表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

11.抗戦の結末

【あらすじ:地下室の侵入作戦の末、町の領主トクレスと戦うことになった有子達。戦いは有子の機転で優勢に立てたものの、不意を突いたトクレスは力を持たないマチェリカを人質にすべく彼女に迫った。間一髪でトクレスとマチェリカの間に割って入った有子だったが……。】


3000文字程度だった気がします。

 階段が終わるのとほぼ同時くらいに、通路には光源が現れた。

 と言っても、明るいと言えるほどのものではない。普段からすればむしろ薄暗い方ではあるのだが、暗闇にすっかり慣れて久しい二人の目にはその明かりは微かに眩しく映った。何しろ、周囲の色が僅かに判別出来る程度の明かりだったのだ。

 廊下に分かれ道は無い。そして視認できる距離に扉が存在した。

 今はまだ来た道からの音はしない。しかし後ろから誰かが追ってくる可能性もある。それ以前に、ここまで来た二人に引き返すという選択肢など無かった。

 マチェルダは武器を持っていない。駿は扉の向こうに何かがいても、最悪の場合には隠し持っていた剣で対応できる。必然的に、扉を開く役は駿が担う事になった。


 二人は扉の前まで歩く。

 前に出た駿がその扉に手をかけ、開いて。


 その光景、その瞬間を、目撃する事になった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その一瞬間が、私にとっては妙に長く感じた。

 マチェリカを狙って飛び掛かった領主の前に咄嗟に飛び出して、握っていた剣伝いに衝撃を感じた。目の前には動き出した時の体勢のまま、前のめりになったトクレスの姿。その目は見開かれ、口が開いていた。

 「……ガ、はっ」

 空気の塊を吐き出したかのように、トクレスの口から声が漏れる。そのまま彼は、呼吸が出来なくなっているようにハクハクと口を動かしながら、目玉を震えさせて視線を私の方に向けた。

 極度にゆっくりと時間が流れている気がした。あるいは、時が止まってしまったような感覚だった。何が起こったのかを把握できず、息をすることすらも忘れかけていた事に気づいて、ハッとして動かそうとした気管がヒュッと音を立てる。

 それを皮切りに、私と私の周りの全てが急速に動きを取り戻した。頭が一気に状況を理解し始める。

 剣の形をした神武器が、トクレスの左胸を穿っていた。刃は、恐らく心臓を貫通している。心筋の痙攣だろうか、ドク、ドクと小さく脈打つような振動を、柄を握る手のひらに数度感じた。ブラウスにじわじわと広がっていく生々しい赤い染みに、思わず生理的な嫌悪感を抱いてしまう。

 ガクリ、とトクレスが体勢を崩した。剣が重くなる。つられて私も倒れかけて、慌てて剣を引けば、ずるりとトクレスの体が剣から抜けた。踏ん張った私と対照に、彼は受け身を取ることも無いまま地面に倒れ伏す。

 重い音がして、それ以降その体はピクリとも動かなくなった。

 目を開いたまま、口を開いたまま。トクレスは既に、絶命していた。

 魔物を倒した時とは全く違う感覚。さっきまで生きていた肉を貫いた腕の重さ。消えない死体。出血に先ほどまでの勢いは無いが、血溜まりは地面になおも広がっていた。

 理解、というものは程無くして訪れる。それはこの世界に来てからも、以前の世界でも体験した事のない感覚。『そんなつもりじゃなかった』という、言い訳じみた後悔にも似た何か。

 「あ、あ……」

 殺した。私が、この手で、人を殺した。

 足が思わず後退る。唇がわなわなと震え、力の抜けた手から持っていた神武器を取り落としてしまう。カラン、と軽い音がして、白く輝く剣は棒の形に戻った。

 頭がぐるぐるする。殺すつもりじゃなかったならどうするつもりだった? この獣人の人は人間を傷つけて、それはきっと悪い事で、でもだからって命まで奪う事は無かったはずじゃないのか? けれど話し合いで解決なんて恐らく不可能だった。だからここに私達が来た時点で、戦闘になった時点でもう手遅れで、どちらかが傷付くしかなくて、…………本当に?

 本当に、殺す事は仕方が無かった事なの?

