その危険度からCランクに認定されている。

 そんな。鼠兵士(ラットソルジャー)にとって、今目前にいる、1人寝ている旅人等は、奴らにとっては格好の獲物なのだ。


 「チュチュチュ!(獲物がいるぞ!)」

 「チューチュー!(呑気に寝てるな!)」

 「チュッチュ、チュー!(久々に、人間が食える!)」


 なんて会話をしているのだろう。

 奴らの目には、彼は食糧としてでしか見えていない。

 しかし、相手が悪かった。それを奴らが理解するのは、もう間もなくだ。

 

 鼠兵士(ラットソルジャー)の一体が、短剣を構えて寝ている男に近づいた。獲物まで後数歩。というところで、


 バッ‼


 毛布代わりのタオルが勢いよく宙に舞い上がった。

 突然の事に驚く鼠兵士(ラットソルジャー)。空高く舞い上がったタオルに視線が行っている最中、寝ていた男が


 「頂き!とでも、思ったかネズミ共⁉」


 男に近いていた鼠兵士(ラットソルジャー)が男に視線をやると、男は首から下げていた筒を右腕に嵌めていた。そして、それを鼠兵士(ラットソルジャー)に向けた。

 そして、腕に嵌められた筒の先から光の玉が放たれた。光の玉は鼠兵士(ラットソルジャー)の頭部に命中すると鼠兵士(ラットソルジャー)の頭を容易く吹き飛ばした。


 「ヂュヂュ‼」


 離れた所でその光景を見て驚く鼠兵士(ラットソルジャー)を他所に、男は筒をそちらに向けた。

 死を感じて逃げ出す鼠兵士(ラットソルジャー)達。

 しかし、男は容赦なくかった。


 「逃がすか!」

 

 逃げる鼠兵士(ラットソルジャー)達にも、光の玉を撃ち込んだ。光の玉は鼠兵士(ラットソルジャー)達の体に風穴を開けた。

 そのまま崩れ落ちるように倒れる鼠兵士(ラットソルジャー)達。

 まもなく、最初の1体を皮切りに、鼠兵士(ラットソルジャー)の亡骸は塵となって消えていった。後には小さな石だけが残った。

 魔獣は死ぬとまもなく肉体は塵と化し、魔石というものだけが残るのだ。


 「俺のことを殺そうとしたんだ。返り討ちにあっても文句は無いよな⁉」


 そう言うと魔石を回収した。

 魔石は町にある専用の施設で換金出来る。倒した魔獣や大きさによって値段はまちまちだが、Cランク魔獣の鼠兵士(ラットソルジャー)なら、ソコソコの値段になる。

 魔獣を退治し、魔石を集めて生計を立てている冒険者もいる。


 「他には…居ないみたいだな…ふぁ~!」


 そういうや彼は集めた魔石をジャンパーのポケットに入れ、再び横になった。少ししたら寝息をたて始めた。


 彼の名は「マックス・ウォルガードン」冒険者だ。

 魔獣退治もするが、それ専門ではない。

 初歩のクエストである薬草採取から、人探し・用心棒(真っ当な商人等の)・そして魔獣退治等、冒険者として様々なクエストを受けている。

 クエストを受けてこなした後、報酬を手にすると暫く自由気ままに過ごし、金が無くなったらまた新しくクエストを受ける。また1つの場所にとどまらず、アチコチ場所を転々としている。「風の吹くまま気の向くまま」が彼の心情。そんな風来坊の様な生き方をしている。

 それがマックスという冒険者だ。

 翌日、彼は町に着くとそのまま冒険者ギルドへと足を運んだ。昨夜の魔石を換金するためだ。


 「ようこそギルドへ!」


 受付嬢が某ファーストフード店よろしく、笑顔スマイルでマックスの対応をした。マックスは魔石の換金を申し込んだ。


 「魔石の換金ですね⁉それでは冒険者ライセンスはお持ちですか?」


 冒険者ライセンスは、冒険者の証であり、身分証明書にもなる。専門の施設で、計2日の講習を受ければ、余っ程大きな犯罪歴でもない限り、年齢・性別・出身・学歴等は問わず、誰でも取得できる。紛失しても再発行可(有料)。換金の際は冒険者ライセンスの提示を求められる。ライセンスが無くとも換金は可能だが、その場合、値は3割程まで下がってしまう。

