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或る好事家のエッセイより『アヘ顔ダブルピースについて』

作者: キラ子

小生に喋れというところは、アへ顔ダブルピースはなぜそんなに尊いかということですので、言えるだけ申し上げてみたいと思います。


アへ顔ダブルピースの本質は、「自我の崩壊」であります。美しいお嬢さん方が、そのプライドであるところの美しささえ投げださずにいられない姿。その凄まじさが、美しいのです。それほど凄まじい快楽であると思うと、同じだけの快楽が背筋を伝ってどろりと流れ込んでくる錯覚さえ覚えます。そういう大変乙な楽しみであります。


最近諸検定、諸大会が著しく増え、小生も審査員として呼ばれ、参ります。

皆さんいずれもお奇麗なお嬢さんです。その点は大変結構です。

しかし私は狼狽しました。憤慨と言ってもいい。なっちゃいません。舐めている、と思いました。


手をピースにする。

口はoの字か、緩く微笑む。

場合によって舌を出す。唾液を出す。

「あへえ、いいの」と叫ぶ。

こんなのは「かたち」です。フォーマットです。児戯に等しい。

小生はかたちに興奮しているんじゃない。そんなのはただの変態じゃないか。涙が出る。


紋切型です。

皆、紋切っています。

点が欲しくて、アへ顔ダブルピースの「かたち」を取ります。何十何百何千の金太郎飴が目の前を流れ、視界を汚して通り過ぎていきます。金太郎飴のベルトコンベアーです。上手に白目を剥けないで、ペコちゃんのような媚態の金太郎飴なんかも流れてきます。「にせもの」の味が、口いっぱいに広がります。


叫びたくなる。

紋切ってるんじゃないよ。

そんなだからつまらないんだ。いつまで経っても古いんだ。

そんなもんじゃないでしょう。


小生が欲するところは、むき出しの情熱です。

忘我の境地です。



浅木ゆめという女優をご存じでしょうか。

今はもう閉店している、熱海の「蛸壺」というストリップ劇場で彼女が披露したアへ顔ダブルピースは、見事というほかありませんでした。この世のありとあらゆる至上の快楽を一身に享受しているかのような、幸福そのものの、しかし壮絶な表情。

全身汗ばみ、ところどころ黒髪が張り付いていました。筋肉が剝きたての生牡蠣のように柔らかく頼りなく弛緩し、それでいて腹部だけは数秒おきにびくびくと波打っていました。Oの字に開いた唇から覗く舌は粘度の高い液体に見紛う程。濃ピンクのスポットライトに照らされた顔は涙と唾液でぬらぬらと光っていました。出そう出そうと躍起になって絞り出した涙じゃありません。人は本当に弛緩すると、涙が止められなくなる。せき止める力が働かなくなるのです。

美しくみられたいとか、まして点が欲しいなんて、微塵も思っていない。思っていないから、却って、凄まじく、美しい。

あの「蛸壺」の煤けた客席で私は、膝をついて縋り付き、涙を流したいような心地でした。一点の曇りもなく信奉する仏に帰依するというのは、きっとこんな心持なのだろうと思いました――。


本物のアへ顔ダブルピースは、神々しいのです。

アへ顔ダブルピースに代わる性癖は、小生の知る限りこの世にはありません。


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