 思考がどうしようも無くなって、周りを、見回して。

 開いていた向こう側の扉から、推しと目が合った。


 「タロウさん」


 誰がどう動くよりも先に、凛とした声が私の傍から聞こえた。静かな空間の中、突如として発されたその声に、私は意識を向けさせられる。

 マチェリカが、私を見上げて強い口調で言った。

 「……貴方は、あの人が襲いかかってきたから、反撃しただけ。それだけです、から」

 考えても仕方がないと言うように。

 自分よりも随分と年下の少女に、私は一度、宥められた。

 マチェリカの言葉である程度状況を察したのか、扉の前にいた推しとマチェルダがこちらに走り寄ってくる。

 「姫路川!」

 「マチェリカ! 良かった、無事だったんだ……!」

 推しは私の前に立つ。マチェルダはマチェリカに駆け寄って、その体を抱きしめた。少女達は目に涙さえ浮かべて、お互いの無事と、再会を喜ぶ。

 対して私と推しの間には、どことなく気まずい雰囲気が流れていた。推しは私にかける言葉を量りかねている様子だし、私はそんな推しの顔をまともに見ることが出来ない。マチェリカはああ言ってくれたけど、私が人を殺してしまったことは事実だし、推しはその瞬間をハッキリと見てしまっているのだ。正直、どう思われたって仕方がない。最初の悪印象からようやくお互い慣れてきたと思ったのに、これからの旅だってぎこちなくなるかもしれない。

 「……っ!」

 そこまで考えて、命を奪ったにも拘らず推しの事しか考えられない自分に、吐き気を覚えた。考え無しに推しを襲った時と、後悔を経てなお何も変わっていないんだ私は。

 私のすぐそばにいる女の子も、どうしていいか分からない、という風に私を見上げていた。マチェルダとマチェリカも、私達の方を見ている。あまりにも言葉に詰まりすぎて、本当に何を言い出せばいいのか分からなくなってきてしまった。もう何言っても駄目な気がする。


 「……とりあえずよぉ」

 沈黙を破ったのは、ロッキンズだった。私は正直助かったという心持ちで、ロッキンズの方を見る。彼は私達の方には目を向けず、奥を見て言った。

 「人、閉じ込められてんだろ。まず何にせよ、それ助けちまおうぜ。あんま長くほっといて良いモンでもねぇだろうし」

 「あ、あぁ……」

 そうだ、捕らえられている人達を、私達は助けに来たんだった。呆然自失になるばっかりで、目的を見失ってはいけない。

 私達はロッキンズと共に、扉の前へと立つ。私が扉に手をかけた、その時だった。


 きぃこ、きぃこと何かが軋むような音がした。


 空気を切り裂くようになった音に、全員が一斉に後ろを振り返る。私がその姿を視認するのと同時に、幼さを残す声が耳に届いた。

 「随分と、大所帯でご苦労様ね」

 冷たい視線が、私達を射抜く。マチェルダが身を固くし、推しが息を飲んだのが分かった。

 大胆に開いたスカートの中の足は、片方が無い。それとは逆側に当たる方の腕も存在しなかった。頭の上には毛に覆われた獣の耳が、一つだけ、片目も、包帯に隠されているが恐らく存在しないのだろう。丁寧に〈片方〉を全て奪われた獣人の少女が、私達に向き合うように車椅子に乗っていた。

 ふいに、その少女は私達から視線を外す、その先には、血だまりに沈んだトクレスの姿があった。

 「……あぁ」

 まるでため息のような、口から漏れ出てしまったかのような小さな声。少女は車椅子から立ち上がり、そしてそのまま、倒れ伏したトクレスの方へ動こうと身体を揺らした。

 だが、膝から下の無い片足が重荷となって、少女は驚くほど呆気なく転ぶ。トスリ、と鳴った音は、あまりにも軽い。ずる、ずると彼女は片腕だけで、ゆっくり、ゆっくりと地面を這いずった。

 私達の誰も、動けなかった。誰もが少女の動きを見るしかなかった。その行為に、私達にとって何かの意味がある訳でも無いだろうに。

 少女の額には汗が滲む。微かに顔を苦痛に歪めながら、少女はトクレスの元に辿り着く。

 「にいさま」

 ぽつり、と少女は呟いた。

 領主の死体の傍に寄り添いながら、彼女はその頭を抱きかかえるように、左腕と、肘から先の無い右腕で囲い込み、自らの胸に預けた。血に染まったスカートの裾が地面に広がっている様は、何かをモチーフにした絵画のようにも見える。

 ぎょろりと、その目がこちらを向いた。


 「わたしはお前たちを、絶対にゆるさないから」

 例え、死んだとしても。


 そう、彼女は呟いた。

 それっきり、下を向いて動かなくなった。



 「……行こうぜ」

 ロッキンズの声で、全員がハッとしたように意識を取り戻した。マチェリカがマチェルダの服の袖をぎゅうと掴む。応えるように、マチェルダは妹を抱き寄せた。

 私は背後の光景から逃げるように、扉のノブを掴み、奥へと押し開けた。

 扉の向こうが、露になると。



 「よぉ、ご苦労さん」



 知らない少女が、そこにはいた。

十一話を読んで頂きありがとうございました。書く気が完全に薄れてしまってだいぶ書いたこと忘れてます。今後はなんとかメモ帳を頼りに進めていきたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