 マックスはジャンパーの胸ポケットからライセンスを出し、すっとカウンターに差し出した。


 「ありがとうございます!では拝見しま…!マックス!あなたがマックス・ウォルガードンさんですか⁉」


 受付嬢が思わず大声を出した。おかげでマックスは、ギルド内中で注目を浴びた。


 「大声出さないでくれよ…目立つのは好きじゃないんだ…」

 「あっ、しっ、失礼しました‼」


 慌てて頭を下げ、謝罪する受付嬢。

 周りでは、


 「マックスって、あのマックスか⁉」

 「首からでっかい筒を吊り下げてるところを見ると、間違いないみたいだな!」

 「へーアイツが「()()()()()()()()()」か…意外と見た目は普通だな…」


 等と周りが話している。

 そうマックスは、冒険者としては結構名の知れた人物なのだ。


 一部では「バスター・マックス」と呼ばれている。


 その後は、スムーズに進み、換金は完了した。用が済んだのでマックスはギルドを出ようとした。が、別のギルド職員が話しかけてきた。


 「すみませんマックス様!少々お時間宜しいでしょうか⁉」

 「ん、何か用か⁉俺は飯食いに行きたいんだが…」

 「申し訳ございません、ギルドマスターが貴方様にお話があるそうで…」

 「ギルドマスターが…」


 面倒だが、相手がギルドマスターとなれば無碍にも出来ないので、マックスは聞き入れた。

 そして応接室に通され、ギルドマスターと対面した。


 「やあ始めましてマックス君!ワシが当ギルドのマスターのウリエルだ!まぁとりあえず、茶と茶菓子だ!遠慮なく食べてくれ!」


 ウリエルという初老の男性のギルドマスターは茶と茶菓子でマックスをもてなした。

 マックスは茶と茶菓子を軽く頂いた後、


 「で、ご要件はなんですか?」


 本題に入った。


 「うむ、用というのはだな…」


 マスターの話を単刀直入に言うと、マックスにこのギルドの専属冒険者にならないかというものだった。

 基本的に冒険者は、冒険者ライセンスを取得すれば世界中何処でも活動できる。しかし、1つのギルド専属の冒険者になるというシステムも存在する。専属になると、契約中はそのギルドの管轄内に滞在しなければならず、他のギルドでクエストを受けられない。が、その代わりに、その人物に適任のクエストを向こうから持ってきてくれ、面倒な手続き等もギルドがしてくれるのだ。

 クエスト達成率が良ければ、ギルドは本部からボーナスが出る上、有名な冒険者が居れば、それだけでギルドに箔が付く。なので、各ギルドは有名な冒険者に専属契約を申し込むことが多いのだ。

 今もマックスに白羽の矢が立ち、勧誘を受けている。しかし、マックスは、


 「お断りします!」


 一切迷うことなく、拒否した。ギルドマスターが理由を聞くと、


 「俺は1箇所に留まっていられない達なんです!自由の風にふかれていたいもんで…」


 と言った。それでもマスターは食い下がった。更なる好条件を付け加えた。が、マックスが首を縦に降ることはなかった。

 最後はマスターも諦め、「御足労願った」と言い見送った。ギルドを後にしたマックス。


 「(ギルドマスターには悪いけど、俺は1つの場所に縛られるのは御免なんだ。そう、()()()()みたいに…)」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「まっ、間違えた‼」

 「はっ、ハイ…」


 かつて地球で普通の人間だった俺。そんな俺の目の前で土下座している少女がいた。

 いや、正確に言うと彼女は人間ではない。幼い成りをしてはいるが、彼女は神なのだ。そしてここは地上ではない、天界だ。

 傍から見たら俺が幼い少女を強引に土下座させている様に見えかねない。一先ず、神だという彼女を起きあがらせた。


 「順を追って説明してくれ!今俺を間違えて死なせてしまったって、言ったよな⁉」

 「話せば長くなりますが、よろしいですか?」

 「長くなっても良い、話してくれ!」

 「わかりました…」


 彼女はことのあらましを話しだした。

 その話に俺の記憶を合わせて纏めるとこうなる。


 早くに両親を2人共失い、兄弟も居なかった俺は高卒で町の工場で金属加工の仕事をしていた。毎日汗水流し働いていた。ブラックと言う程ではないが、仕事はきつく、給料もそんなに良くなかった。が、周りの人間関係は良好で居心地はまぁまぁよかった。 

 ところが、何時もの様に昼休みの最中、俺は突然意識を失った。本当に何の前触れもなく、突然だ。いきなり視界がブラックアウトし、気付いたら天界に来ていた。

 なんと俺は死んでしまったのだ。わけが分からなかった。特に持病もなかったし、かと言って過労死するほど過酷な労働をしていたわけでも、事故に遭ったのでもない。

 突然のことに頭を悩ませていた。

 そこへ、先程の神だという彼女が血相変えて飛んで来た。


 彼女の話によると、天界には「命のロウソク」なるものがある。一見普通の火のついたロウソクだが、それが人間一人一人の寿命を表しており、その火が消えるとその人間の命も尽きるのだとか。漫画とかで偶にあるやつだ。昔話にもそんなのあったけど、本当にあるとは…天界ではそれを管理していて、死を迎える予定の人間の火を、定められた時に消すのだが、あろうことか、別人と間違えて俺のロウソクの火を消してしまったのだという。それが俺が突然死んだ真相だ。


 「何だってそんな間違いが…」

 「ハイ…それが…」


 彼女の話によると、何でもその日、ロウソクの火を消す役目を担った者がとんでもなくスボラでいい加減で、よく確かめもせずに火を消してしまった。それがたまたま俺のロウソクだった。本来はその近くにある高齢の老人の火を消す予定だったとか…

 死亡したはずの人間がまだこっちに来ていないのに気付き調査した、その結果間違いが発覚し、天界はそれはもう大騒ぎになったのだという。

 

 「何だってそんないい加減なヤツに…」

 「間違いが発覚し、その者は上層の手で厳しく処罰されました。しかし、あなたは…」

 「いや間違いが分かったんなら、すぐに何かしらの対処はできたんじゃないのか⁉」

 「えぇ、一定時間内なら蘇生は可能です。ですが、あなたは原因不明の突然死だったので、ご遺体は病院で徹底的に解剖され検死が行われました。」

 「そりゃそうか、いきなり人が死んだら、警察も事件の可能性を視野に入れるだろうし…」

 「ご遺体がその状態だと、生き返らせられないのです…そして、解剖が終わった頃には、生き返らせられる制限時間を過ぎてしまっていたのです…」

 「……」


 俺はなんと言っていいのか分からなかった。

 そんな理由で、人生を終了することになるなんて…


 「で、それで俺はどうすればいいんだ?このまま天国か地獄に行けばいいのかな?」

 「そうですね…生前あなたは特に悪い行いをしておりませんので、天国に来てもらって構いませんし、別の生命として生まれ変わるのもありです。その場合、全ての記憶等はリセットされますし、何に生まれ変わるかは運次第(ランダム)です。ですが、今回はコチラの過失なので特別に、お望みであれば、別の世界に記憶を保持したまま、転生も可能です!」

 「転生!俗に言う異世界転生ってやつか‼」

 「えぇ、確か地上では、そういった類の物語が人気でしたね⁉平たく言えばそれです。そうですね…今ですと、モンスターや魔法等が存在するタイプの世界、いわゆるファンタジーの世界への転生となります。」


 神は何処からか本のような物を出して、中を確認した。


 「今?」

 「ハイ、詳しくはお教え出来かねますが、その世界のバランスを保つため、魂を送れる時と送れない時があるんです。それで、今送れるのがその世界です。他には科学が異様に発達した世界や、カードゲームが世界的な1つの文化となった世界などです。」


 異世界転生なんて作り話の中だけだと思ってたけど、実際にあるとは夢にも思わなかった。てか、最後のカードゲームが世界的な文化になった世界って、遊○○の世界みたいなのだろうか?   


 「あぁ、ですが私の力ですと、それらの話のように、チートでしたっけ?それ程の力を得るのは無理です。せいぜい一般的な人達より少し強い程度です…」

 「力ね…」

 「ハイ、実は私…神と言っても成り立ての新人でして、大した力を持ってないんです…」

 「成り立て⁉」

 「えぇ、内容はトップシークレットなのでお教えできませんが、天界の者はある条件を満たすと神になれるんです。で、私は最近その条件を満たし、神になったのです。」


 最近と言っても、天界の感覚で地上での約十年前に値するとのことだ。

 因みに天界における神は数十柱おり、それぞれ生命を管理する者、農作物の神、天候を管理する神等、様々でその頂点には、神王なる存在がいるらしいが、滅多にお目にかかれないとのこと。

 で、彼女は生命を管理する神の末端に属しているらしいが、今回の間違いが発生し、俺に説明と謝罪する役目を一任されたのだとか…


 「それでさっき飛んできたのか…」 

 「ハイ…私、新米の本当に下っ端なので、こんな嫌な役目…いえ、クレーム処理等を押し付けられるんです…私って、昔から何時も何時も貧乏くじを引かされる嫌な性分なんです…」

 「……」


 涙目の彼女を見てたら哀れになった。神様にも上下関係だの、役回りとかあるんだな…

 アレコレと文句を言う気にならなくなった。

 逆に彼女を同情したくなって来た…


 「分かったよ。済んだことは仕方ないし、そのファンタジーの世界に行くよ俺!」


 彼女はぱっと顔を明るくした。


 「宜しいのですか?」

 「構わないよ。規格外の力なんて持ってたら、目立つし変なやつに目をつけられない。あまつさえ、持て余して事故でも起こしても、責任負いかねないからな!」

 「かしこまりました!それでは、希望があればおっしゃってください。剣もしくは、魔法が得意な人になりたいとか…勿論、その世界の人間の能力範囲内でですが、できる限りご希望に答えられるように努力します!」

 「あぁ、そうだな…」

  

 俺は彼女と色々と時間をかけて話し合い、向こうでの俺という人間(冒険者)としてのコンセプトを決めた。


 「本当にこれで宜しいのですか?少々特殊ですが…」

 「ああ、どうせなら、少し変わってる方が面白いからね!」

 「解りました、ではこの設定でやらせてもらいます!」


 そう言うと彼女は小声でブツブツ言い始めた。

 少しすると一瞬彼女が、凄まじく光った。


 「ふ~、処理ができました。何とかあなたの、ご希望に答えられました!」

 「そりゃ良かった!」


 一先ず、希望は通ったみたいだ。


 「では早速、転生に入らせてもらいます!」

 

 彼女が何もない所に手をかざすと、そこに穴が空き、向こう側に見知らぬ世界が広がっていた。そこが俺が転生する世界なのだろう。


 「ではこの穴にお入りください。それで転生完了です!」

 「わかった。短い間だけど世話になったな!」

 「いいえ、本当にこちらの不手際ですので…」

 「もういいって…あっそうだ、最後にアンタの名前教えてくれないかな⁉」

 「私のですか?幸子(さちこ)で…いぇ、今は天界(ここ)ではフィーナと呼ばれてます!」

 「幸…いやフィーナか、いい名前だ!(今確かに幸子って言ったよな…元は日本人だったのか…そういやよく見たら日本人らしい顔立ちだな…)」

 「……」


 少し恥ずかしそうな彼女を他所に、俺は穴に片足を入れてから振り返った。


 「それじゃあ、行ってくるよ!」

 「ハイ、よい異世界生活を送ってください。天界ここから見守ってますので!」


 彼女(フィーナ)に見送られ、俺は異世界に転生した。

 至って普通の家に産まれ、マックスと名付けられ、すくすくと成長していった。それからいく歳月が経った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 チュドーン‼……


 とある山奥に爆音が響き渡った。山奥ながらその辺りは草木一本生えていない。岩肌が目立っていた。


 「よし!ファイヤードカリ撃破!」


 ファイヤードカリ。その名の通り、巻き貝でなく炎に宿るヤドカリ。高温の炎で身を守り、鋭い2本のハサミで獲物を切り刻むAランクの魔獣だ。最近この山に住み着いて、行き交う人々を襲っているので、ギルドから討伐クエストが出ていたが、今しがたマックスによって討伐されたのだった。倒され、魔石へと姿を変えたファイヤードカリ。炎を纏っていた為、熱のこもった魔石を空いた左手で拾ったマックス。()()()()()()()()()()()()


 「討伐完了!って…ヒビ入っちまってるよ…威力が強ずきたかな…」


 魔石はヒビや傷が入っていると、若干値が下がるのだ。


 「…まっいっか…」


 文句言っても仕方ないと、すぐに気を取り直したマックスは、魔石を仕舞い右手にはめていた筒を外し、チェーンネックレスで首から下げると、歩きだした。

 

 「さてと、どっちに行くか…これで決めっか!」


 マックスは、足元の草を軽く摘み取り、目の前に撒いた。撒かれた草は、風にのって流された。

 ゴルファーが風向きを確かめるの時にやるやつだ。


 「よし、コッチだ!」


 草が流された方へと歩き出すマックスであった。

 そんな決め方で良いのか?とツッコミたくなるかもしれないが、コレが彼のやり方なのだ。前世で仕事に明け暮れた面白みのない生活をし、天界のミスで早死した。そして異世界に生まれ変わった彼は、自由気ままに生きる事を決めた。悪事はせず、晴耕雨読の如く、「風の吹くまま気の向くまま」を信条に生きているのだ。


 そんな彼の武器の名は、魔筒マジックシリンダー。マックスの魔力を魔力弾やビームに変換して放し、敵を殲滅する。魔力を込めれば込めるほど、威力は倍増する。天界で新米の神と相談した末、出来たのがこれである。

 この世界でマックスだけが所持し、彼だけが扱える唯一無二の武器だ。


 因みに元ネタは、未来から来た猫型ロボの道具及び、某ゲームの青い人型ロボの主人公の武器ウェポンである。最初は、某漫画の主人公みたく、片腕をサイコガンにと思ったが、色々と考えて末に止めといた。

 そんな魔筒マジックシリンダーを相棒に、冒険者としてこの世界を旅している。


 少し歩くと道脇から、1人の少年が飛び出してきた。着古した感じの服を着ている。そしてマックスにナイフを向けてきた。


 「何だお前は?自分が何してるか理解してるのか?」

 「うるさい!大人しく、その首から下げてんのを渡せ!」


 どうやら目当ては金や食料でもなく、魔筒(マジックシリンダー)の方らしい。


 「…もしかして、さっきファイヤードカリを退治した時、見てたのお前か?」

 「!!気づいてたのか⁉」

 「まぁな…」


 先程、マックスが後方を気にしていたのは、誰かの視線を感じたからだ。背中を預ける者のいないソロ冒険者は、人一倍、気配に対して敏感なのだ。


 「はぁ~(面倒事はゴメンなんだが…)」


 ため息を付きながら、そう思うマックス。

 金や食料で済むのなら、寄付したと思って大人しく出しても良かったが、そうでもないと面倒なことになる。はてさて、どうしたものかとマックスが考えていると、


 「やめなさい、オトー!」

 「姉ちゃん!」

 「姉ちゃん⁉姉弟か⁉」


 声の方には、同じく着古した感じの服を着てた少年より、少し年上の感じの少女がいた。


 「申し訳ありません!この子が無礼を…」


 頭を下げ、謝罪する少女。


 「何してんだよ姉ちゃん!姉ちゃんが頭下げる必要なんて…」

 「何言ってるの!人にこんな物突き付けて!」


 と、ナイフを取り上げた。


 「でも…」 


 グーーッ‼


 と、その直後に少年の腹の虫が鳴り出した。どうやら空腹みたいだ。マックスはリュックから適当に食べ物を取り出した。


 「食うか?」


 と言って差し出すやいなや、少年は素早く食べ物を奪い取るように取り、ガツガツ食べた。


 「もうオトーったら…すみません、ご迷惑かけた上に食べ物まで…」

 「いいよ、気にすんな!」

 「近くに私達の村がありますので、宜しければ寄って行って下さい。何もありませんが、水で飲んでいってください!」


 世紀末の世界が舞台の漫画で、種籾タネもみを集めてたジイさんのようなセリフを言う少女。


 「そうだな…」


 気付けば日が暮れてきた。今晩の寝床も決まってない。


 「それじゃあ、お言葉に甘えて…」


 彼女達の村に寄ることにした。

 少し歩くと随分と寂れた村に着いた。案内されて彼女の家にお邪魔した。


 「どうぞ!」

 「ありがとう!」


 本当に水を出された。入れてあるコップは少々薄汚れているが、水はキリッと冷えていた。


 「よろしければ、これもどうぞ…」

 「これは…」


 同じ様に薄汚れた皿には、野菜の切り身が乗っていた。

 試しに一欠片(ひとかけら)口に入れる。


 「御口に合いませんか…!」  

 「いやイケるぞ!」


 と言いながらマックスは、コリコリといい音を立てながらそれを摘んだ。

それは、この村の近くでのみ生えている植物の実を発酵させた物に、野菜を一定期間埋めて作るもので、「ヌルカ」と呼ばれている郷土料理の様なものだ。


「(この食感と独特の臭い…)」


 それは、日本のぬか漬けに瓜二つだったのだ。

 

 「(白い飯と緑茶が欲しくなる…)」

 「御口にあって幸いです。匂いが強いのでどうしても好みが別れてしまいますので…私は好きなんですが、オトーは…」

 「だろうな、でも俺は好きだぜ!」


 その後も、ヌルカをつまみながら彼女の話を聞いた。

 彼女の名前はアネール。さっき俺にナイフを突き付けた子供こと、オトーとは姉弟だ。

 両親は病気で2人共他界。名前は父親がパパール、母親がマーマンとのこと。

 

 「(姉がアネールで、弟がオトー、で両親がパパールとマーマンか…そのまんまの名前だな…)」


 と、余計な世話な感想を懐きながら、話を聞いた。

 両親を亡くした2人は、この貧しい村で他の村人と助け合いながら暮らして来た。そんなある日、オトーの友達の少女が病気になってしまった。高熱と頭痛が主な症状だ。

 なけなしの金で医者に診てもらうも、かなりたちの悪い病気で、感染力こそ低い反面、回復魔法は一切受け付けず、治すには危険な魔獣がうようよいる場所にのみ生えるという、貴重な薬草が必要らしい。貴重な薬草が故に、市場に出ることはかなりのレアケースで、出たとしても目玉が飛び出るほどの金がいるらしい……


 「貴重な薬草でしか直せない病にか…まだ幼いのに、かわいそうにな…」

 「……」


 シーンと静まり返った。


 「で、それがまたなんだって、俺の魔筒(マジックシリンダー)を奪おうって話になるんだ?」

 「それは…」


 オトーの話を纏めると、その薬草をオトー自身で取りに行こうとしている。で、魔筒(マジックシリンダー)は、そこにいる魔獣と戦うの時に使うつもりだとか。ファイヤードカリとの戦いを観ていて、コレさえあればと思ったとか。


 「成る程な…しかしだ、生憎だか魔筒(これ)は俺専用だ。俺以外の人間には使えないんだ!」

 「そうなのかよ…」


 落胆するオトー。

 その顔を見たマックスは「このまま放ってはおけない」と感じた。


 「…オトー、その子に合わせてくれないか?」

 「合ってどうすんだよ?」

 「なんか気になってな、駄目ならいいが…」


 オトーはその子に合わせてくれた。因みに、オトーの友達の名前はリアルナだ。

 病気は空気感染はせず、皮膚に直接触れさえしなければ、感染しないらしい。それが唯一の救いだった。

 リアルナは現在、解熱鎮痛薬を飲んで、何とか保っている状態らしい。

 リアルナの家では、彼女の母親が皮膚に触れないよう、注意を払いながらせっせと看病していた。父親の方は、近くの町で労働をしており、朝早く出かけて夜まで帰ってこないとか。

 そうしないと、リアルナの薬代を賄えないのだ。


 「おばさん、リアルナの様子は?」

 「あらオトーくん…変わりなしだよ…」


 看病で疲れ、母親も顔色が良くない。

 オトーに紹介されたマックスは、リアルナの様子を見せてもらった。念の為、離れてだ。

 頭に濡れタオルを乗せた少女が、横になっている。濡れタオルて顔はよく見えないが、苦しそうにしているのが、離れていてもよくわかった。


 「……」


 マックスは苦しむ彼女を見て心を痛めていた。とはいえ、薬草の生えている場所はかなり危険なところだ。マックスもその場所の噂は聞いたことがあるが、それなりに腕のたつマックスでも、無事な保証はない。

 しかし、聞く限りリアルナの症状は日に日に悪くなってきているらしい。頼みの綱の解熱鎮痛薬も、耐性が出来てしまったのか、最近効き目が悪くなっているという。

 

 「…」


 再びリアルナを覗き見るマックス。その時、顔を動かしたので、乗せていた濡れタオルが落ちた。そして、彼女の顔がハッキリと見えた。


 「‼」


 リアルナの顔を見てマックスは目を見開いた。

 その瞬間、マックスの決心は固まった。


 「オトー!」

 「何だよ?」

 「その薬草の生えている場所、教えてくれ!採ってくる!」

 「エッ!」


 狐につままれたような顔をするオトー。


 「本気か⁉」

 「ああ、嘘冗談でこんな事言わねーよ。但しだ、無論ダダって訳にはいかないが…」

 「やっぱそうか…いくらだ?」

 「あぁ、いや、それに関しては、お前じゃなくて、お前のねーちゃんにだな…」

 「えっ、私ですか⁉」

 「ああそうだな…取り敢えず10ってとこかな…」

 

 マックスは人差し指を立てて見せた。


 「そんな、この村に金貨10枚なんて大金は…」 

 「違う違う!そうじゃなくて、ヌルカ10本だ!」

 「えっ…」


 今度はアネールが狐につままれ様な顔をした。


 「ヌルカ10本…そんなんでいいんですか?」

 「ああ、出せるか?」

 「リアルナちゃんを助けてくれるんなら、いくらでも作りますが…本当に…」

 「勿論、男に二言はない!」

 「…分かりました、お願いしますマックスさん!」

 「よし、交渉成立だ!」

 

 まさかの対価に信じられないといった顔をする姉弟。

 かくしてマックスは、ヌルカ10本を約束に、薬草採取の依頼を受けたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「あの山に薬草があるんだな⁉」

 「あぁ…あの山の山頂だよ!この辺では、あそこにしか生えないらしいんだ…」

 「そうか…しっかしまぁ、よりにもよってあんなトコかよ…」


 マックスはオトーに案内され、例の薬草の生える山の近くまで来た。

 そして、肝心の山というのがこれまた異様なものだった。山自体は普通の形たが、問題はその周辺だ。その山は、ぐるりと一周、周り全てが険しい崖になっていた。そう、山は周りの森とその崖で孤立しており、文字通り陸の孤島と化していた。


 「まあいい、オトー、案内はここ迄でいい。気を付けて先に返ってな!」

 「本当に大丈夫なのかよ⁉あの崖、無茶苦茶険しいぞ!」

 「大丈夫だ。コレを使えばな!」


 不安顔のオトーを余所に、マックスは懐から魔石を取り出した。


 「魔石か⁉」

 「あぁ、ただし、そんじょそこらの魔獣の物じゃない!「嵐鬼龍(らんきりゅう)」別名「龍巻鬼(たつまき)」と呼ばれる魔獣の魔石だ!」


 嵐鬼龍、別名 龍巻鬼。それはマックスがかつて退治したAランクの魔獣だ。

 自身を中心に竜巻が発生しているかのように、周りに強風が発生しており、鬼と龍を合わせたような姿をした凶獣である。

 1体で、国を壊滅寸前にまで追いやった記録が、残っているくらいだ。


 「嵐鬼龍…聞いたことあっぞ!町という町を荒らしまくった、兎に角、超凶暴な魔獣だって噂だ。」

 「そうだ!話すと長くなっから、詳しくは省くが、過去に戦ったことあってな!苦労したが、何とか討伐したんだ!」

 「スゲー!でも、その魔獣の魔石がどうした?」

 「それは…」


 マックスは嵐鬼龍の魔石を、腕にはめた魔筒(マジックシリンダー)の口に放り込んだ。すると、口の中が光った。


 「これでよし!オトー、そんじゃあ行ってくるぜ!もう1度言うが、気を付けて帰れよ‼」

 「えっ、行くって?…」


 するとマックスは、魔筒(マジックシリンダー)を地面に向けた。すると、魔筒(マジックシリンダー)の口から竜巻が出てきた。マックスは、出てきた竜巻の勢いで、そのまま山に飛んでいった。

 それは打ち上げられたロケットのようだった。


 「…⁉…」


 跡には、呆気にとられたオトーだけが残された。

一方のマックスはというと。


 「到着っと!」


 山の7合目辺りに着陸した。そして、魔筒(マジックシリンダー)から、先程入れた魔石を取り出した。その魔石は、さっきまでと比べると、溶けた氷のごとく、半分ほどの大きさになっていた。

 魔筒(マジックシリンダー)は何も、魔力弾やビームを出すだけじゃない。

 これが、魔筒(マジックシリンダー)のもう1つの機能(能力)だ。魔筒(マジックシリンダー)に魔石を入れると、元となった魔獣の能力をつかえるのだ。例えば、炎を吐く魔獣の魔石を入れれば炎を出せるし、水を操る魔獣の魔石を入れれば水を出せる!といった具合だ(魔獣の種類にもよる)。

 但し、無限に使えるわけではない。入れた魔石は、力を使うと共に氷の如く小さくなっていき、やがて消えてなくなってしまう。

 魔石の大きさにもよるが、時間は限られているのだ。


 「帰りの分を考えて、節約しとかないとな…」


 小さくなった魔石を締まい、残りは徒歩となった。

 全く舗装されていない山道を山頂目指して歩くマックス。少し歩くと、大量の魔獣以外の、生き物の死骸が散らばっていた。


 「コレは…」


 多種多様の虫や爬虫類の肉片がアチラコチラに散らばっている。


 「虫に爬虫類…まさか…」


 次の瞬間、マックスの元に、巨大な全身毛むくじゃらの魔獣が現れた。


 「ゲテモノノケ!やっぱコイツか…それに俺の感が正しければ…」


 Bランク魔獣ゲテモノノケ。全身毛むくじゃらで巨大な犬の様な姿。鋭い複数の歯が並んだ口から、長い舌を伸ばし自由自在に動かし、虫や爬虫類を捕まえて捕食する。人が下手物(ゲテモノ)と呼ぶ物を好んで食べることからこの名がついたという。

 好物のゲテモノを食べてご満悦な様子のゲテモノノケ。

 が、近くのマックスに気付くと、その長い舌をに向けた。


 「!やな予感が当たったな…コイツそっち系か…」


 名前通り、下手物が好物のゲテモノノケは基本的に、人間は食べない。

 が偶に、間違って人間を食べてしまい、人間の肉の味を覚えてしまったが為に、人間も襲うようになるケースがある。 

 今マックスの眼前にいるのは後者だ。経緯は判らないが、過去に人間を食べた経験があるらしく、マックスを獲物と認識したのだ。

 ゲテモノノケの舌が、マックスに襲いかかる。


 「やるしかねーみたいだな‼」


 魔筒(マジックシリンダー)を装着し、戦闘を開始するマックス。


 「だりゃー‼」


 山中に、けたたましい音が響き渡った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

 「着いた…山頂だ…」


 ゲテモノノケとの死闘を制し、山頂までたどり着いたマックス。ゲテモノノケはなかなか手強かったが、ファイヤードカリの魔石を使って放った、火炎放射が決め手となった。おかげで、ファイヤードカリの魔石は無くなってしまったが。

 休みたいところだが、リアルナの為の早く薬草を探さないと。


 「つっても、そう簡単には…って、あった!」


 薬草はすぐに見つかった。


 「こんなにすぐ見つかるとは、漫画みたいに都合いいな…まっいいか!早速、採取しよう!」


 薬草の元に向かうマックス。

 しかし、


 「待て!」

 「⁉誰だ⁉」


 突如、自分でない声がした。困惑するマックスを尻目に、ヤツは現れた。

 Sランク魔獣、ゴリライオン。ゴリラの体にライオンの頭と、器用に動く長くて太い尻尾を持った大型魔獣だ。しかも、言葉を発している。

 知能の高い魔獣の中には、人間の言語を話すことが出来る個体もいる。


 「ゴリライオンか…その巨体から繰り出される強さもそうだが、知能の高さもあって、Sランクに定められてる魔獣か…」

 「ふっ人間よ!この薬草は渡せんな、人間の小娘は諦めろ!」

 「!なぜそれを⁉」

 「コイツさ!」

 「キキキ!初めまして、なーんてねキキキ!」


 ゴリライオンの横には、魔術師のような姿の猿がいた。

 

 「ソイツはシャーマンドリルか⁉呪術を得意とし、未来を予知したりも出来ると言われている…」

 「そうだ!コイツが今日ここに、薬草目当てで人間、つまり貴様が来ると予見したのよう!」

 「俺の事等を知ってるのは理解した。しかし、何だって薬草を守ろうとするんだ?」

 「フフフ、それはな…この薬草は貴様ら人間を引き付けるエサだからだ!」

 「エサだと⁉」

 「左様!」


 少々古風な言い回しの事は置いといて、ヤツの話から全てがわかった。

 

 リアルナが侵されている病気。それは、コイツ等が原因だったのだ。

 特定の山に生息するCランク魔獣「ヤマイノシシ」の背から生えるキノコ、「病茸びょうきのこ」。見た目は普通の食用のキノコと見分けはつかない。それを食べると様々な病気になる。

 で、その病茸にゴリライオンとシャーマンドリルが手を加え(現実世界で言うところの、品種改良にあたる)、たちの悪い病気に侵される物になった。それを食べると、リアルナを苦しめている病気になる。

 つまり、リアルナが病気になったのは、こいつ等の仕業だったのだ。

 そして、唯一それを直せるのが、例の薬草という訳だ。


 「オレは人肉が好物でな!薬草を餌に、薬草を求めてやって来た人間を喰う!と、いう訳だ!理解できたか人間?シンプルながらも、よくできたシステムだろう⁉」


 コイツは人間を呼ぶ為、定期的に病茸を何らかの方法で人間に食わせ、病気にしている。

 リアルナもその被害に遭ったって事か…


 「外道め‼」

 「何とでも言え‼ツー訳でだ…貴様も食ってやるぜ!」


 問答無用に襲いかかってくるゴリライオン。

 マックスは魔筒(マジックシリンダー)を腕にはめて、攻撃に移ろうとした。そこに、粘着物が飛んで来て、魔筒(マジックシリンダー)に張り付いた。


 「何だ!?」


 驚くマックス。

次の瞬間、魔筒(マジックシリンダー)は、そのまま、マックスの腕から離れていった。


 「よくやった九頭蜘蛛クズグモ!」


 ゴリライオンの視線の先には、巨大なクモの魔獣がいた。

 Bランク魔獣「九頭蜘蛛」。本来の位置だけでなく8本の脚にもそれぞれ頭がある蜘蛛型魔獣。例え1つや2つ、頭を失ったとしても、1つでも無事な頭があるのなら、生き続けることが出来るという、高い生命力を誇る魔獣(ヤツ)だ。

 その九頭蜘蛛が糸を吐き、マックスの魔筒(マジックシリンダー)を奪い取ったのだ。

 奪われた筒に目が行くマックス。

 その瞬間をゴリライオンは見逃さなかった。自慢の尻尾をマックスに巻き付けて捕まえた。


 「ぐっ‼」


 全身の殆どを尻尾で巻き付けら、苦痛の声を上げるマックス。


 「フフフ、作戦通り!知ってるぞ、貴様は筒が無ければ戦うすべがないそうだな⁉」

 「何故それを!?…シャーマンドリルか⁉」

 「キキキ!そうだよ、あたしだよ!」


 Aランク魔獣「シャーマンドリル」は、呪術や降霊術等を得意とし、未来を予言する事も出来る。

 今回も、マックスが薬草を採るために来ることだけでなく、マックス自身の情報も手に入れていた。

 シャーマンドリルからの情報で、知能の高いゴリライオンは、マックスもとい、魔筒(マジックシリンダー)対策として九頭蜘蛛を配備していたのだ。


 「キキキ、お告げにはこうあった。「冒険者マックス、その魔筒(マジックシリンダー)の力は厄介だが、それさえ無ければ、本人に戦う術は無し」とね‼」

 「…それはそれは、よく当たる占いだな…」

 「降霊術と言いな!」

 「ギャハハハハ!ツー訳で、貴様はここで終わりだ!安心しな、一欠片ひとかけらの骨も残さず食ってやる。貴様の全てが、俺様の血と肉なるのだ。ありがたくいただくぜ!」


 下品によだれを垂らしながら、舌をペロリとするゴリライオン。


 「全く、俺1人にココまでするか…」

 「フン!貴様等人間だって、手間ひまかけて料理するだろが?それと同じよ!」

 「違いない…かな…」


 尻尾で拘束されつつ、ゴリライオンと話すとマックス。話しながらも、尻尾の内側でゴソゴソと動いている。


 「1つ聞くが、例の病茸はお前らしか作れないのか?」

 「何だってこんな状況下で…まぁいい、冥土の土産ってやつだ!」


 ゴリライオンは話し始めた。


 「そうだ、正確に言えば、この山の病イノシシから生える種類のやつに、コイツの呪術を使って…」


 病茸の事を聞かれてないことまで、事細かに説明するゴリライオン。

 見かけによらずマメなのか、それとも単におしゃべりなのか…

 長々話したゴリライオン。顔には出してないが、側にいる側近のシャーマンドリルは片足をバタバタさせている。


 「さてと、無駄話はこのくらいで、そろそろいただくとしようか…」

 「……」

 「どうやら観念したようだな⁉では…」


 大きく広げた口に、尻尾でマックスを運ぶゴリライオン。

 それを見て後方では、シャーマンドリルが憎たらしげに、ニヤニヤしている。

 目撃者がいれば、「マックスが食われる!」と言うだろう。

 しかし、ゴリライオンの口まで後1m位となった時、マックスに巻き付く尻尾の隙間から僅かに光が漏れた。


 「⁉」


 その光に一瞬、意識が釘付けになったゴリライオン。次の瞬間、尻尾を突き破りビームが放たれた。

 放たれたビームは、ゴリライオンの尻尾を切断し、勢いそのまま、ゴリライオンの右肩ら辺を跡形もなく、消し飛ばしてしまった。


 「ギャ~〜~‼」


 突然の事態と、身体中を走る激痛に、けたたましい大声で悲鳴を上げるゴリライオン。


 「おっ、おっ俺の…腕…が…」


 失った箇所から、ドクドクと流れ出る血を残った手で抑えなが、もだえ苦しむゴリライオン。

 拘束から解放され、地面に着地するマックス。


 「ふ~やれやれ、お前が時間をかけて長々と話してくれたおかげで、エネルギーをフルチャージ出来たよ!」


 その光景に、シャーマンドリルは信じられないものを見たかのような顔をしている。


 「ば、バカな…お告げと違う…あたしの降霊術に間違いは…」

 「いいや、そのお告げ、間違ってはないぜ!魔筒(マジックシリンダー)が無ければ、俺は殆ど無力だ!」

 「だっ、だったら何で!…」

 「そう、()()()()な…」

 「‼」

 「そもそもだ、俺は一言たりとも、九頭蜘蛛に取られた()()()が、魔筒(マジックシリンダー)だとは言ってないぜ⁉」

 「⁉まさか…」

 「気付いたようだな⁉」


 シャーマンドリルは、マックスの両腕にしている()()()()()()が光っていることに気が付いた。


 そう、マックスの両腕のリストバンド。それこそが魔筒(マジックシリンダー)の本体なのだ。魔筒(マジックシリンダー)と思われていた筒は、リストバンドの光りを隠す事と、魔力の増幅器のようなものなのだ。

 マックスが魔筒(マジックシリンダー)をそのような仕組みにしてるのは、イザという時の切り札という名目だが、実際は面白さからである。


 「そっ、そんなバカな…」


 息も絶え絶えのゴリライオン。

 そんなゴリライオンにマックスは、真の魔筒(マジックシリンダー)を突き付けた。


 「せめてもの情けだ、今楽にしてやる!」


 ドン!


 マックスは魔力弾でゴリライオンに止めを刺した。

 跡には巨大な魔石だけが残っていた。


 「ボ、ボス…ひぃぃぃ〜!」


 ボスを失ったシャーマンドリルは逃げ出した。

 が、直後に頭に魔力弾が打ち込まれ、頭を跡形もなく消し飛ばした。

 それからマックスは、九頭蜘蛛も倒して、がわ魔筒(マジックシリンダー)を回収、そして本命の薬草を採取して下山した。

 残った嵐鬼龍の魔石を使い、一気に下山した。

 オトーと別れた地点に戻る頃には、力を使い切り、魔石は完全に消えてなくなっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「えっ、マックスさん行っちゃったの⁉」


 マックスが持ち帰った薬草のお陰で、リアルナの病は完治した。

 薬草が効き、熱は下がったが、それでも数日間は安静にしていたのだか、その間にマックスは旅立ってしまった。


 「あぁ、ねーちゃんから、約束のヌルカ10本を貰ってな!」

 「お礼言いたかったのに…」

 「俺も引き止めたんだけど、「俺は自由な風にふかれていたいから」って言ってな…あっ、お前には、よろしく言っといてくれってさ!」

 「……」


 残念がるリアルナ。

 すると、外が少々騒がしくなった。2人で外に出たると、オトーの姉、アネールが居たので話を聞くと、村長のもとに近くの町の冒険者ギルドから使者が来たらしい。

 そして、その使者が帰った後に聞くと、この村に高額の寄付金が送られたのだという。

 そしてその送り主は、マックスだという。


 どうやら今回の一件で、長らく出処不明の病気の正体が、Sランク魔獣「ゴリライオン」とその仲間の魔獣の仕業と判明。原因が分かり、対処法が検討された。

 おかげで多くの人が救われた。

 情報提供によりマックスには、多額の報奨金が送られたのだが、マックスはその金を全て、この貧しい村に寄付したのだ。

 報酬のヌルカ10本に加え、ゲテモノノケ・ゴリライオン・シャーマンドリル・九頭蜘蛛の魔石も手に入った。皆高位の魔物なので、魔石もいい値がつく。だから、いらないと言ったらしい。

 喜ぶ村人達。リアルナを救っただけでなく、多額の寄付金。村ではマックスを英雄と呼び、讃えられた。


 そんな当のマックス本人はというと…


 コリコリコリ!


 とある町の、冒険者ギルドの食堂で、報酬としてアネールから貰ったヌルカをお茶請けにして、美味そうに茶を飲んでいた。

 この町は、茶葉の栽培が盛んで、ギルドの食堂ではタダで茶が飲めるのだ。


 「はぁ~、思った通り、お茶請けにピッタリだぜヌルカ!」

 

 茶とヌルカを味わいながら口に運ぶマックス。


 「にしても…リアルナ、元気になって本当に良かったぜ!あの娘の苦しんでる顔、見てられなかったもんな…」

 

 マックスが危険を顧みず、しかもほぼ無報酬同然で薬草を獲りに行くと言い出した訳。

それは…


 あの時、タオルがずれ落ちてリアルナの顔が見えた。その顔を見てマックスは目を見開いた。


 彼女の顔は、マックスがこの世界に来る前、天界であった末端の神、フィーナそっくりだったのだ。

 その顔を見たマックスは、居ても立っても居られなくなったのだ。フィーナそっくりの少女が苦しむ姿を見て、意を決したという訳だ。


 「さてと、そろそろ…」


 ギルドの建物を出るとマックスは、オトー達の村の方を向いた。マックスは村を離れる前、アネールと、


 「またヌルカを貰いに来るぜ!」

 「いつ来られてもいいよう、常に作って用意しときます!」


 と、いった約束を交わしたのだった。

 それを思い返した後、再び旅立つマックス。

 近くに落ちていた落ち葉を使い、風向きを見て行く方向を決めた。


 「行くかな、風の吹くまま気の向くままに!」


風の吹くまま気の向くままに!を信条とする冒険者、マックス・ウォルガードン。

 彼は今日も、異世界を旅するのだった。


 -完-

 

 今後も思い付きで書いた短編をアップするつもりです!

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